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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット1 地獄の採華(地獄系オフィスストーリー)
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★むせ返り注意? 暗黒きなこ棒【魔】

 今日の地獄はいつもよりも忙しかった。予想を上回る死者の数に、獄卒たちも情けない声をあげながら業務をこなしていた。周りがひいひい言っている中、地獄の裁判長─閻魔大王とその助手であるタカムラはいつもと変わらず淡々と業務をこなしていた。

 ピンク色のロングヘアーに白いぱりっとしたブラウス、黒のビジネスパンツにやや高めのヒールを履き、手には魂の罪を映し出すといわれる鏡を手にしている。その鏡に映る情報と罪人の証言を元に判決を下し、書類にサインをし傍にいるタカムラに手渡すという流れである。タカムラは黒のビジネススーツに白いワイシャツ、赤いネクタイをきゅっと締め、短く切りそろえられた黒髪からは清潔感すら感じられる。お気に入りの眼鏡のブリッジを押し上げながら資料を整理していく姿は、周りの獄卒たちからも人気が高い。

 元々、タカムラはここ地獄側の人間ではなく、夜間の間だけこうして閻魔大王の補佐を行っている。昼間はというとタカムラが暮らしている人間界できちんと仕事をこないしているというのだから、根っからの仕事人間である。そんなタカムラを時々心配しているのか、閻魔大王はタカムラに休暇をとってもいいと言うも、タカムラは首を横に振り、それを拒んだ。それどころか、逆に閻魔大王をもっともっと補佐していきたいと返ってきたときは、閻魔大王は今までの威厳はどこへいってしまったのかと思うほど、赤面してしまったのだとか。それを知ってか知らずか、タカムラは顔色ひとつ変えずに資料の整理を行い待機している獄卒たちに整った資料を渡しまた次の資料へと手を伸ばす。


 昼は人間界で、夜間は地獄でのダブルワークは普通の人間であれば三日、いや初日で音を上げるところをタカムラは涼しい顔をしてこなしているのを獄卒たちは「あいつが鬼なのではないか?」と疑い始めていた。それが聞こえたのか、タカムラは自身はれっきとした人間であることを伝えると、資料の整理へと視線を移した。減らしても減らしてもきりがない書類の山と格闘をすること、数時間。ようやく一息つけるところまでたどり着いた閻魔大王とタカムラは、思わず声が出てしまった。

「タカムラ、すまない。こんなに時間がかかるとは思っていなかった」

「気にしないでください。わたしは好きでここにいるのですから」

「……まったく、お前という奴は」

 普段は見せない、ふっと笑う閻魔大王。しかし、ここまでの激務を二人でこなしていくにはさすがに限界を感じてきているのか、閻魔大王は手元にある別の端末を操作し始めた。何度か指で端末を操作していると、ある個所で閻魔大王の指がぴたりと止まった。何を操作しているのだろうと気になったタカムラは閻魔大王に声をかけると、そこには一人の青年が映っていた。

「こいつは火車と言ってな。あることがきっかけでこいつと一戦交える形になったのだが、中々の実力をもっていたから、地獄には落とさずここで獄卒として働いているんだ。性格に少し難ありだが……まぁ、入り口であるここをスムーズに捌くことができればいいだろうと思ってな」

 タカムラが端末をのぞき込むと、そこには紫色多めとアイスブルー少な目のセミショートヘアに、猫のような耳がその髪からぴょこんと飛び出している。一応、仕事着だと思うのだが、白地に襟元が赤色のベストに黒のシャツ。そして羽織の背中には何やらどこかでみたことがあるようなないようなおどろおどろしい刺繍が施されていた。そして腰あたりには青白く光る尻尾のようなものがあり、彼が人間ではないということを物語っていた。黒のパンツに先のとがった黒いビジネスシューズを履いている姿は一見営業かなにかと間違えてしまうのだが、彼は元々悪人の亡骸を奪うという悪さをしていた。そしてそんな悪人をいたぶるのが好きな彼は亡者を阿責ここでの仕事は天職だったらしい。今は映っていないが彼は手に嵌めた爪に魔力を付与させ、逃げ惑う亡者たちと悪趣味なおいかけっこをするのが好きらしい。閻魔大王も彼が仕事をしているのなら、特に責めはしないというスタンスの中ここで自分の業務をこなしている。

「一時的ではあるが、ここに異動してもらう。そうすれば、各地獄へ送るのも少しは短縮されるはずだ」

「それは助かりますね……ふう」

 人手が来てくれるという安心感からか、タカムラはふっと気が抜けてしまいその場に座り込んでしまう。

「お、おい。タカムラ。大丈夫か?」

「あ……はい。大丈夫です。ご心配おかけし、申し訳ないです」

「お前が謝ることではないというのに……」

「いえ、これも自分を管理できていないのが招いたことなので……。でも、もう大丈夫です」

「それは違う。ここまでお前に甘えていた私の責任だ。明日は大事をとって休んでくれ」

「……閻魔様」

「それ以上言うな。明日は休め。これは命令だ」

「……畏まりました」

「……無理……するんじゃない。心配するだろう」

 タカムラが部屋を出るとき、ぽつりと呟いた閻魔大王の顔は地獄の裁判長ではなく一人の女性としての顔だった。


 閻魔大王に無理やり休暇を取らされた翌日。体調もよくなり、裁判を行うホールに見慣れない人物が立っていた。

「あー、タカムラパイセン、ちっすちっすー」

「……あの……どちら様ですか?」

「んな! オレのこと知らないんすか? オレは閻魔大王様に実力を認めてもらった火車っす!」

「……あぁ、そういえば先日閻魔様から写真を……」

「そうなんっすね。今日、パイセンと一緒に仕事ができるって聞いてたんで、楽しみだったんすよー」

「そ……そうか。今日はよろしく」

「うっすうっす!」

「火車。それに……タカムラ。もう大丈夫なのか?」

「ええ。おかげ様で。昨日、休んだ分、しっかり働きますので」

「……またそうして無理をしようとする。ほどほどにな」

「はい」

 軽く今日の地獄参列予想をたててから、各自ポジションにつきいつでも仕事が始められる体制をとると、程なくして閻魔宮の扉が獄卒たちの手によって開かれた。そして行儀よく一列に並んだ悪人の魂を一つ一つ鏡に映し裁判を行い、タカムラへ書類を渡し作成した資料を火車が担当行のトレーへと運んでいく。この時、火車はほかの魂たちが脱走したり列を乱したりしないよう監視をしながらの作業を受け持った。こうして火車とタカムラの連携でいつもよりも効率的に魂たちを捌くことができたおかげで、予想していた終了時刻よりも早く終えることができた。

「これで終わりみたいっす」

「……思っていたよりも早く終わったな」

「ええ。そのようです。これも火車さんのおかげです。ありがとうございます」

「いやいた、それほどないっすよ。ってか、タカムラパイセンの資料作成時間の短さには驚いたっすよ」

「ありがとうございます。明日もお願いしますね」

「うっすうっす」

「今日はここまでにしよう。扉を施錠して明日に備えてくれ。火車、頼んだ」

「うっす!」

 閻魔大王が閻魔宮の鍵を手渡すと、嬉しそうに受け取る火車。

「あ、閉めとくんで二人は先行ってくださいっす」

「そう……ですか。じゃあ、お願いします」

「頼んだぞ。そういえば、タカムラ、例の件だが……」

「はい。資料は整っていますので、一度ご確認を……」

「お前は……どこまで先を読んでいるのだ、時々お前が怖いぞ」

「気のせいです。では、緑茶と共に」

「ああ。お前の淹れる緑茶、久しぶりだな」

 何やら楽しそうに話している二人を見送った火車。扉が完全に閉められたのを確認した火車は、笑顔から一変し嫉妬に歪んだ。

「パイセン。なんすかあれ。気に入らないっすね。それに、魂を整理したのオレなんだし、閻魔様ももっとオレを褒めてもいいんじゃないっすかね……」

 ぶつぶつと独り言を言っている火車の手には、鍵が握られていた。そして、タカムラのデスクには書き途中の資料がそのままになっていた。

「……いいこと思いついたっす」

 火車は口の端を持ち上げ、不気味に笑い始めた。


「で、ここがこうなると予想されるので……」


 ズズズズン


 何かが落ちたような物音に別室で打ち合わせをしていた閻魔大王とタカムラは顔を見合わせた。すぐに音のする方へと駆け付けると、閻魔宮の扉が開け放たれていた。そして扉の前には気絶しているのか、火車の姿があった。

「火車! 大丈夫か! しっかりしろ!」

 閻魔大王が火車を介抱すると、意識が戻ったのか火車はゆっくりと目を開けた。そして小さな声で何かを呟くと再び目を閉じた。

「おい! 火車! 資料がどうした?」

 資料という言葉に反応したタカムラは火車から少し離れたところに散らばっている書類を拾い上げると、それはさっきまでタカムラが書類整理をしていたものだった。しかし、業務が終わり気を抜いてしまい、そのまま放り出してしまっていたものだ。しかし、それだけならまだしもタカムラはその資料を読んで思わず大きな声を出した。

「な……なんだこれは」

「どうした、タカムラ」

 閻魔大王が資料をひったくり、目を通していくと書類を持つ閻魔大王の手がぷるぷると震えていた。やがて絞り出すように声を出す閻魔大王にタカムラは恐怖を覚えた。

「タカムラ……この資料は一体なんだ」

「あ、あの……閻魔様……」

「なんだと聞いている」

「そ……その……これは……わたしには書きおぼえが……」

「だが、お前以外この資料を理解できるものはいない。となれば、必然的にお前に疑いがかかる」

「……」

 その資料に書かれていたのは、巨大な亡者についての報告書だ。大罪を犯した罪人はいくつか分割して地獄へ送られるのだが、そこには一度にまとめて送られると書かれていた。それも一人だけでなく、大量。今までは一人の亡者だったのが、大罪を犯した者がいっぺんにここへ流れつくとなると話は別だ。大渋滞が発生し、休む間もなく働くこととなる。そしてその代わりを担える人材はいないので、もしこの資料の通りとなれば閻魔大王はもちろん、タカムラも激務の嵐に見舞われるということになる。

「……何かいうことはないのか」

「閻魔様。聞いてください。この資料は確かにわたしが作成し、処理をしていたものです。それに、放っておいてしまったのもまた事実です。わたしの管理ミスなのは認めます。しかし、ここまで情報を書き加えた覚えは一切ありません。それに、あの状況下で書き加える余裕なんてございません」

「……確かに妙だな」

「閻魔様もあの状況の真っ只中におられました。そんな中、別の資料に手を加える時間はなかったと思います」

「……」

 言われればそうだ。特に閻魔大王は罪状を言い渡すまでにそれはもう多くの確認事項がある。それをひとつとして漏らさないように書き記さなくてはいけない。誤字脱字なんてもっての外だというのに、別の資料に気を移していてはいけないのである。それに、よく見るとタカムラが使用している筆記具よりも薄いインクで書かれているような気がした閻魔大王は眉をひそめた。

「これは……」

「如何されましたか」

 閻魔大王の指す箇所を見るタカムラ。そこだけありえない薄さの筆記具が使用されていることがわかったタカムラは、ある可能性を考えた。それは……。

「これ……まさか……」

 震える声を発しながらタカムラの視線は、気絶しているフリをしている火車へと向けられていた。閻魔大王は火車の後ろ髪をぐいと引くと、火車は「いででででで!」と悲鳴をあげながら泣き始めた。

「ちょっとちょっと! 痛いっすよ!」

「……なるほど。そういうことか。だが、今はそれどころではないな」

「ええ……仕方ありません」

 閻魔大王は罪状を映す鏡を、タカムラは閻魔大王からもらった電々太鼓を手にすると閻魔宮の外から大きな足音を響かせながらやってくる罪人へと向けられた。

「私は加減を知らぬのでな。裁きを下す」

「さぁ、裁かれなさい」

「え? もしかして、オレ……まずいことした感じっすか?」

「今のこの状況を見て安心だとお思いですか? とにかく、こいつを長居させては明日以降の業務に支障がでるのは確定です。なんとしても、こいつをどうにかしないといけません」

「火車……貴様。自分でしたことの責任はとれる……よな?」

 八大地獄の一つ、八寒地獄よりも冷たい視線を送られている火車はがくがくと震えながら何度も頷くと、銀色の爪を装着し、戦闘態勢をとった。

「まずはわたしが火車さんのサポートを行います! 剛力波!」

 タカムラが電々太鼓を鳴らすと、火車の爪部分にタカムラの魔力が付与された。そこに火車自身の魔力を付与を重ねれば相手に大打撃を与えられるはず。火車はビジネスシューズのまま地を蹴り、遠くで咆哮をあげる巨大な罪人めがけ駆けた。ものの数秒で罪人の足元に到着した火車は、足元をひょいひょいと伝い、首元へ到達すると鋭い爪を突き立てた。

「いいっすねぇ! その声、もっと聴かせてほしいっす!」

「調子に乗るな」

 閻魔大王が鏡で罪人の弱点を調べ、それを念として送ると火車は罪人の弱点である耳裏を執拗に攻め続けた。

「ほらほらほら! 抵抗しないと終わっちゃうっすよー!」

「危ない! 防壁波!」

 タカムラの咄嗟の判断で火車の周りに防護壁が展開される。耳を澄ますと聞こえる小さな虫が耳元で羽ばたくような音が聞こえる球体に包まれた火車は、罪人からの一撃を正面から受けなくて済んだ。

「さすがっす。パイセン」

「あまり遠くに行かないでください。適度な距離でお願いします。こちらのサポートが届かない可能性がでてきます」

「わーってます、パイセン」

 タカムラのサポート、閻魔大王のサーチ、そして火車の圧倒的火力の前に巨大な罪人をすべて鎮圧することに成功した。本当に終わったのかを調べるため、閻魔大王は火車近くに妖気で反応する虫を飛ばし警戒をしてみたが、その気配はなかった。つまり、脅威は去ったということを指していた。

「はぁ……危なかったです……」

「まったく……」

 その場にへたり込むタカムラと、頭を抱える閻魔大王。そして、能天気な笑顔で帰ってくる火車の声を聴いた二人はぎろりと睨んだ。

「火車……貴様には仕置きが必要のようだな……」

「火車さん。大丈夫ですよ。わたし、全然怒っていないですから」

「閻魔大王様……オレ、褒められたかっただけなんっす……あれだけの魂を捌けたことを……もっと……」

「戯言は聞きたくない。処罰は追って連絡する」

「そ……そんなあ……パイセンからも何か言ってくださいよ」

 涙目で訴える火車に、タカムラは何かいいアイデアが浮かんだのか満面の笑顔で火車を見つめる。

「火車さん。ちょっとこちらへ」

「は……はひ……」

 タカムラは自分のデスクから紙の山を取り出すと、火車の前にどんと置いた。

「これ、処理をお願いします」

「え……書類……いーやーだー! オレ、体を動かしていたいっすーー!」

「拒否しても構いません。しかし……閻魔様がなんていうでしょうかねぇ」

「うう……パイセン。笑顔が怖いっす……」

「何か言いましたか?」

「い……いえ……言ってないっす……」

 タカムラからの処罰として、まだ処理が完了していない書類の整理を言い渡された火車。普段、書類処理などやったことのない火車からすれば拷問の他なんでもなかった。そのときの火車の顔は、責め苦を受け続けさせられている罪人とほぼ一緒だった。

 それから火車は現場に復帰するまでに、相当の時間を要したというのはまた別の話。

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