吸って楽しいカラフルタピオカティー【魔】♐
闇の衣を纏ったとある大きな要塞の出口付近。それは黒い服に身を包み、じっとしていれば気づかれることは少ないそんな暗さの中、二つの影が走っていた。なぜわかったのか。それは地を蹴る度に砂が小さく後ろに跳ねたからだ。空に浮かぶ月や星々が美しくだけど寒々しく見える空の下、二つの影はただ一直線に出口へと向かっていた。手には何か掴んでおり、それを持ち帰ろうとしているのは明白。そして出口があと少しというところで若干、速度が落ちた。もう目の前だと安堵からきたものなのだろう。二人は互いに顔を見合わせ成功したぜとばかりに拳をぶつけ合うと、ラストスパートをかけ出口へとひた走った。
「目標確認。射撃します」
闇に紛れて見える目標にめがけ、極めて冷たい言葉を吐き弓を引いた。冷え切った空気の中、手もかじかんでいるはずなのだが、迷いのない射撃と同時に目標の一人がその場に崩れた。「あっ」という小さな悲鳴が聞こえたのだが、弓を射たものはそれに耳を貸すことなく、倒れた仲間にすぐに近づき何事かと言いかけた瞬間、同じ末路を辿った。辺りに沈黙が戻ると、弓を射たものはポケットからなる電子機器を取り出し、短く答えた。
「目標沈黙。オーバー」
「アルカ。ご苦労。次の目標まで少し時間がある。休憩しておいてくれ」
「了解」
ぶつりと通信を切り、電子機器をポケットにしまいふうと小さく息を吐いた。その息は白く、いかに外が寒いかというのを知るには十分すぎた。そんな寒空の下、アルカと呼ばれた少女は静かに得物の手入れを慣れた手つきで行うと、最終チェックをした後腰元へと収納した。
「……ふぅ」
薄紫色の髪を軽く手櫛で整え、身を小さくして次の指示があるまで待機しているアルカ。そんなアルカがさきほどしまった弓には斜めに向けて何かを示しているかのような矢印の印が刻まれていた。それはアルカがいて座の皇子だということを示していた。その目的はとある封印を守ること、そしてアルカにはそれとは別の目的がある。それは、情報漏洩を防ぐこと。もしそれらが外へ出てしまっては世界に影響を及ぼしてしまう場合、こうして情報漏洩を防ぐことが主な仕事である。そして、その司令塔となっているのは。
「カマリ。現場に動きあり」
「わかった。慎重に行動するように」
カマリ─てんびん座の皇子がその司令塔を担っている。こうして情報漏洩を防ぐことは常に完璧にこなしているのだが、ほかの皇子たちはこのことを知らない。なぜなら、カマリもアルカも口を開いていないからだ。なぜ開かないのか、それは開く必要がないからだと特にカマリの方は強く思っているようで、いつもはにこやかに他の皇子たちと会話をしているが、裏の顔はこうしてほかに情報が出回ってしまわないようアルカに依頼し、掃除を行ってもらっている。そして決して口外しないという徹底ぶりだった。
「……」
バッグから弓を取り出し、静かに引いた。目標と呼ばれた人影はさきほど倒した人影二人を回収すると、そのまま何をするわけでもなく、要塞を後にした。
「……こちらアルカ。目標の回収が終了。回収者を射撃か否か」
アルカが電子機器に報告をすると、すぐにノイズ交じりのカマリの声が聞こえた。
「その必要はない。そのまま放置で構わない」
「了解」
アルカは弓を折りたたみ、回収者がいなくなるのを確認するとまるでその様子を見ていたかのようにカマリから連絡が入った。
「今日はもう大丈夫みたいだ。気を付けて戻るように」
「了解」
短いやりとりを終え、アルカは本当の意味で緊張感をほぐすことができた。腰元のバッグから水筒を取り出し一口。すっかり冷え切ってしまっているが、アルカの喉と心を潤すには十分だった。こくこくと液体を飲み、小さく息を漏らすとアルカは蓋をしめながら空を仰いだ。
「……わたしは……これがなくなったら何をするのだ」
ふとそんなことを考えてしまった。今は封印やら依頼やらがあるから、アルカはこうして働くことができているのだが、もし、封印について心配することがなくなったら? こうした依頼がなくなってしまったら……? そうなってしまったらどうしてしまうのか不安になったアルカは小さく頭を振った。
「……無駄だな」
今は自分自身ができる最大のことをするべきだなと独り言を言うと、アルカはすっくと立ちあがり要塞をあとにした。守ってみせる。情報も、ほかの皇子たちも。あまり表立ったことはできないけど、バックアップならできると自分に言い聞かせ、目標たちと同様、闇を駆けた。




