スムージーフラワーのフラッペ【魔】
「だ……誰も……いないですよね……」
木々の間から辺りの様子を伺うウサギのような耳をした長耳族の少女─ピララレータ。ミルクをたっぷり使ったモンブランのような髪に、ヒマワリを思わせる光り輝く琥珀色の瞳。やや短めの丈のワンピースに金刺繍の入った白いエプロンをつけ、肩にはエプロンと同じ刺繍を施した布製の斜めかけ鞄をかけている。そしてその白い鞄の中にはピンク色の花がたくさん詰め込まれていた。
「これは……大事な大事なお薬になるお花ですから……」
ピララレータはこの花を使って薬を作ろうと、木漏れ日が差し込む森の中へと入り集めていた。この花はある一定の季節と時間でしか採ることができない非常に貴重な材料である。そのため、時期を計算し、タイミングと僅かな運を味方にしないとこの貴重な材料を採ることができないのである。
そろそろ鞄の中がいっぱいになろうとしている頃、ピララレータの耳に何か不穏な音が届いた。がさがさと乱暴に歩いているような音がピララレータの耳に入ると、警戒心を強めたピララレータは大きな木の後ろに隠れ息を潜めた。
(なに? だれ?)
臆病なピララレータは怖さのあまり、足はがくがくと震えだしその場から動くことができなくなってしまった。でも、いったい誰がということがどうしても気になったピララレータはゆっくりゆっくりと木の陰からその姿を確認した。
「なんじゃこの花は。こんな花が高く売れるとか信じられねぇな」
「いやぁ、それが本当なんですよ。それに、滅多に採れないことで有名らしいっすよ」
「ほぉん……ま、高く売れればなんでもいいけどよ」
(……っ! お花の存在……あまり知られていないはずなのに……)
この花の存在を知っているのはほんの僅かそれも魔界に住んでる者でしかわからないというのに、今ピララレータの目の前にいるのは派手なジャケットにきんきらのアクセサリーをじゃらじゃらとつけた見たことがない人物だった。それだけでもピララレータにとっては恐怖なのだが、一番は真っ黒なメガネをかけていて、それを外した時の鋭い目つきがピララレータにとって一番の恐怖だった。
(こここここ……こわいぃい……)
恐怖のあまり一歩また一歩と後ずさっていると、ピララレータは小さな枝を踏んでしまった。ぱきんという音が辺りに響くと、その音に気が付いたアクセサリーじゃらじゃらな二人組はぐるりと首を回し、音のする方へと向いた。
「なんじゃあ……って、おんやぁ。あいつ、鞄の中に金になる花を詰め込んでやがんじゃねぇか」
「ほんとっすね。おい、そこの女。その鞄ごと置いていきやがれ」
「あ……あわわわわ」
すっかり腰が抜けてしまったピララレータは動くことができず、じりじりと迫るじゃらじゃらな二人組に見下ろされるくらいまで近づかれると、目に涙を浮かべながら悲鳴を上げた。
「きゃあああっ」
腰が抜けていたはずなのだが、ピララレータはぐぐっと足に力を込めるとぴょんぴょんと跳ねて回った。必死になって跳ねて回るピララレータはだんだんその速度をあげ、きんきらの二人組が目で追えないくらいの速度にまで跳ね回っていると、黒い眼鏡をつけていないへこへこした人物が短い悲鳴をあげてばたりと倒れた。
「な……なにが起きたんだ」
「ひいぃいい! こ……こないでくださぁあいい!」
ピララレータは森の奥へと逃げるのに必死になり、へこへこした人物をいつの間にか蹴り飛ばしていたのだ。へこへこした人物は目を白黒させながら気絶しており、その姿を見た黒い眼鏡をかけた人物は怒りに燃え怒鳴り声をあげながらピララレータを森の奥へと追い込んでいった。
「おう姉ちゃん。よくもやってくれたな。覚悟はできてんだろうな」
「ひいいぃいい!! こないで……こないでくださぁあい!」
恐怖を感じる度に跳ねる速度は増していき、今ではもうピララレータが木々を蹴っている音しか聞こえない状態だった。黒い眼鏡をかけた人物は音を頼りにピララレータを視認しようと首を動かすも、その姿を捉えることができずにいた。
「くそっ。ちょろちょろしやがって……だはっ!」
「ひいぃいい!」
「こいつ……いい気になりやがっ……どぶう!」
「ここここ……こないでくださぁあいい」
「い、いい加減に……もがっ!」
何度も何度も黒い眼鏡をかけた人物を蹴っては踏みつけ、蹴っては踏みつけてを繰り返しピララレータはいつの間にか黒い眼鏡をかけた人物も気絶させてしまった。しかし、蹴っては踏みつけた当の本人はそんなことになっているとも知らずに、逃げているという名目で何度も何度も気絶している眼鏡をかけた人物に鋭い蹴りをお見舞いしていた。
「はぁ……はぁ……もう……追って……こない……ですよね……」
無我夢中で逃げ回ったピララレータは、後ろを振り返り追手が来ていないことを確認すると突然大きな声をあげた。
「お花……はぁ、よかった。無事だったぁ」
無我夢中で逃げ回って大事な花を落としていないかと思ったピララレータは、肩からかけた鞄の中身を見て胸をなでおろした。
「これだけあれば、お薬もたくさん作れる。それにしても……」
薬が作れることに安堵したのと同時に、ピララレータ一つの不安を抱えていた。
「……またあの人たちが来たらどうしよう……ううう……出会いませんように……」
ピララレータは細心の注意を払いながら、さらに辺りの音にも気を配りながら帰路へと就いた。震える足に力を込めながら、いつでも地を蹴れる準備をとりながら……。




