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6歩目 余興2

顧問の鼻から流れ落ちる”赤”が

ゆっくりと広がっていく中


その脳内は荒れていた。


(応答しろ!治安維持局長官!私だ、顧問だ!)


———沈黙


(おい、どうなってる!何故繋がらん!?)


【解:認証IDは『無効』となりました】


(は?どういうことだ?)


【回答不可:アクセス権限がありません。当該情報は機密事項に分類されます】


(ふざけるな!!)


【提案:認証を有効にしてください】


(なら今すぐ———)


【補足:顧問権限では再有効化できません】


(なっ……)



顧問は両手をつき、”赤”に映った自分を見た。


(何故だ…


どうして、私が…


こんな目に…


———私は、世界政府治安維持局、”顧問”だ

———選ばれた側だぞ


それなのに———)



その目が


ふと


こちらを見た。



(あいつだ———


あの、脳無し女だ

奴が”好み”だったせいだ

大人しくしていればいいものを

生意気にも抵抗しやがって


邪魔してきたガキも、噛み付いたクソ猫も同罪だ!

そもそもあの母親がしっかりと———


親…


……そうだ


俺はまだ”持っている”)


歪む口元


(”格”の違いを、思い知らせてやる!)



—————脳内通話



(パパ……!)


即座に、回線が繋がる。


『どうした、また金か、それとも———』


———ああ、良かった


(助けて!ギャッハー団とかいう、イカレタ連中に殺されそうなんだ!)


『は? ギャッハー? 何だそのふざけた……まあいい、今どこだ』


(旧港街だよ、情報を送るね!)




『……なんだ?お前の管轄じゃないか、何故自分でやらん?』


(い、今、説明してる時間はないんだ!後で必ず言うから!)


『……いいだろう。可愛い息子の頼みだ。待ってろ、すぐ”治安”を動かす』


———勝った


(ありがとう、パパ!!)



一方――レッドも脳内通話をしていた。



(イエロー、兄貴はどうだ?)


(ダメだ、息はあるが、メモリは完全にイカレテル)


(そうか、治せそうか?)


(治るだろうが…後遺症がな……)


(……引き続き頼む)



通話を終え、へたり込んだ顧問に、レッドが言った。


「さて、余興はここまでだ」


(数分でいい、時間さえ稼げれば———)


「で?」


レッドの靴底が、顧問の頭を踏み付けた。


「痛いっ!もう、やめっ、やめて、くださいっ……」


(何か

何か、無いか!?

何か……!)


「なら答えろ。兄貴をヤッのは、誰だ?」


「あ、あにき……?」


「パクろうとしてただろうが!」


ブーツが沈んだ。


「いっ…いたっ!」


「言え、3秒以内だ」


「そっ、それは———」



震わせた指を、私に向け


「あいつです…あの脳無しが、やりました!」


(どうだw脳無し相手では、AIのハッキングなど不可能

あいつはただでは済まされんだろうが、自業自得だw)



———視線が、私に集まる



顧問が捲し立てた。


「見てくださいよ!あのコートの返り血を!」

「血塗れの足を!」

「何よりの証拠ですよね!?」


妙な静寂が支配した———



その中で”別”の声が蠢く


(…ルナ)


解ってる


(…うむ)



「そ、そうだ!あいつの抱えてる猫!あの猫を護る為にヤッたとか———ぐぼっ」


容赦なく踏み付けられ、顧問の口が、血溜まりに沈んだ。


「……てめぇ……」


レッドの顔が歪んでいく。



それを青筋を立てたブルーが手で制し


「するってぇと……おま、お前はこう、言いてぇ訳だな……

兄貴が……そのねこに、手を……てを……っ———」


ガタガタと震え始めるブルー


その肩にレッドは手を置き


「ねこに手ぇ出して、そこのガキにやられたと?」


「そっ、そうだ!信じられないかもしれないが———」


モヒカン達がそれを笑いながら遮った。


「おい、聞いたか!?」

「おもしれぇwこんっなボロッボロでぇ」

「脳無の~?」

「ねこ抱いてる女にぃ~?」

「俺等の兄貴が~———」


レッドのチェーンソーが猛り狂い、夜闇を削るように激しい火花をぶち撒けた。


「ヤラれる訳、ねぇだろうがあああぁぁぁ!!」


咆哮が反響していく。



その下


顧問だけが笑っていた。


(馬鹿共がw)

(時間は、十分に稼いだ)


視線を、わずかに上げる。



その先———闇に潜む者達


私は、そのリーダーの思考を追っていた。



≪こちらチームリーダー、残り30で包囲完了≫


≪了解。しくじるなよ。必ず救助しろとの“上”からの厳命だ≫


≪了解———≫


その時、レッドが吠えた。


「てめぇら!ここからが最高の“余興”だ!」


沸き立つモヒカン達


顧問は手足を縛られ、改造バイクに張り付けにされる。


「お、降ろせ!!」

(いいぞ、これで奴等の”最期”がよく見えるw)


私は、コートの中に茶虎を押し込み、“その瞬間”を待った。


≪チームα、配置完了≫

≪チームβ、射線クリア≫

≪チームΩ、いつでもいいぞ≫


≪チームリーダー了解。司令部、出力制限を解除してくれ≫


≪司令部了解。最終認証を行う≫


チーム全体の視界端に、赤文字が表示された。


【上位承認を確認:出力制限解除、カウントダウンを開始します】


≪総員、カウントダウン終了と同時に射撃開始≫


≪了解≫



顧問は勝利を確信していた。


(ヤレ)

(撃ち殺せ)

(皆殺しだ)


【カウントダウン終了まで3…2…1…———】


照準の中央に、レッドの額が収まる。


だが――


その視界に、強制的に映像が流された。


≪イレギュラー発生、司令部、指示を≫

≪ちょっと待て、待機、待機だ≫

≪了解≫


彼等だけではない。警官、市民の視界までも、同じ映像で埋まっていく———


映ったのは、二人の男だった。



【治安維持局顧問:削除済みデータ】


《File.01:執務室・記録映像》


初老の男がぼやいた。


『ちぃっ、税収は減る一方、このままでは……』


重厚な扉が開き

聞き覚えのある「間抜けな声」が響いた。


『パパ、お金なんだけどさ――』

『まったく! もう使ったのか!?』

『ごめんって! でもさ、良い事思いついたんだ、聞いてよパパ――』


『――なるほど、面白い。許可しよう』



《File.02:高級クラブ・記録映像》


煌びやかな女性達に囲まれた初老の男と顧問


『流石の手腕だ』

『当然だよ、パパの息子なんだからさ――』


女性達が、黄色い声を上げる。


『キャー、これ凄い凝ってる!』

『渋~い、この時代に腕時計なんて、お洒落♪』


顧問は得意げに腕を見せた。


『だろ? 二億もしたんだぜ。こっちのスーツも特注で――』


『えー、すごぉい♪』

『あたしもこういうの欲しいなぁ』


『いいぜ~……その代わり、な?』


女達が甘い声を上げて笑う中

大臣はグラスを揺らしながら言った。


『息子よ、お前はまだ派手すぎる』

『え?』

『腕時計だの女だのは、目に見える贅沢だ。三流でも出来る』


『じゃあ何が一流なのさ、パパ』

『世論を飼い慣らし、税を吸い、それでいて感謝までされることだ』


女が、くすりと笑う。


『怖いこと言うのねぇ』


『それが、上に立つ者の作法だ』


『うん、解ったよ、パパ!』


顧問に抱き付いた女が尋ねた。


『ねぇねぇ、一体何したの~?』


『構わん。教えてやれ。今夜の金が、どこから湧いたのかを』


『でもパパ……大丈夫なの?』


『無論だ。ここでの会話は“絶対”に漏れん』


『うん、解ったよ――』




《File.03:政府応接室・記録映像》



血相を変えて大臣に詰め寄る、若いスーツ姿の男


『大臣、どういう事です!?急なAIチップの手術費用・及び維持費の補助金打ち切り、これでは市民生活が圧迫され――』

『圧迫? それの何が問題だ』


大臣は葉巻の煙を燻らせながら、面倒くさそうに吐き捨てる。


『大問題です!出生率低下に歯止めが掛かりませんよ!』

『その分、給付金を出せばよかろう』

『そんな付け焼刃では、改善など――』

『改善? 税収は上がっている。問題あるまい』

『……本気で言っているんですか?』


若い男に、大臣は冷酷な視線を向けた。


『君は少し、民衆を買い被りすぎている。

人は”希望”に従うのではない。“先の見えない不安”に従うのだ』


『…一体、何を?』


『自らの手で叩かせる事で、奴等は自分がまだ“上”だと思える。

優越感に浸る一方、明日は我が身と恐れるようになる』


『…まさか、その為にAI非搭載者への弾圧を――』

『言葉は選びたまえ、これは彼等が自らの意志で選択した秩序だ』


『ふざけるな!民を何だと――』



《File.04:大臣・プライベート通信》


『……この件は極秘事項だ。奴を速やかに”処理”しろ』

『了解、パパ――』


『後任は私の”女”にでも任せるとしよう』



【発言者認証:世界政府大臣/治安維持局顧問/子供庁庁官】

【全データの復元:100%完了】



≪なんだ、これは?≫


≪――…しろ≫


≪どうした、司令部、応答しろ≫



≪—————全チーム、た…≫


≪なんだ!?はっきり言え!≫



返答の代わりに、司令部の音声が全隊員の回線へ漏れ出した。



≪大臣、貴方を拘束させて頂く≫


≪拘束だと!?長官風情が!ふざけるな!≫


≪”規則”ですので≫


≪騙されるな!こんなもんは捏造だ!反政府派のデマだ!!≫


≪はい、まずはデータの解析を———止まれ!逃がすな!!≫


≪わ、私に触れるな!!くそっ、何がどうなってる!誰か説明しろ!!≫



≪———聞いた通りだ、全チーム撤退しろ≫


≪了解、全チーム、撤収する≫



―――



月影でも、間違う事があるんだね


(…当然だ)



周囲が急に騒がしくなる。


「お、おい、この人って…」

「ああ、この間謎の”事故”で死んだ…」


ネットのコメント欄も、嵐のように飛び交う。


『こども庁に就任した美人が大臣の愛人だった件』

『だから差別はヤメろとあれ程』


広がるざわめきの中心


改造バイクに張り付けられた顧問の縄を、レッドが切った。


「おら、もう行っていいぞ」


顧問は何も返さず、立ち竦んでいた。


「元気ねえな!もっと喜べよ、これでテメェは有名人なんだぜ?」


その背中をバンと叩いた。


押されるように歩き出す顧問


その腕を、モヒカンが掴み


「待てよ!こいつは頂いていくぜ♪」


腕時計を掲げ、モヒカン達が騒ぎ出す。


「うっひょ~これが2億だと?w」

「ヤミーオークションに、出品しようぜ♪」


顧問は何も聞こえていないように歩き――


隊長にぶつかり、ぽつりと言った。


「…奴等、窃盗罪だ」


力なく、騒ぐモヒカン達を指差す。


その腕が降ろされないまま、喧騒だけが響く。


隊長が固く閉ざされた口を開いた。


「顧問、貴方を”重要参考人”として連行します」


「………は?」


「失礼」


隊長が顧問の腕を掴み、腰の手錠に手を掛けた。


「きっ、貴様っ!!」


顧問はそれを振り解き、叫んだ。


「誰に、何をしようとしているのか、わかっているのか!?」


隊長は脳内で命令を出した。


(各員、こいつを取り押さえろ)


(了解)


隊員達が動いた、その時だった。


「動くな!!」


顧問が光線銃を構えた。


刹那


ガシャン———


銃は地を滑り、私の足元で止まった。


警棒を握った隊長は言った。


「公務執行妨害だ、貴様を”逮捕”する」


開きかけた顧問の口が、隊員達の手に塞がれ


暴れる手足が拘束され


それでも、駄々っ子のように藻掻きながら引き摺られていく———


少女と母親が、安堵の表情を浮かべていた。



隊長が、私の足元に落ちた銃を拾って言った。


「すまなかったな。行っていいぞ」


私は、それを見ずに返した。


「手遅れね」


視線の先———


チェーンソーを掲げたレッドが叫んだ。


「野郎共…余興は終わりだあぁ!!」


モヒカン達が、今までで一番の咆哮で応えた。




…このやり方、”あいつ”か

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