Maid 6. オーガの魔石
「ガーネット!大丈夫?...可哀そうに...ヒール!」
姫様はガーネットを回復すると、優しく膝枕してあげる。
「んん!」
ガーネットがうめき声を上げると、
「どうしたの?苦しいの?顔に怪我とかしてない?」
姫様はガーネットの顔を間近で観察しだした。
(ち、近くで見たらもっと可愛い!!...それに...柔らかそうな唇...色もピンク色で...)
気が付けば、二人の唇は触れ合いそうな距離に...そして、
「ガーネット...」
姫様が目を閉じたその時、
「んん!姫様?」
ガーネットの正気の声。
<ポンッ!>
姫様は瞬時に猫に変わる。
ガーネットはというと、ぼんやりした顔で目をこすっていた。
「今...姫様が...私に...キ、キ、キスを...」
おぼろげな記憶に、ガーネットの顔が真っ赤に染まる。
「ミャッ!ミャッ!」
マリンは言い訳するように、必死に首を振っていたが、
「...夢...か...私ったらなんて夢を!!」
そう結論付けたガーネットが、申し訳なさそうに目を伏せる。
「ミャ~~~!」
マリンがホッとしたような、少し残念なような顔をしていると、
「そんなことよりオーガ!!私、助かったの?」
ガーネットが今更ながら、周りに何もいないのを見て、胸を撫で下ろしていた。
「ミャ~~~~!!」
マリンは、安心させるようにうなずく。
「あの時といい、今といい...誰かが助けてくれたのかな?まさか姫様が!!」
「ミャッ!!」
その言葉にマリンがまた、うろたえているが、
「そんなわけないよね!...ダメね!私、たった3日、姫様に会えないだけで...」
ガーネットは自嘲気味に笑った。
「ミャ~~~~...」
マリンは微妙な鳴き声を上げたのだった。
「さて、今のうちに...」
ガーネットがその場を去ろうとするが、
「ミャ~~~~~!!」
マリンは大きく鳴くと、森の中に戻っていく。
「どうしたの?マリン!森の中は危険...」
そう言いながらも、マリンを放ってはおけない。森に入ると、
「これは...」
森の中に大きな穴ができていた。
その中心には、
「魔石!!」
ガーネットの顔ほどもある、大きな黒い鉱石が落ちていた。
魔石というのは、魔物を倒したら残る黒色の鉱物で、強い魔物ほど、大きな魔石を残す。
これは魔力が結晶化したもので、魔力を抽出することができるため、魔道具の動力源として、高値で売買されていた。
「これほどの魔石ともなれば、金貨10枚以上で売れるかも!!」
ガーネットの目が輝く。
ちなみに金貨10枚は日本円に換算すると、100万円くらいになる。
「まさかオーガの?...でも、私が倒したわけでもないのに、もらうのは...」
ガーネットは後ろめたさを感じているようだったが、
「ミャ~~~~!!」
マリンが背中を押すように声を上げる。すると、
「そ、そうだよね!ここに残しておくと、いずれ魔力に戻ってしまうから...誰かが持っていって、有効活用した方がいいよね!」
ガーネットは言い訳するようにそう言うと、その魔石を拾い上げた。
「意外と軽いんだね!...でも、邪魔だなぁ...」
少し、顔をしかめたガーネットだったが、旅にはお金がかかる。
「仕様がないか!...でも、目立つとあれだから...」
諦めたように口にしたガーネットは、魔石を他の人に見られないように、メイド服の中に隠す。
それでも大きいので、おなかがぷっくりと膨れて見えた。
「妊娠したみたいだね!」
ガーネットが冗談を言うと、
「ミャ~~~~~!!」
マリンは真っ赤になりながら両手を振ったのだった。
☆彡彡彡
それから2日。
二人はミールの街に来ていた。
王都から近いだけあって、なかなか栄えている。
「とりあえず、宿を...って魔石が邪魔だね!先に売っちゃおうか?」
そう判断したガーネットは冒険者ギルドへと向かう。
魔石の買取は主に冒険者ギルドで行われていた。
それ以外でも取り扱っている店はあるのだが、信頼がおけるかどうか分からないので、知らない街ではギルドで売るのが普通である。
<ギィ!>
きしんだ扉を開けて、ガーネットが冒険者ギルドへ入ってくると、周りから奇異の目で見られた。
それはそうだ。
冒険者が出入りするギルドに、メイドと白猫が入ってきたのだから。
しかも、服の中には何かを隠しているようで、ぷっくりと膨らんでいる。
周りの遠慮のない視線に耐えながら、ガーネットは受付へと向かう。
「...なんの御用でしょうか?」
受付嬢の声からも不審の色がありありと感じられた。
「あの...魔石を売りたいのですが...」
そう口にすると、ガーネットは服の中から魔石を取り出す。
「これは!!」
受付嬢の目が驚愕に見開かれる。
この辺りでは滅多に見ない大きさの魔石だったからだ。
「おお!」
「なんだあれ?!」
「ドラゴンでも倒したのか?!」
ガーネットの様子をうかがっていた冒険者たちからも、驚きの声が上がっていた。
「す、すいません!私ではちょっと...マスター!!」
受付嬢がギルドマスターを呼ぶ。
「なんだ?さっきから騒がしい...ってなんだこれ?!」
奥から面倒そうな顔で出てきたギルドマスターだったが、魔石を見て顔色が変わる。そして、
「嬢ちゃん、これ、どうやって手に入れたんだい?」
マスターはガーネットにそう尋ねてきた。
「こ、こ、これは...その...ち、近くの山の森で...オ、オーガを...」
ガーネットがしどろもどろで答えると、
「オーガって、あの山の主のか?!あれは発見されてから何年も倒されていない、A級指定されてる魔物だぞ?!」
マスターは『信じられない』といった顔だ。
「は、はい...多分...」
ガーネットがハッキリしない返事をしていると、
「嬢ちゃん、メイドみたいな格好をしているが、冒険者かい?それとも貴族の護衛で強力な魔法を使えるとか?」
マスターはガーネットの身元を確かめてくる。
「わ、私は...」
(どうしよう...『姫様のお付き』だとは言えないし...)
ガーネットが黙り込んでいると、
「まさか、屋敷から盗んできたんじゃないだろうな?」
マスターが鋭い目でガーネットを見つめる。
どうやら、メイドが仕えている貴族の所有する魔石を、こっそり換金しようとしていると思われたようだった。すると、
「シャ~~~~~!!」
マリンが怒ったようにマスターを威嚇する。
「おい、おい、なんだお前ら?...悪いが、怪しげな出所の魔石は...」
マスターが断ろうとすると、
「その魔石はその子んだよ!オーガを倒したというのも本当さ!あたしが実際にこの目で見たんだから、間違いないよ!」
ギルドの入口から、きっぷのいい女性の声が聞こえた。