冤罪を生む者、冤罪の意味を知らず
現れた女の子を見て、和雄は驚いた。
「き、君、……年はいくつ?」
問われた女の子は答えた。
「十五歳だよ」
美織と名乗った女の子は、悪びれた様子もなく言った。
「二十一だって、書いてたよね」
「本当のことを書いたら、会ってくれなかったでしょ?」
「当たり前だよ。俺は、犯罪者なんかになりたくないよ」
「そう言わず、家に泊めてよ」
美織とはSNSで知り合った。長い間独り身で暮らしていた和雄は、会いたいと言う美織の申し出に、すぐさま応じた。実際に美織と会ってみて、自分の迂闊さを憎むこととなった。
それでも、和雄は美織を家に泊めてやった。美織は、両親から虐待を受けていると涙ながらに訴えた。父親は飲んだくれで、母親は夜の仕事をしている。日々の食べ物にも困って、何も食べさせてもらえないときも、よくあるという。困っている者を放っておけない和雄は、美織をそのまま帰すことができなかった。
夜、テレビを見ていると、美織のことが報道されていた。行方不明の女子中学生として、顔写真が映されていた。
「まずいことになったな」
和雄は美織に目を向けた。
「そうだね」
美織はまた、涙ぐんだ。家に連れ戻されたら、どんな目に遭うだろうと、和雄にすがりついた。
そんな美織を、和雄は愛おしく思った。それまで女性と縁遠かったせいか、異性から頼られたことに誇りを感じた。
この子を何としても守ってやりたい――。
一度芽生えた決意は、美織の笑顔に触れる度、強くなっていった。
しかし、二人の生活が長く続くはずもなかった。美織を見かけた近所の者が、警察に通報したのだろう、美織は連れ去られた。そして、和雄は後ろ手に手錠を掛けられ、警官たちに連行された。
別れ際、美織はその無垢な瞳を、和雄に向けた。
「私から誘ったなんて知れたら、私、酷い目に遭わされてしまう」
和雄には、そう訴えているように見えた。
和雄は、美織の瞳を見つめ返し、心の中で言った。
「大丈夫だよ。俺が犠牲になるよ。全ては俺が仕組んだことだって、そういうことにしておくよ」
その目に精一杯の優しさを湛え、そんなふうに答えてやった。
家から出て行くと、大勢の報道陣からフラッシュを浴びた。その眩さに顔を歪めながら、和雄は思った。
捜査官はもうすでに、ストーリーを思い描いているのだろう――。ああ、そういえば、家には制服もののアダルトビデオがあったな。友だちが忘れていったものだ。でも、きっと、この件と結びつけるに違いない。以前から少女に興味を抱いていた男が、己の欲望を抑えきれずに、犯行に及んだ、などと……。彼らは想像力を働かせて、マスコミが大喜びするような筋書きを創造するのだろうな……。俺がゲイだとも知らずに。
そしてマスコミは、そいつを疑いもせず鵜呑みにし、飯のタネにするのだろう。訳知り顔の犯罪学者なんかを呼んできて、事実は一つであるかのように断定し、それを聞いた女子アナキャスターは、「娘さんの心の状態ですとか、大変心配ですね」などと訳知り顔で発言する……。
ぼんやりとして、美織の小さな背中を見送っていると、少女のもとに、二人の男女が駆け寄ってきた。きちんとした身なりをした夫婦で、美織の両親だった。
二人は、大粒の涙を流しながら、美織を抱き締めた。
「おお、美織ちゃん。無事で、よかった……」
二人とも、心から美織のことを愛しているように見えた。
そんな二人に抱き締められ、美織も声を上げて泣きはじめた。
「パパ、ママ、怖かったよう……」
美織は二人にしがみついた。声を限りに泣き続け、周囲の涙を誘った。
感動的な家族の再会を眺めながら、和雄は一人、冷静だった。
真相はもう、誰にもわからないな――。
和雄には、手錠の冷たさだけしか、感じられなかった。




