Maid 9. 正義の味方
3人は意味ありげにニヤニヤと笑いながら、ガーネットを見ている。
「シャ~~~~~!!」
マリンが威嚇するが、
「ダメよ、マリン!!その人たちは私を助けてくれた優しい人なんだから!」
ガーネットはマリンをたしなめると、3人に改めてお礼を言う。
「先ほどはありがとうございました。おかげさまで、すんなりとことが運びました」
深く頭を下げたガーネットに、
「礼儀正しいお嬢さんだねぇ!...じゃあ、こういう時の誠意の表し方...」
アメジストは軽く笑いながら、何か口にしようとしたが、
「あの!アメジストさんはあの時のこと、見てたんですよね?!」
ガーネットに遮られてしまった。
(もしかして姫様が!!)
必死な形相のガーネットに、
「そ、そ、それは...」
思わず、たじろいでしまうアメジスト。
「お願いです!!詳しく、教えてください!!」
しかし、ガーネットはそんなアメジストを、更に問い詰める。
(まさか、『見てない』とは言えない雰囲気だね...)
そう感じたアメジストは、
「そんなのどうだっていいじゃないのさ!」
なんとかごまかそうと試みる。すると、
「そういうわけには!...って、姫様がいらっしゃるはずないですよね...」
ガーネットは急に落ち込んだ表情になった。
「ど、どうしたんだい?」
その様子に、少し慌てているアメジスト。それに対し、
「ん?...ということは...」
ガーネットは何かに気付いたようだった。
「そんなことより早くもらうもの、もらっちゃうっス!」
すると、隣で二人のやり取りを見ていた元気な少女、パールがしびれを切らしたように、アメジストに話しかける。
「そ、そうだったね!」
気を取り直したアメジストは、
「それよりも助けてあげたよね!!その代わりと言っちゃなんだけど、魔石のお金をちょ~~~っとばかし、分けてくれると、お姉さんうれしいな~~!」
口ぶりは丁寧だが、虫のいいお願いをしてくる。
「シャ~~~~~!!」
怒り心頭のマリンだが、
「もちろんです!!」
ガーネットは素直に財布を取り出す。
「...いい子だ!まあ、金貨1枚で...」
ヒスイが女性にしては低い、中性的な声でそう口にしたが、
「はい!!」
ガーネットは笑顔で、10枚、全てをアメジストに差し出した。
「「「・・・」」」
固まってしまうアメジストたち。
時間が止まったかのような光景に、道行く人が不思議そうな顔をして、通り過ぎた。
「ちょっと!!なんで全部、出すんスか!!...少しだけ分けてくれれば...」
慌てて声を上げるパールの口を、とっさにアメジストはふさいだ。
「そ、そ、そうだね!!...あ、ありがたくいただいておくとしようか!」
そう言いながらも、アメジストは『何かの罠なのでは』とでも思ったのか、慎重に金貨をその手に受け取る。
「おい!いいのか?さすがに...」
普段、クールなヒスイも、動揺した様子でアメジストを諭すが、
「『くれる』って言ってんだから、受け取るのが礼儀ってもんだろ!」
アメジストは完全に、開き直っているようだ。
しかし、さすがに後ろめたいのか、ガーネットの顔をうかがうと、
「私は当然のことをしただけです!むしろ、これでは足りないと思うのですが、私には余裕がなくて...」
ガーネットはなぜか、申し訳なさそうにしていた。
「じゅ、十分っス!!って、ホントに全部もらっていいんスか?!」
パールがガーネットに再度、尋ねると、
「そうだぞ!今からでも遅くは...」
ヒスイも考えを改めるように忠告する。しかし、
「いいえ!この度は本当にありがとうございました!!これからも頑張ってください!!」
ガーネットは笑顔でもう一度、礼を言うと、その場を去っていった。
「アメジスト!いいんスか?あたい、ちょっと罪悪感が...」
「そうだ!今からでも、半分返して...」
パールとヒスイは、アメジストに詰め寄るが、
「い、いいじゃないか!あの子も納得してるんだし...」
アメジストは結局、全額もらうことにしたのだった。
「でも、『頑張って』ってどういう意味なんだろうね?」
ガーネットの最後の言葉に、引っかかるものを感じながら...
☆彡彡彡
「ミャ~~~~!!...ミャ~~~~!!...」
アメジストたちと別れてから、マリンが何度もガーネットにまとわりつき、必死に何かを訴えている。
「もう!マリン、どうしたの?今日はいい人に会えて良かったね!」
しかし、ガーネットはマリンに笑いかけるだけだ。
「ミャ~~~~!!」
更にマリンが声を上げると、
「マリンも見たんでしょ?あの人たちが私をオーガから助けてくれるところ!」
ガーネットがそう言った。
「ミャッ?!」
マリンが首を傾げていると、
「オーガはすごい魔法で倒されていた...この辺りでそんな魔法を使えるのは、きっと、銀級のあの人たちくらいなんじゃないかな!」
ガーネットは魔法のことを良く知らない。
普段、姫様の魔法ばかり見ているので、それがいかに規格外か理解していなかった。
だから、魔石のあった場所に残されていた大きな穴を見ても、銀級の優秀な魔法使いなら、そんなことができると思ったのだった。
「ミャ~~~~!!」
マリンは何か言いたげに鳴くが、
「つまり、あの人たちは私を助けてくれただけでなく、私が魔石を横取りしても、ギルドで困らないように、私が倒したことにしてくれた...」
ガーネットは自分の推理を述べていく。
「そして、お金を返そうとしても、『全部はいらない』なんて...きっと、ああいう人たちを『正義の味方』って言うのね!!」
ガーネットは陶酔したような顔をしている。
「ミャッ?!」
それに対して、愕然とした表情を見せるマリン。
「本当は助けてくれたお礼と、ギルドでもらった星も返さないといけないんだけど...当たり前のように『いらない』なんて...普通、言えないよね!」
しかし、ガーネットはすっかり、アメジストたちを善人だと思い込んでいるようだった。そればかりか、
「もしかして、崖で意識を失った私を助けてくれたのも!!...そう考えると、全ての説明がつく!!」
ガーネットは思いついたように叫ぶ。
「ミャッ!!ミャ~~~~!!」
マリンは必死で訴えるが、
「すごいなぁ...あんなふうに人を助けて回っている人がいるなんて...尊敬しちゃう!!」
うっとりとしたガーネットの目に、
「ミャ~~~~~~!!」
絶望したように大声を出すマリンだった。