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7歩目 キミはまだ、そこにいる?

――警察本部



管制主任がコンソールを叩き割らんばかりの勢いで怒鳴った。


「ダメだ…今すぐ応援を出せ、市民が襲われるぞ!」


「ですが、ギャッハー団には絶対に――」


「構わん、責任は俺が取る!」


「了解、スクランブル! 全隊員、直ちに現場へ――」


ビィィィッ!!


耳障りな警告音と共に、メインモニターが赤に染まった。


【上位権限を確認】

【命令を遮断します】


「は……?」


オペレーターが振り返る。


そこに恰幅の良い男が立っていた。


「責任? 君が、かね?」


「署長……ですが、このままでは!」


「黙れ。そいつをつまみ出せ。ここから先は、私が直接指揮を執る」


主任は取り押さえられながら叫んだ。


「待ってください、署長! 署長!くそ、

現場、聞こえるか?返答しろ――」


ドアが閉まる。

室内から、音が一つ消えた。


オペレーターが青ざめた顔で言う。


「まさか……署長……?」


「余計なことは考えるな」


「しかし……!」


署長は、短く息を吐いた。


「貴様も下がれ」


「待ってください!現場が――」


その口と肩を、隣の大柄な男が無言で掴む。


「んぐぐ!」


抵抗する身体が、端末の前から引き剥がされる。


署長が、部下に言った。


「貴様が伝達しろ」


「しかし、自分には経験が…」


「構わん。やれ」


「……は」


「現場へ通達。応援は出せない。発砲も反撃も認めん。状況維持に努めよ」


その足は

震えていた。

―――現場



「野郎共…余興は終わりだあぁ!!」


色とりどりのモヒカン達が、奇声を上げ一斉に飛び跳ねた。


改造バイクが次々と唸りを上げる。


隊長は振り返り


「本部と連絡は!?」


直後、隊員達の脳内に、通信が三つ鳴った。


≪――繰り返す、現場は状況を維持せよ≫

≪こちら本部、刺激するな、絶対に発砲するな≫

≪……聞こえるか?返答しろ≫


「ちょ、ちょっと待ってください!誰が誰に言ってるんですか!?」


若い隊員の声が裏返る。


「無線切れ!一旦切れ!今は目の前を見ろ!!」


隊長が怒鳴る。


目の前では、バイクのエンジンが吹かされ、チェーンソーの空転音が腹に響く。

距離、二十メートル。

いや、もう十五。


「隊長、あの…」

「何だ」

「…いえ……」


唾を飲み、若い隊員は言った。


「盾を、構えますか?」

「…構えるな」

「え?」

「構えたら“対峙”になる」


沈黙――


「じゃ、じゃあ…下ろしますか?」

「下ろすな!下ろしたら“無防備”になる!」


「どっちだよ!!」


怒鳴ったのは別の隊員だった。


「どっちもダメなら、どうすりゃいいってんだ!?」


無線がまた鳴る。


≪発砲は厳禁だ≫

≪交戦と判断される行為は全て避けろ≫

≪現場判断は慎重に≫


「何だよ、慎重って…」


誰かが小さく呟いた。


「隊長、距離が…」

「分かってる!」

「近いです!」

「分かってると言っている!!」


若い隊員は震える手で、光線銃に手を掛けた。


「撃つなよ」

「撃てませんよ…」

「でも来てる!!」


「後ろ、市民が…!」

「下がれと言った!」

「けど動きません!!」


「後方部隊、市民を――」

「無茶言うな!こっちにもわんさかだ!」


また無線


≪市民対応は現時点で不要≫


「…不要?」


隊長が聞き返した。


「“不要”とは、どういう意味だ…?」


返事は来ない。


「隊長…」

「何だ」

「俺、明日…」


言葉が続かない。


「……全員、深呼吸しろ」


誰も呼吸できていない。


エンジン音が、さらに近づく。


「隊長…」

「……」

「本部は、俺達の事…」


隊長は一瞬だけ、目を閉じた。


「考えるな」


それは命令というより、祈りだった。


「今は、今だけは、考えず…歯ぁ食いしばれ!!」


警官隊の列を割って、紫のバイクが突っ込んだ。


「ギャッハー!死ねぇぇぇ!!」


紫モヒカンが、釘バットをスイング


ガンッ


鈍い音と共に

隊長のヘルメットが吹き飛ばされた。


「っ……!」


間髪入れず、鉄パイプ・バールが次々に警察隊に叩き付けられていく。


「ぐあっ……!」

「よっ、よせぇ!」

「や、やめ――」


声は途中で潰れ、あちこちで市民の悲鳴が弾けた。


「なっ、何あれ?」

「い、いやあああぁぁ!!」

「なんだよ、どうして反撃しないんだ!?」


ネット欄が荒れ始める。


『一方的過ぎじゃね?』

『これマジの奴?』


エンジン音


「ギャッハー!」


突っ込むバイク


「とっ止まれ!!」


――ゴッ


隊員の身体が吹き飛び、地を転がる。


その上を、別の影が踏み越えた。


「ぐあっ……!」


「ギャッハー!!」


駆け寄った隊員が叫ぶ。


「しっかりしろ!!」


「あ……足が……」


その背に、鎖が振り下ろされた。


「ぐああっ……!」


新人隊員が叫んだ。


「隊長っ!反撃の許可を!!」


誰もが、縋るような視線を向け――


「ダメだ!!」


悲鳴のような声が切り裂いた。


「おいおいおい」

「何だこりゃw」


モヒカンが、鉄パイプを肩に担ぎ


「こいつら、全然やり返してこねえぞww」

「張り合いがねぇなぁ」


釘バットを、わざとゆっくり振り上げ――


「ちったぁ抵抗してくれねえと…」


ガツン


肩を殴られた隊員が、言葉もなく崩れ落ちた。


「燃えねえだろがああww」

「ギャッハー!!」


奇声が重なる中


「……隊長……」


誰かが、か細く呼ぶ。


隊長は、歯を食いしばったまま、前を見ている。

頭から滴る音が、虚しく響く。


「……耐えろ」


その瞬間――


キャアアア!!


複数の女性の悲鳴が、同時に上がった。


全員の視線が、そちらへ引きずられる。


「やっやめろ!!」


隣の男が腕を伸ばす。


「ギャッハー♪」


「いやぁぁ、来ないでぇぇ!!」

「おまわりさん、おまわりさん!!」


一台のバイクが、身を寄せ合う女性達に突っ込んでいく。


歯ぎしりが聞こえる程に歯を食い縛っていた隊長が


「やむを得ん!!総員――


口を開いた、その時


≪……現場≫

≪……発砲、反撃行為は一切認められない≫

≪……状況の拡大は避けろ≫


≪……以上だ≫


プツリ


「……」


開いたまま、固まる口


「た、隊長…?」


答えはない。


女性の一人が、殴られた。


倒れ込む身体

笑うモヒカン達


「おまわりさ~ん、市民が襲われてるぜぇ♪」

「助けねぇの?お仕事ですよ~?ww」


隊員の拳が、震える。

銃を握る指が、白くなる。


その背中に


声を掛けた。


「ねぇ」


小さな声で


「本当は…どうなりたかったの?」


「なっ…?」


ただ静かに

落ちているメガホンを拾い


見回した。

盾の向こうの制服

その後ろの、市民


足元


茶虎が


目を輝かせていた。


うん…そう、だよね


「ここは危険だっ!」

「下がれ!!」


鬼気迫る隊員の顔に


微笑みかけた。


「な…?」


大きく息を吸い――


星一つない夜空に


白い吐息を解き放った。


♪ いつからだろう

  守るって言葉が

  こんなに重くなったのは


モヒカン達が吹き出す。


「はぁw」

「歌?w」

「イカレテんなぁww」


♪ 汚れた制服の下で

  まだ

  息をしてるのに


「おもしれぇw」

「よく見りゃ上玉だ」

「捕まえるかぁw」


レッドの声が、団員達の脳内に響き渡った。


(野郎共、市民に手ぇ出すな

”上”にどやされるぞ

狩るのは“犬”だけにしとけ)


(はぁ?ちっとくれぇいいだろう?)

(あいつぁ”脳無し”みたいだしな!)


(よさねぇか!)


(うっせ!兄貴のオキニだからって、リーダー気取ってんじゃねえぞ!!)

(テメェも楽しめよっギャッハー♪)


(ちぃっ、どうなっても知らんからな)


ブロロロロォォ!!


殺到するバイクの群れ

それに向かい、静かに歩いた。


隊員達から、奇異の目を向けられる。


(なんだってんだ……?)

(耳障りだ)

(やめろよ……)


(でも)

(なんで……)

(くっそ! 何でなんだよ!?)

(ちくしょう……!)


♪ ねえ

  ”キミ”はまだ

  そこに

  いる?




…その問いだけが

場に残った。

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