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ちょっぴり焦がしたプリンタルト【魔】

「うーん。気持ちのいい朝ね」

 気持ちの良い朝日に包まれながらラズベリー色の髪を梳かしているアズハール。たまたま買い物で当てた海外旅行のチケットで、普段見ることのない外の世界を満喫している。普段は煙の妖精として存在しているのだが、いつの間にか人間の姿になることが常となっていて、自分が煙の妖精だということを忘れていることもしばしばあるとか。

 そんなアズハールは、自分が宿泊しているホテルの一室から朝日を拝んでいた。窓を開け朝の爽やかな風を体で受け止めている時間は、自分が住んでいる世界では味わうことができない体験で、今こうして過ごすことができることに感謝している。うんと体を伸ばし、体の中にある空気と朝の空気を入れ替え大きな旅行鞄から着替えを取り出し袖を通した。白いシャツに黒のショートパンツ。靴は旅行先で見つけた黒のハイブーツを選び、外へと散歩に出かけた。


 朝の町は静かでありながら、数多く立ち並ぶお店からは小さな熱気を感じる。どこもモーニングの準備をしているのか、あっちではグラタン、こっちではコーヒーの匂いが漂い起きたてのアズハールのお腹をくすぐってくる。

「んーっ! 朝のお散歩って気持ちがいいわね。……お腹も空いちゃってるけど」

 ぐうと鳴るお腹をさすりながらアズハールは散策を続けていると、どこからか焼き立ての小麦の匂いが漂ってきた。甘く香ばしいその香りに誘われるようにアズハールは足を動かすと、そこは小さいパン屋さんだった。店内は暖色系の明かりが灯り、中を覗くと白い帽子を被った人ができたてのパンを手際よく並べている様子が映っていた。その姿に心を奪われたアズハールはゆっくりと扉を開けて中へと入った。からんからんという軽い音のドアチャイムが店内に響くと、その音を聞いた白い帽子を被った人が元気よく挨拶をしてくれた。

「いらっしゃいませ。おはようございます!」

 白い帽子を被った人の元気に圧されそうになりながらも、アズハールは軽く会釈をして店内へと入るとそこには種類豊富なパンがずらりと並んでいた。

「うわぁ……美味しそうっ♪」

「どれも焼き立てですよ。お好きなものお選びくださいね」

 白いトレーと銀色のトングを持ち、アズハールは早速目にも鮮やかなパンを眺めた。シンプルなクロワッサン、ぱりぱりに焼かれたバケット、サーモンとオニオンが挟まったカスクート、セサミバンズの中にたっぷりのサラダが挟まったベーグル。ほかにもジャムが入ったベーグル、ジューシーなハムがたっぷり挟まったサンドイッチ、イチゴとブルーベリーがホイップクリームで彩られたパイなどスイーツ感覚で食べられそうなものまでと非常に種類が豊富で、アズハールはどれにしようか決めかねていた。

「どれも……どれも美味しそう」

 もう決められないとばかりに唸ったアズハールは、白い帽子を被った人に今日のおすすめを聞いてみることにした。いつもなら自分でささっと決めるのだが、こんなにも種類が豊富だと選ぶのも嬉しい悩みであった。

「今日のおすすめは、二種のベリーホイップパイと、バター香るブール、さっくさく食感が癖になるアーモンドクロワッサンです」

 一つ一つ指を指しながらおすすめを教えてくれた人にお礼を言うと、アズハールは早速おすすめのパンをトレーの上にのせた。あとは気分で一つ選んでカウンターへと持っていき精算を済ませた。焼きたてのパンを丁寧に紙袋の中へと詰め終わると、帽子を被った人は満面の笑顔を浮かべながら手渡してくれた。

「ありがとうございます!」

「あ……ありがとうございます!。いただきます」

 紙袋から伝わってくる焼きたてパンの温もりを感じながら、アズハールは町を歩いた。せっかくだし食べながら歩くのなんてどうだろうと思ったアズハールはおすすめしてくれた二種のベリーホイップパイを取り出した。ホイップが落ちないよう慎重に包みを外してから口に運んだ。

「ん~! 甘酸っぱいベリーがホイップと合うね。ホイップもそんなに甘くないからどんどん食べられちゃうよ~!」

 さっくさくのパイの上にのった二種のベリーがホイップと混ざり、絶妙の甘さを口の中で奏でていた。あっという間に食べ終わると、次はさっくさくのアーモンドクロワッサンに手を伸ばした。こちらもさっくさくのクロワッサンの上に砕いたアーモンドがまぶしてあり、バターの香りと一緒に香ばしいアーモンドの風味も楽しめるパンとなっていた。

「こんなに贅沢な朝ごはんは今までになかったなぁ。なんか楽しい」

 見知らぬ土地で知った美味しい出会いに、アズハールは楽しくなってきたのか足取りが軽やかになりながら朝の町の散策を再開させた。きっとまた素敵な出会いがあると信じて。

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