第3話 オムライスと笑顔
そろそろ夕飯の時間か。
足取りは重いが、洋子さんの家に向かおう。
はあ、先輩にどんな顔されるかな…
今の時点では、わざわざベランダに出てパンツを見ようとしてた男だもんな~
なんとか言い訳しないと…!
そんな決意を胸に、俺は洋子さんの家へ向かった。
テーブルにはおいしそうなオムライスが並んでいる。
そういえば、今日はオムライスって言ってたっけ。
先輩、オムライスが好きって、意外に子どもっぽくってかわいいな。
「平くん。ご飯食べたら、私の部屋来ない?平くんのこと、もっと知りたいなって…」
「え、先輩!?行きますけど!いきなりそんな、そういうのは段階を踏んで──」
「プッ…プププ…アッハハハハ!」
「え、洋子さん!?」
「ごめんなさい。一度言ってみたかったの、童貞を掌でコロコロするようなクソビッチ女が吐きそうなセリフ♡」
洋子さんって実は昔、名女優だったのか…?
「あら、翠ちゃんいたのね。オムライスできてるわよ。」
俺は恐る恐る振り返ると、そこにはもちろん先輩の姿が。
「あ…はじめまして。今日からここでお世話になる平と言います。黒岩高校の1年です…」
「元宮翠です」
「あの…先輩、いつからそこにいましたか…?」
「洋子さんが殺し屋のごとく、あなたの背後をとったときから」
終わった…
パンツを見たあげく先輩の部屋に上がり込もうとしたやつにランクアップしてしまった…
「お、オムライス美味しそうだね~」
「あら、あっくん。お巡りさんに連れていかれたんじゃないの?」
「いや~、普段口にする言葉で一番エッチなのって『チンチン電車』だよね~って話で盛り上がったら、帰っていいよって言われたんだ。」
「いや、小学生ですか!フェラーリとか万華鏡とか、もっとあるでしょ!」
……
転校を繰り返したことで得たコミュ力が完全に裏目に出てる…
口を開くごとに、先輩の中の俺の好感度がみるみる下がっているのが分かる…
ロクに話していないのに、俺の好感度はもう地下に埋まっているのではないだろうか。
「さっ、ご飯冷めちゃうし、いただいちゃおうかしらね!」
洋子さんの優しさが染みる…
いや、でもこの人のせいで俺の好感度下がったんだよな…?
まあ、いいか。
腹も減ったし、今はとりあえずオムライスを食べよう。
「いただきまーす!」
「うま!やっぱり洋子さんのオムライスは最高だね!」
「あら、うれしいわ!翠ちゃんはどう?」
「うん、おいしい」
感情こそ表に出てこないが、先輩は本当にオムライスが好きなんだろうな。
直前まで読んでいた本は脇に置いてるし、何より表情が柔らかくなっている気がする。
「平くんはどうかしら?お口に合う?」
「…あ、はい!めっちゃうまいです!」
「じゃあ僕がもっと美味しくしてあげようか?いくよ~萌え萌えキュ──」
「あっくん。食事中はふざけないの」
「まずくなるのでやめてください。《《冥土》》に送りますよ」
「お、《《メイド》》だけに?うまいこと言うねえ!(鼻息)」
「粒立てないでくださいよ!恥ずかしいから」
「フフッ…」
声の漏れたほうに目線を向けると、先輩が笑っていた。
スプーンを加えて、口をキュッと結ぶように。
俺たちの視線に気づいた先輩は、すぐに表情を戻してオムライスを食べ始めてしまった。
その笑顔はおそらく3秒も見れなかったが、その後に食べるオムライスがやけに美味しく感じた。
俺の両親は自由だったから、家族でご飯を一緒に食べる機会はそう多くなかった。
正直、食事は作業になっていた。
だからこうやって、楽しく話しながら食事をするのはとても楽しい。
それに先輩のあんなに可愛い笑顔もついてくるなんて。
先輩の笑顔が可愛すぎて、それまでの出来事がなかったかのように感じられた。
きっと先輩は俺を嫌っているのではないと、そんな希望的観測を抱きながら、皿洗いをしていた。
「洋子さ~んただいま~!まだご飯ある~?」
「あら、愛花ちゃん。おかえり。ご飯あるわよ」
そういえば、ここにはもう一人、大学一年生の女の人が住んでるって言ってたな。
愛花さんっていうのか。
「あ、やば!予約してたゲーム受け取ってくるの忘れた!最悪~今日やろうと思ったのに~」
愛花さんがふと目線をこちらを向ける。
とりあえず自己紹介するか。
「あ、今日からここでお世話になります、平と言います!」
「へえ~、君が平くんか。よろしくね~。じゃあさっそくだけど、ゲーム受け取りに行ってくれる?」
「え?俺がですか」
「そう。私今からご飯食べるし。」
「あ、明日じゃダメなんですか?」
「今日発売なんだよ?発売日にやりたいじゃん!せっかく予約したんだし」
「は、はあ…あっくんじゃダメなんですか?」
「あっくんが夜に外出たら、職質されまくっていつ帰ってくるかわかんないでしょ」
ぐうの音も出なかった。
「洋子さん行かせるわけにもいかないしね~。あ~でもまだ道わかんないか。翠ちゃんついていってあげて~」
え、待て待て待て、先輩と一緒に?
ゲームの受け取りとはいえ、四捨五入したらデートでは?
「なんで私が…」
「散歩がてら案内してあげればいいじゃない。後輩が来るのちょっと楽しみにしてたくせに」
「んな…そ、そんなこと…!」
「はいはい、いいからとりあえず行ってきて!前言ってた翠ちゃんが読みたい本、友達が貸してくれるか聞いてみるから」
「わ、わかった…」
こうして、先輩と二人でゲームショップへ行くことになった。
…やべ、何話そう。