とろり甘い一口みたらし団子【神&魔】
「修学旅行……だって」
「ああ」
「しかも……異世界……だってさ」
「ああ」
「どうしよう。あたし、異世界行ったことないんだけど」
「ああ」
「しかも、その異世界って観光地として有名なんだってさ。どんなところなんだろう」
「ああ」
「……アマテル君。さっきから曖昧な相槌ばっかりだけど、どうしたの?」
「別に? 話は聞いてるから続けてくれ」
「……もう……はぁ」
とある学園の屋上でランチタイムを楽しんでいるまだ幼さが残る少しやんちゃな顔、白銀の髪色にまるで牡牛のような角を生やした少年─アマテルと、深紅の髪色に内側へ巻いた角を生やした少女─シェラハ。二人はこの学園に通う生徒であり、同時に幼馴染でもある。なので、二人はあまり言葉を発さずとも通じ合える仲ともあり、模擬戦闘に対しては絶大のコンビネーションで相手を圧倒するのだが、会話となると非常に端的で終わってしまうこともしばしば。シェラハが何度も声をかけてもアマテルは牛乳パックを持ったまま天を仰いでいた。
「アマテル君。もしかして、そんなに興味ない……とか?」
「……まぁ、そうかもしれないな。おれはそんなことより、体を動かしていた方がいいし」
「……でも、学園生活で一回しかない修学旅行なんだよ? 楽しまないと損じゃない? それにさ、体を動かすことなんていつでもできるんだしさ……ね?」
「……」
たまごがたっぷり挟まったサンドイッチを片手に、シェラハは必死にアマテルを説得した。無理にいかなくてもいいのだが、シェラハのいう通り学園に通っている間で一回しかない修学旅行。戦わなくてもよい日といえばいいのだろうか……。
「まぁ……悪くねぇか」
「……え? じゃあ……」
「ああ。仕方ねぇ。行くか」
「……うんっ!」
アマテルは残っている牛乳を一気に飲み干し、シェラハに笑顔を向けるとシェラハは笑顔の花を咲かせ、アマテルに抱き着いた。
アマテルとシェラハ。二人はもう一つ、大事なことを隠していた。それは友達はもちろん、先生にも話していない秘密。それは、二人が十二星座の皇子ということ。皇子としての使命とは、とある封印を守るというもの。もし、その封印が解かれてしまえばこの世界は滅亡してしまう。それを防ぐために、十二星座の皇子たちはその封印を解こうとする者を排除できるよう、それぞれに力を授かっている。なので、戦いからは決して逃れることはできないため、二人は学園生活を送りながら戦う訓練をしており、いつしか学園内ではその実力を認められている存在である。
そんなときに担任から聞いた修学旅行の話。戦いを忘れ、観光するのも悪くはない。だが、もしその間に封印を解こうとするものが現れたら……アマテルはそのことが気がかりだった。
「そんなに心配ならさ、フェルグさんに相談してみようよ。たぶん、笑いながら『行っておいで』って言ってくれると思うよ」
「……そうだな。連絡してみるか」
フェルグとは十二星座のうお座を司る皇子で、長身痩躯にレンズが小さい眼鏡をかけ、非常に落ち着いた雰囲気を持つ知的なお兄さんだとシェラハはよく言っている。アマテルはそんなフェルグに連絡をするため、ポケットから端末を取り出し修学旅行の件について連絡してみた。すると程なくして返信が届いた。
「はやいな。ねぇ、なんて返信きたの?」
「……ほら」
アマテルが端末をシェラハに見せると、そこには『せっかくだし楽しんでおいで。こっちのことは気にしないでいいからね』というメッセージとともに笑顔のスタンプが送られていた。
「ほら。いった通りだね。じゃあ、アマテル君も修学旅行の準備しよ!」
「わーったから。そんなに引っ張るな」
行くと決まるとシェラハは楽しみで仕方がないのか、その様子を全身から溢れさせながらアマテルの袖を引っ張った。アマテルはそれに引きずられるように学園内へと消えていった。
「えー、ではここからは自由行動です。集合時間に遅れないよう気を付けて行動するように。では、解散」
担任の先生から解散を告げられると、生徒たちは事前に決めていたコースへ向かうため散り散りになった。一人また一人といなくなると、気が付けばアマテルとシェラハの二人だけになってしまった。実は準備に時間を取られてしまい、二人はどこへ行くかを全く打ち合わせしてなかったのだ。見ず知らずの土地でガイドブック片手にどこへ行こうかとシェラハはいうのだが、アマテルの答えは「どこでもいい」だった。
(せっかくアマテル君と二人っきりなんだもん。どこかでいい思い出作りたいよ……)
ガイドマップとにらめっこしていると、アマテルたちの世界では見ない服を着た女性が二人に声をかけた。
「あら? どないしはりました?」
「あ……えっと……その……」
「学校の制服……ということは、修学旅行?」
独特のイントネーションに焦る二人だが、今の状況をその女性に伝えると女性はすぐに理解をし「わかりました」とだけいい、少しの間口を閉じた。そして二人にガイドマップを貸してほしいというとなにやらさらさらと書き始めた。
「いま、うちらはここにいます。ここから真っすぐ行くと石畳の通りに出ます。道なりに進むと急な上り階段を上り切って、右へ曲がると塔が見えます。そこでよく写真を撮ってる人を見かけますが、どうでしょ?」
女性におすすめ場所を教えてもらった二人は、何度もお礼を言いその場所に向かうことにした。途中、急な石階段のある建物や黒くて大きな車輪がついた乗り物の傍を通り、脇道を入ると女性が案内してくれた通り、急な石階段が見えた。
「たっけぇな……でも、これも鍛錬だと思えば」
「アマテル君。旅行中はそういうの考えるのやめよ?」
「?」
二人は急な石階段を上り終え、女性の案内通り右に曲がってしばらく進むと下り坂の途中に見える塔のような建物があった。建物を挟んでところどころに咲いているピンク色の花は塔を彩り、心地よい春の日差しはその場にいる人に言葉にならない感動をアシストしていた。
「うわぁ……アマテル君。今、誰もいないよ……」
「すげぇな……異世界って……」
「ほらほら。アマテル君。こっち向いて。はい、チーズ」
「っておい」
端末に付属されているカメラを内側に向け、二人は塔のような建物を背景に写真撮影をした。シャッターを切る刹那、ピンク色の花びらが二人の顔の前でふわりと舞い二度と撮れない一枚が完成した。
「ねぇアマテル君! このピンク色の花びら、すごいよ!」
「へぇ。きれいに撮れてるじゃん」
決定的な瞬間が撮れたシェラハは嬉しそうに端末を見つめていると、どこからか声が聞こえた。それからしばらくすると、誰もいなかった塔のような建物付近にはたくさんの人が集まってきた。二人が呆気に取られていると、あっという間に人だかりができていた。
「ふー、危なかったね。もう少し遅かったら写真撮れなかった」
「そうだな」
二人は人だかりを縫うように移動し、人気のないところで一呼吸を置いた。人だかりとは反対を見たシェラハは「あっ」と声をあげると、また元気よくアマテルに提案した。
「まだ上があるみたい。ねぇ、せっかくだしてっぺんまで行ってみない?」
「ああ? んだよ、まだあんのか」
「いいじゃん。ほら、アマテル君。行くよ」
「っておい。そんなに引っ張んなよ」
シェラハがアマテルの袖を引っ張ると、仕方ないとばかりについていくアマテル。しかし、アマテルは修学旅行に来てよかったと思っている。理由は、守るべき存在が増えたから。最初は行く気がなかった異世界も、実際に来てみると中々良くて新鮮だった。そしてなにより、シェラハがこんなに楽しそうしている異世界にまた何かのきっかけで来ることが叶うのなら、ぜひとも来たい。
「絶対に……奪わせはしない。この世界も……」
「ほーら。アマテル君。こっちこっちー」
いつの間にかシェラハの手が外れていたのか、一人置き去りを食らっていたアマテルにシェラハの声がかかる。シェラハは露店で出されている緑色の飲み物に興味津々だった。
「冷たく冷えてるよ。一本どうだい?」
「えー、美味しそう。ねぇ、アマテル君も飲もうよ」
絶対に守ると誓ったアマテルは、なんだか肩の力が抜けたのかふっと笑いながら露店に近づきシェラハと店主が差し出す緑色の液体をまじまじと見てうんと頷いた。
「よし。じゃあ、二本買う」
「毎度あり!」
購入した二人は早速、緑色の液体の入ったボトルの蓋を開け一口含んだ。苦味のある中にほんのりとした甘みの液体はくせになる味で、二人はあっという間に飲み干してしまった。空になったボトルをバッグにしまうと今度はアマテルが何かに興味を示し、走った。
「なぁ、シェラハ。これ、どうだ?」
「えー、アマテル君が珍しい。どれどれ」
それは自分たちの世界にはない、変わった形の髪留めだった。まるで棒のようなものが髪留めということに興味を抱いたアマテルはシェラハに似合いそうなものを一つ選んだ。
「これ……なんかどうだ」
「あ、これ。さっきのピンク色のはなびらだ。きれい」
先端にピンクの花びらの飾りがつけられた棒のような髪留めを見つめていると、店主が嬉しそうに頬を緩ませながらシェラハの髪を器用に結っていった。
「これで完成。どうだい?」
「すごい……たった一本の棒なのに。こんなにきれいにできるなんて」
「うふふ。そんなに喜んでもらえるなんて、こっちまで嬉しくなるね」
店主に結い方を教わると、段々慣れてきたのかあっという間に自分の髪を結いあげてしまったシェラハ。その姿はいつもみるシェラハよりもほんの少し大人っぽく見えた。
「どう? アマテル君。似合う?」
「あ……ああ。似合ってる」
「やったぁ。アマテル君にそう言ってもらえると嬉しいな」
「うっふふ。ほかにもあるから、よかったら見てってね」
そういい、店主は奥へと戻るとアマテルはシェラハが着けているものとは別に無作為に二本の棒のようなものを持ちさっきの店主に声をかけた。そしてなにやらやり取りをしたのち、アマテルが戻ってくるとそれをシェラハに手渡した。
「これ……おれからの……」
「え……いいの?」
「ああ……」
「ありがとう! 大事にするね。あ、あとさ、せっかくだしほかのみんなにお土産買っていこうよ」
「土産かぁ。何がいいか」
「フェルグはさっきの緑色の液体のお菓子でもよさそうだけど……あとは……また二人で選ぼう」
「そうだな。って、そんなに急がなくたって土産は逃げねぇよ」
「えへへ。なんか嬉しくなっちゃって。この先に何が売ってるか見てくるね」
「だぁかぁらぁ。って、しゃーねぇな。あいつは」
うきうきとした足取りで歩くシェラハの髪には、あのとき撮影したときと同じピンク色の花びらが揺れていた。




