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10歩目 ねこの領域

注意:ホラー要素があります。

   途中で気分の悪くなった方は、直ちに可愛いねこで癒されてください。

   主要キャラクターは直接登場しません。





―――警官隊に跳ね飛ばされたモヒカン達



転がった男達が、血走った目で起き上がった。


「くそっ、あのサツ共……!」

「ぜってぇ許さねえ!今すぐブチ殺しに行くぞ!!」


『ギャッハー!!』


傷だらけの拳を振りかざした時、脳内に通信が割り込んだ。


≪シルバーより各員へ。唄女を追い詰めた。

手柄が欲しい奴は指定ポイントに来い。繰り返す――≫


金モヒカンが、ニヤリと口元を歪めた。


「…まあ、サツなんざ、後でいくらでもヤれる」

「だな」

「まずは唄女だ」


「ああ、楽しみは後にとっといて…俺等全員でなるぞ、幹部!」


バイクのエンジンが、一斉に唸りを上げた。




10歩目 ねこの領域




モヒカン達が、路地にひしめき合っていた。


「包囲完了だ」

「これで猫一匹、逃げられねえぜ」

「てめぇら油断すんな、慎重に行くぞ!」


『ギャッハー!!』


そこに冷や水を浴びせるような低い声が響いた。


「お前等、何か勘違いしてねえか?」


赤い影――レッドが、嘲笑を浮かべて立っていた。

金モヒカンがそれに反応した。


「あ?」


銀モヒカンが続く


「なんだよ、確かに追い詰めたのはレッド

お前が奴に怪我を負わせたおかげだがよ――」


レッドは遮るように言った。


「誰もそんな話してねえよ」


「じゃ、なんだってんだ?」


レッドは、人差し指を立て

氷のような真顔で言った。


「幹部候補になれるのは、一人だけだぞ」


金と銀は、お互いの顔を見合わせ――


同時に地を蹴った。


「どけっ!」

「邪魔だ!」


路地を塞いでいたモヒカン達を、肩で弾き飛ばす。


「いってえな!」

「てめっ、待ちやがれ!」


伸びた手が、金の肩を掴む。


だが金は、振り向きもせずにそれを振り解いた。

跳ねた肘が、別のモヒカンの顔面に叩き込まれる。


「がっ!?」


よろめいた巨体が、今度は隣のモヒカンにぶつかった。


「何しやがる!」

「ああ!?俺じゃねえだろ!」


銀が腕を掴まれ、掴んだ相手を殴り倒した。


「俺に触んじゃ…ねえ!」

「テメェ…ぶっ殺す!!」


怒号と暴力が、一気に爆ぜた。

路地いっぱいに巨漢どもが犇めき合い、壁が軋んだ。


その先頭、銀と金の頭を

黒モヒカンが颯爽と踏み付けた。


「いてっ!」

「てめっ、仲間を踏み台に!?」


「仲間ぁ?部下の間違いだろ」


誰も居ない場所に、軽やかに着地した。


――ハズだった。


うにゃあああああ!!!?


足元


尻尾を、思い切り踏み抜き――


シャー!!


小さな影が跳ねた。


「ぐぁっ――!」


黒モヒカンの顔面から、3筋の血が噴き出した。


「いってえええええ!!!」


尻もちを突き、のたうち回る。


その腹が、金と銀に踏み付けられた。


「ぐほっ!」


「間抜けが」

「部下はてめぇだ」


後続が「待てや!」とそれに続く。


「やめっ、ナカマだろ――」


悲鳴は掻き消され


足跡に塗れた黒が、取り残された。



我先に進もうとする巨漢達の前に


ふと


二つの”光”が浮かび上がった。


「なっ……!?」


先頭集団に戦慄が走る。


雲の切れ間から差し込んだ一筋の月光が

その正体を暴き出した。


にゃ~?


そこにいたのは、一匹のこねこだった。

キジトラ

柔らかな毛並み

小さな前足をちょこんと揃え、不思議そうに首を傾げている。


まるで、「だぁれ?」と無邪気に問いかけているかのような瞳で


金と銀は、一気に肩の力を抜いた。


「はっ、猫かよw」

「ビビらせやがって」


キジトラは無邪気に


みゃ~♪


と、まるで「あそぼ~♪」と誘うように鳴き、ちょこちょこと近付いていく。


割って入った青モヒカンが、膝を折り


「………にゃぁ」


誰にも聞こえないような声で呟き

両手を広げ、路地を塞いだ。


「邪魔だっ!」


金が、その背中を蹴飛ばした。


「っ!」


キジトラの脇に、青の顔面が滑り込む。


みゃぅ~


キジトラがその顔を舐めた。


銀が怒鳴った。


「てめぇもどけ!」


小さな身体に、振り下ろされる鉄パイプ


みゃっ!


キジトラの瞳が、恐怖で固まり――


――ガシッ!


小さな頭の直前で、鉄パイプが掴まれた。


青モヒカンは握ったまま、青筋を立て


「…………!」


蒼い眼光で銀の棒の先を睨み付ける。


「ああ?何だ、その目は」


睨み合う、銀と青


キジトラはイカ耳となり

路地の暗闇へと踵を返し

青が、消え入るように呟いた。


「………ごめん」


金が一言


「行くぞ」


「ちっ、放せ!」


青の手から鉄パイプを引き抜き

その後を追う銀


幾つもの影が

それに続こうとして――


「戻れ!!!」


青モヒカンが、怯えたように吠えた。


だが


最後の一人が


その顔にツバを吐き


暗闇へと


消えた。



―――



けたたましく響き渡っていた靴音が


突如


止んだ。



金が舌打ちをし


「行き止まり?クソ、マップがイカレてやがる」


銀が吐き捨てる。


「よくある誤作動だ。再起動する」


―――


「よし、戻ったな。女はどこだ?サーチしろ」


【了:20メートル…圏内…100…0…至近距離…生体…?…ニ…ネ…】


(何だ、ノイズか?)


【ナビ……ゲート……ナビ……推奨、しません】


「どこだって聞いてんだよ!!」


【ヒ……左】


「左だぁ?…あ?」


視線の先から…生温い風が吹いていた。


「…おい、こんな道、あったか?」


銀の問いかけに、金は応えなかった。

無言で、その闇へと足を踏み入れる。


「おい、待てよ!」


その時だった。


……ううう~~~~~……


不気味な唸り声に


銀の足が、ぴたりと止まった。


「へっ、……どうせ、猫だろ……な、ゴールド――」


だが


金は、まるで何も聞こえていないかのように

平然と、先へ進んでいく。


「おい、待てって!!」


慌てて後を追おうとして


ふと


後ろを、振り返った。


そこには


誰も


居なかった。


「は……?」


さっきまで

肩をぶつけ合い

罵声を飛ばし合い

あれほど鬱陶しく犇めいていたはずの気配が


跡形もなく、消えていた。


「お、おい……」


足が笑い始める。


「じょ、冗談、だよな?居るんだろ?なあ」


返事はない。


「……そうしてりゃいいさ…幹部になるのは、俺だ!」


静寂


「…い、いいのか?後で吠えずら掻くなよ。

テメぇ等を働かせて、俺は一生贅沢三昧だ、ギャハハハハ!!」


静寂


「…冗談だ…そんな事する訳ねぇだろ?悪いようにはしねぇって……」


静寂


「なぁ………」


声は、闇に吸い込まれていった。



「もういいだろ、出て来いよ!!」


悲鳴のような声で


闇の中に一歩


足を踏み入れた。


その時




……うぅぅぅぅ~~~……




近かった。


いや、距離等無かったのかもしれない。


逃げるように


転がるように


銀が


闇に


溶けていった。



汗で肌と革ジャンを張り付かせ

白い湯気を上げながら

銀は叫んだ。


「ゴールド!応答しろ、ゴールド!俺だ、シルバーだ!」


≪ノイズ≫


「誰か、応答しろ!イエロー!レッド!聞こえないのか!?おい!!」


無音


「おい、どうなってる!?」


【―――ネ……】


「くそっ…」


銀は、先の見えない細長い闇を

ただ

歩くしかなかった。




時間の概念すら薄れてきた頃

その先に

微かな光が見えた。


足早に近付く

だが

入る直前、立ち止まった。


「パンッ!」と震える両足を叩き


踏み入れた。



「誰か、居るか…?ゴールド……」


そこは


月光が冷たく差し込む

「大広間」だった。


ささくれ立った畳の上に、散乱している


毛布

少し背の高い、様々な茶碗


他に目を引くのは


剥き出しとなった、やたらと傷だらけの木の柱

崩れた天井からは、白い月光が斜めに差し込み

畳の上に、青白い四角を落としていた。


「……なんだよ、ここ……」


その時だった。


「遅えぞ、シルバー」


背後からの、あまりに普段通りの声に

銀は目を輝かせた。


「ゴールド!おま、どこに居たんだよ!」


振り返る。


そこには何事もなかったかのような金の姿。


金は、目を合わせずに言った。


「唄女探すぞ」


「いや、ちょっと待てよ!」


銀が詰め寄ると

横から、別の声


「さっさとしろ、サボってんじゃねえ」


「は?お前等、いつの間に……」


そこには、仲間達がいた。


「どうした? 幻覚でも見たのか?」


「げんかく…?ハハ……そう、かもな……」


銀は、ゆっくりと周りを見回した。

そこに居たのは、確かに昔からの良く知る顔達だった。


全身から力が抜けるのを感じた――直後


「くそっ、何にも見えねえ!」


思わず舌打ちし

脳内に命じる。


(おい、ライト――)


【――――】


(ちっ、またか。再起動)


【――――】


「ダメだ、完全にフリーズしてやがる」


声を張る。


「おい、誰か、ライト持ってねえか?」


返事はない。


男達は暗闇をものともせず

畳の上を、柱の陰を、奥の影を

迷いなく動き回っていた。


(…俺だけなのか?)


「お前等、いくら幹部になりたいからって、無視はひでえだろ?」


誰かが、ぽつりと返した。


「幹部?」


「とぼけんなよ……ああ、もう解った! わかったヨ!」


両手を上げる。


「降参だ、俺は降りる。だから、な?仲直りしようぜ」


しばしの沈黙の後


「いいよ」


ひどく、素直な声だった。


「よし!」


銀は無理やり口角を上げた。


「んじゃ、今からいつも通りだ!誰か、ライト持ってないか?」


だが、それを完全に無視するかのように

突如、暗闇のあちこちでドタバタと足音がたった。


「……勘弁してくれよ……」


「ゴールド、お前も黙ってないで何とか言ってくれ!」


返ってきたのは


カリカリ、という音だった。


銀の口から

乾いた笑いが漏れる。



「そ、そうだ……」


足元の毛布を掴み


「このボロ布を燃やせば……」


鉄パイプの先へ乱暴に巻き付ける。


震える指でジッポを開き

火を点けた。


ぼっ


赤い炎が、暗闇に燈った。


「よし、これで……」


明るくなっていく広間


毛布

茶碗


そして――


「……は?」


間抜けな声が、漏れた。


そこには


誰も


居なかった。


さっきまでいたはずの

金も

モヒカン達も

影すら残さず、消えていた。


その頬に


ぽたりと


生温かい何かが


落ちた。


「……何だ?」


銀は、こわばった首を

ゆっくりと上へ向けた。


松明を掲げる。


その光が

天井近くを、じりじりと舐め――


「なっ!?」


銀の目が、大きく見開かれた。


その目に映ったのは


毛を無残にむしられ

革ジャンをビリビリに斬り裂かれ

全身を赤黒く染め


ぶら下がった男の姿


半開きの口から、糸を引く涎と血


「おい……」


応えるかのように


巨体が


ポトリと


落ちた。


「ひっ!」


松明がぶれた。


男の喉が

かすかに震えた。


「……ぅ……ね……」


「お、おい……ゴールド?」


銀の声が裏返る。


「お前、ゴールドだよな!?一体、誰に――」


銀は天井を睨み付け

狂ったように叫んだ。


「おい! 唄女! お前だろ! ぜってぇ許さねえからな!!」


返って来たのは


――痛いほどの静寂



その中で


ふいに


火が


消えた。


「は……?」


闇が、一気に落ちてくる。


慌ててジッポを取り出そうとした。


だが、震え、汗ばんだ指先から

スルリと

暗闇に消えた。


「くそっ……くそっ!」


膝をつき

床をまさぐる。


ふいに



……うううぅぅぅ~~~……



「ひっ!」


銀の頭が、跳ね上がった。


声の方を向く。


その先、天井には


鋭い“眼光”が


浮かび上がっていた。



しばし、銀は硬直していたが


(…な、なんだ…猫、か?猫、だよな?ただの……)


息を吐き


「てめぇが……やったってのか……?」


眼は、微動だにせず

じっと

銀を見る。


「テメ…見下してんじゃねえ!」


銀は鉄パイプを振り上げ


ガン!!


力任せに叩き付けた。


直後――


「いってええええ!!」


金の悲鳴が、足元で弾けた。


「は……?」


銀の喉が止まる。


「なん……で……?」


のたうち回る金


「痛ぇ! 痛ぇよ!!」


「す!すまねえ!!」


銀は鉄パイプを放り投げ

金に駆け寄った。


血に塗れた身体を抱き起こす。


「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」


暴れていた金の身体が


触れた瞬間


ピタリと止まった。


「……ゴールド?」


金は、答えない。


その目は

銀を見ていなかった。


もっと遠く

もっと高く

虚空の、その先でも見ているかのようだった。


「おま……どこ見て……」


銀が、その視線を辿ろうとし

金の唇が、わずかに動いた。


「……見るな」


「は?」


「上を、見るな」


「な……何言って……?」


ゴクリ、と喉が鳴る。


だが


銀の首は

止まらなかった。


ぎこちなく


ゆっくりと


上を向く。


そこには――



数えられない

境目すらない

無数の

恐ろしい“眼”で埋まっていた。



銀の手から

金の身体が

ずるりと

落ちた。




…理解出来ないのは

人間、だけだった。




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