Maid 3. 姫様の思い出
「あれ?怪我が治ってる...顔の汚れも...」
ガーネットは洞窟の中で手ごろな岩を見つけると、そこに座って一息ついていたが、自分の体の変化に気付く。
「そういえば...」
ガーネットは目を覚ます瞬間に、姫様の幻を見たことを思い出した。
「...もしかして、姫様が助けてくれたの?」
誰にともなくつぶやくガーネット。
「ミャ~~~!」
マリンはというと、すました顔をしている。
「そんなわけないか!姫様はお城にいらっしゃるはず!!ううん!そうでないといけないの!!」
しかし、ガーネットは即座にその考えを否定した。
「ミャ~~...」
不満そうな声を出すマリン。
「そっか!マリンは姫様を知らないのよね!...姫様はね!とても素敵な方なのよ!」
そんなマリンにガーネットは、姫様との思い出を話しだした。
〇・〇・〇
「マジックアロー!」
姫様が魔法を詠唱する。
すると姫様の前に100の光の球が現れ、それがものすごい速さで、ランダムな軌道を描きながら、遠く離れた的へと向かう。そして、
<ズバ~~~~~~~~ン!!>
轟音とともに、100の標的、全てを木っ端微塵に吹き飛ばした。
「「おおおぉぉ~~~~~!!」」
見物していた貴族の大歓声の後、
<パチパチパチパチ...>
いつまでも拍手が鳴りやまなかった。
ここは王城の軍隊の練習場。その中の魔法使いや弓兵が訓練をする場所だ。
普通は、的から数十メートルほど離れた位置から狙うのだが、姫様は練習場の端の端。400メートルは離れているだろうか。そこから100全ての的を破壊したのだ。
「素晴らしい!!魔法の数!!威力!!制御能力!!どれをとってもこの国で一番!!いや世界で一番かもしれませぬ!!」
年老いた、大きなつばのとんがり帽子をかぶった、魔法使いの師匠らしき男性が褒めちぎると、
「うむ!我が娘ながらよくぞここまで魔法を極めた!!これでこの国に何があっても安泰じゃ!!」
宝石で飾られた王冠と、この上なく豪華な装飾で彩られた服を着た国王も、特別に設えられた椅子からその様子を見て、満足げにうなずく。
「ありがとうございます...では、私はこれにて失礼させていただきます」
姫様は深く礼をすると、ガーネットを連れ、その場を立ち去った。
自室へと向け、広い廊下を歩いていく姫様とガーネット。
「さすが姫様!すごいです!!」
ガーネットが興奮していると、
「そりゃそうよ!このくらい強くならないと、ガーネットを守れないじゃない!」
姫様はガーネットに笑いかけながら言う。
「えっ?!私を?!」
その言葉にガーネットは、驚きのあまり、ポカンと口を開けているが、
「そう!二人がずっと一緒にいられるように、どんな危険が襲ってきても、ガーネットを守れる力が私には必要なの!!」
姫様はそう言い切った。すると、
「そんな...本来、姫様をお守りしなければならないのは私の方で...なのに私は剣も魔法の才能も...」
ガーネットはいたたまれないような顔に変わる。
「ふふふ!私はガーネットがいてくれたらそれでいいの!ちょっと疲れたわ!部屋に着いたら、お茶を淹れてくれるかしら?」
「はい!!喜んで!!」
姫様の言葉にガーネットは笑顔の花を咲かせるのだった。
<ガチャ!>
ガーネットが部屋の扉を開ける。
姫様が入ろうとしたちょうどその時、
「姫様!王様がお呼びです!!」
王宮の官吏の声がかけられた。
〇・〇・〇
「この時はまさか、私がこんな危険な旅に出るなんて思わなかったなぁ...」
ガーネットが遠い目をして口にする。
「ミャ~~~~?」
マリンが微妙な顔をすると、
「あっ!ゴメンゴメン!これはちょうどマリンに会って旅に出た日の朝の話なの!...私が言いたかったのは『姫様が私なんかのために強くなろうとしてくれた』ってことで...」
ガーネットは恥ずかしそうに、それでいてうれしさが隠し切れない声でそう言った。
「ミャ~~~!!」
マリンがどこか誇らしげに鳴くと、
「ふふふ!マリンにも分かる?姫様が素晴らしさが!!」
「ミャ~~...」
ガーネットはうれしそうに笑うが、マリンは照れくさそうだ。
しかし、それを無視してガーネットは続ける。
「だから、私、決めたの!!今回は、何がなんでも『奇跡の雫』を手に入れるって!!そしたら、私も姫様にお返しできる!!」
「ミャ~~~!!」
決意に満ちたその口調に、マリンはうれしそうに声を上げる。
「『緑の奇跡』っていうのが気になるけど、違ったらまた探せばいいだけ!!見つかるまで私は諦めない!!そして姫様に喜んでもらうの!!」
「ミャ~~!ミャ~~!」
ガーネットの言葉に、マリンは相槌を打つように小躍りしている。
「それまで...待っていてくださいね!...でも...ホント言うと...姫様に...会いたい...」
ガーネットはそう口にすると、マリンを持ち上げ、ギュッと抱きしめた。
「ミャ~~~...」
ガーネットの目にうっすらと涙がにじんでいるのを見て、マリンは切なそうな声を出すのだった。