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第1話 平和じゃない日々の始まり

今日から自由な生活の始まりだ──


俺の親は、子どもの事情など関係なく、気に入った場所があったらすぐに引っ越すような自由人だった。


だから、中学3年生まで何度も転校を経験した。

そのおかげで、人とすぐ仲良くなるすべは手に入れていた。


とはいえ、高校生にまでなって親に振り回されるのは嫌だと思い、田舎の高校へ進学し、なんとか頼み込んで一人暮らしさせてもらうことにした。


一人暮らしといっても、母の知り合いが管理しているアパートに住まわせてもらうので、完全な自由とはいかないが…


それでももう、あのあわただしい生活とはおさらばだ。


何でも話せる親友と一緒にお昼を食べて、部活で仲間と切磋琢磨せっさたくまして、あわよくば可愛い彼女ができて…


人生の中で一度しかないこの青春の3年間を、穏やかで幸せなものにするんだ…!


たいらくーん!助けてー!」


声のした方を振り返ると、ロン毛で無精ひげが生えている明らかに怪しい人がこちらに向かって猛スピードで近づいてくる。


めてー!!」


カッ!ゴロゴロゴロゴロ!


その人は石につまづいて、俺の目の前にピッタリ止まった。

夢かと思う状況だが、とりあえず聞いてみた。


「あの、誰ですかとかなんで俺の名前を知ってるんですかとか聞きたいことはいろいろあるんですけど、なんでスケボーに縄でぐるぐる巻きにされてるんですか?」


「いや~、幸せって慣れると幸せって感じられなくなっちゃうじゃん?

だから、改めて今の生活ができる幸せを噛みしめるために、手と足を使わずに生活してるんだよ。

それで、ちょっとコンビニでも行こうかなと思ったらそこ坂道でさ、めちゃくちゃ加速しちゃって。今に至るってわけ。」


何を言っているのか全く分からなかった。

田舎にはこんなヤバい人がいるのか…


とりあえず関わっちゃダメだと思い、足早にその場を去った。


「ちょっとー!たいらくーん!」


そんな言葉を背に、俺は学校へ行き、入学式は何事もなく終了。

羽瀬はせという男友達ができ、校内を一緒に回ることにした。


2階の図書室の前を通りかかったとき、思わず足を止めてしまった。


──少し空いた窓から吹き込む風になびく黒く長い髪

──真剣に文字を捉えている大きな瞳

──すっと通ったきれいな鼻筋

──桜の花びらのように小さく綺麗な唇

──本をめくる細くて長い指


サンダルの色を見るに、先輩だろう。


こんな先輩と付き合えたらどれほど楽しいだろうか。

恋人の前でもこんな風に奥ゆかしいのだろうか。

それとも、はしゃいで笑ったりするのだろうか。


そんな妄想が頭を離れないまま羽瀬はせと別れ、俺はお世話になるアパートへと向かった。


「あら、たいらくん?いらっしゃい。『メゾン・ド・平和』の管理人の洋子ようこです。」


洋子さんは母の知り合いで、70代くらいの優しそうなおばあさんだ。

こんな穏やかそうな人が管理人なら、平穏な日々を送れるだろう。


と思った矢先──


「洋子さん!ただいま~!」


「あら、あっくんおかえり!今日はどこほっつき歩いていたの?」


あっくんと呼ばれた人のほうを振り返ると、そこには見覚えのある男の姿が。

脇にはスケートボードとロープを抱えている。


「あれ?たいらくん!朝はちゃんと挨拶できなくてごめんね。僕、ここに住んでいる瀬戸篤史せと あつし。気軽にあっくんって読んでね☆」


最悪だ。『メゾン・ド・平和』とは?どこが平和なんだ?


「あ、ちなみにこの平和へいわっていうのはね、私が麻雀が好きだから、一番好きな役の平和ぴんふから取ったの♡」


「洋子さん本当に麻雀強いもんね~。去年の年末なんか負けに負けて、僕最後パンイチで打ってたもんな~」(※あっくんが自主的に脱いでいただけです)


「そういえば、たいらくんもスケボー手足縛り不自由生活やってみなよ!人は何かに縛られないと生きていけないものだよ?」


「何言ってるんですか、結構です!そのままお縄になってください」


「おほお、うまいこと言うねえ!」


こんな生活嫌だ…

平穏へいおんな日々を過ごすためにここまで来たのに…


とりあえずバイト始めて、お金を貯めて引っ越そう!

それまでは羽瀬はせの家に転がり込もう。


「とりあえずしばらくは友達の家に行きます!」


「あ、ちょっと待ってたいらくん」


この高校に進学したことさえ後悔していた俺だったが、すぐにその考えを改めることになろうとは──


「ただいま、洋子さん」


──風になびく黒く長い髪

──遠くからでも分かる大きな瞳

──すっと通ったきれいな鼻筋

──桜の花びらのように小さく綺麗な唇

──かばんを持つ細くて長い指


俺は図書室の前を通りかかったときと同じように、思わず足を止めてしまった。


「俺、やっぱここに住みます…」

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