Maid 5. 洞窟の向こうへ
「あ~~~~、良く寝た!って、痛!!...筋肉痛が...」
ガーネットは起きるなり、眉を寄せる。
「ミャ~~~~?」
マリンが心配そうに近づいてきた。
「心配してくれてるの?大丈夫!それより、今日は崖を下りなきゃ...」
マリンに笑いかけながらも、不安そうなガーネット。しかし、
「ミャ~~~~!」
誘うように一声、鳴くと、マリンは洞窟の奥へと歩いていった。
「どこに行くの?そっちには何も...」
ガーネットが追いかけていくと、
「あっ!壁が崩れてる...まだ先があったんだね!」
「ミャ~~~~!」
驚いているガーネットをよそに、マリンは更に奥へと進んでいく。
「あっ!ここも!」
洞窟はあちこちで崩れ、別の洞窟につながっていた。
そして、歩くこと1時間弱。
「ここは...」
ガーネットたちは山の反対側に出た。
そこは鬱蒼とした森になっており、緩やかに傾斜していた。
「あの洞窟がここまでつながってたなんて...どうして分かったの?」
ガーネットはマリンに聞くが、
「ミャ~~~~!」
マリンの鳴き声からは何も感じ取れなかった。
「そっか...でもありがと!これで危険な崖下りをしなくて済む...でも...」
ガーネットは周りを見渡す。
木々が生い茂り、見通しが悪かった。
「どこに魔物が隠れてるか分からないね!気をつけないと!!」
「ミャ~~~~!」
二人は木や草むらに身を隠しながら、慎重に山を下りていくのだった。
☆彡彡彡
「もう少しで森を抜けそうだね!」
「ミャ~~~~!」
ガーネットたちは夕方近くまでかけて、なんとか山のふもとまで下りてきた。
途中、何度か魔物に見つかりそうになったが、無事、切り抜けることができた。
そして、森の入口にある、一本の大きな木に身を隠して、その先の草原を見渡す。
「ここから先は草原!危険な魔物は少ないけれど、身を隠す場所もない!街道に出るまでは気を抜けないね!」
ガーネットがマリンに話しかけるが、
「ミャ~~~~~~!!」
マリンが驚いた声で鳴いていた。
「えっ?」
ガーネットはキョトンとした顔で、マリンの視線の先を見る。
マリンが見ていたのは自分の頭上だった。
「グルル...」
低い唸り声。
「オーガ!!」
ガーネットは驚愕の声を上げる。
しかも普通のオーガの2倍くらいもある、強力な個体だった。
そして恐る恐る、自分が身を隠していた木を見ると、それはオーガの足だった。
「キャ~~~~~~!!」
ガーネットの叫び声。
オーガは途轍もなく体が大きく、力も強い。
魔法こそ使えないものの、その体力は膨大で、熟練の冒険者といえど、倒すのは容易ではない。
しかも、その中でもトップクラスに大きな個体である。
ただのメイドであるガーネットなど、かすり傷さえ、つけられないだろう。
「ミャ~~~~!!」
「マリン!!こっち!!」
マリンの声で冷静さを取り戻したガーネットは草原へと走りだす。
今、できることは『逃げる』の一択だ。
「はぁ...はぁ...」
マリンとともに全速力で草原を疾走するガーネット。しかし、
<ズン!ズン!ズン!>
たった3歩で追いつかれてしまった。
歩幅が全然、違う。
「グォォ~~~~!!」
雄たけびを上げ、棍棒を振り下ろすオーガ。
<ズド~~~~ン!!>
すさまじい轟音と、地震かと思うほどの振動。
「キャ~~~~~!!」
ガーネットは直撃こそ免れたものの、地上高く、吹き飛ばされる。
<ドサッ!>
地面に強く激突したガーネットは、
「うう...ん...」
そのまま意識を失ってしまった。
「・・・」
その様子を黙って見下ろしていたオーガは、その棍棒を大きく振りかぶる。
そして、ガーネットに思いっきり叩きつけた。
<ガン!!>
硬質な音。
「グァァ~~~~!!」
叫び声を上げたのはオーガ。
棍棒を投げ捨て、腕を押さえている。
まるで何か硬いものに弾かれ、腕がしびれたかのようだ。
ガーネットに目をやると、全く傷ついていない。
不思議に思ったオーガだったが、ガーネットの体が薄い膜で覆われているのに気付いた。
「グアッ!」
オーガはそれに見覚えがあった。
以前、強力な冒険者パーティーと戦った際に、僧侶が使った魔法-『対物理障壁』だ。
物理攻撃を軽減する力を持つ。
ただ、その高レベルの冒険者ですら、完全にオーガの攻撃を無効化することはできなかった。
ある程度のダメージは与えられたはずだ。
オーガはガーネットを観察する。
地面に叩きつけられた衝撃でぐったりはしているが、自分の攻撃でかすり傷一つ、ついた様子はない。
首を傾げるオーガに後ろから声がかけられた。
「私のガーネットに手を出して、タダで済むとは思わないことね!!」
そこにいたのは白いドレスを着た美しい少女だった。
「グアッ?」
再び、首をひねっているオーガ。
この少女はどこから来たのだろう?
それにこの途轍もない防御力を持つ、障壁を張ったのは彼女なのだろうか?
すると、その少女は冷たい口調で言った。
「そうね!あなたには叩き潰される気持ちを教えてあげる!」
<ブルッ!>
オーガは本能的に体が震える。
今まで多くの冒険者や魔物と戦ってきた。
時には負けそうになり、逃げだしたこともある。
しかし、今、彼女から感じた感覚は、生まれて初めてのものだった。
生まれながらに、強力な生命力と力を授かっていたこのオーガは、森の王だ。
自分より強いものには滅多に遭遇しない。
出会ったとしても、ある程度、渡り合うだけの実力は持っていた。
しかし、この少女は違う。
まるで勝てる気がしない。
『次の魔法で自分の命が刈り取られる』
オーガの野生の勘がそう警告を発していた。
「ギァァァ~~~~~~!!」
森の王としてのプライドも投げ捨て、全力で森の中へと逃げるオーガ。しかし、
「ビッグフット!」
姫様の詠唱とともに、オーガの頭上を広く雲が覆い、中から大きな足が出てきた。
その大きさは巨大で、オーガの数十倍はある。
「ギァァ~~~~!!」
必死で逃げるオーガ。しかし、
<プチッ!>
オーガはアリのように踏み潰されてしまった。