Maid 2. マリンの正体
落下していく女の子。
その時、マリンに異変が起こった。
<ポンッ!>
白い煙がマリンを包み、その姿を隠す。
その煙が晴れた時...そこにいたのは、真っ白なドレスを着た、綺麗な少女だった。
「ガーネット!」
落ちていく女の子に向け、叫ぶと魔法を唱える。
「重力操作!」
その詠唱とともに、二人の落下速度が落ちていく。
やがて、二人は空中に静止した。
「もう!ガーネットったら...無理しすぎ!」
怒ったような、それでいて愛おしいような声でそう口にした少女は、とても美しい姿をしていた。
一分の隙もない、整った顔。
空色のストレートの髪を腰まで伸ばしている。
愛嬌のある目の色は、綺麗な深い青色だった。
年の頃はガーネットと同じくらいだろうか?
ガーネットよりも少し身長のある彼女は、ガーネット同様、素晴らしいスタイルだ。
胸はガーネットほどではないが大きく、ドレスを大きく押し上げている。
キュッと締まったドレスの腰回りは細く、綺麗なウエストであることを示していた。
フワッと大きく広がったドレスは足首まで隠しているが、やや高めのヒールからわずかに見える足は、細く白かった。
おそらく、ガーネットの言っていた『姫様』なのだろう。
その身に着けている仕立ての良い豪華なドレス。
頭にかぶった銀製のティアラ。
そして何より、その動作から感じられる気品がそれを表していた。
「キ~~~~~!」
「キ~~~~~!」
「っ!!」
近くから聞こえてきたクリフホークたちの鳴き声に、姫様は周囲を見渡す。
いつの間にか、上空で待機していたクリフホークたちが、姫様とガーネットを取り囲んでいた。そして、
「キ~~~~~~~!!」
一際、大きく鳴くと、一斉に襲いかかってくる。
どんどんと迫ってくるクリフホークたち。しかし、
「私のガーネットに触らないで!!」
姫様は一声、叫ぶと魔法を詠唱する。
「ウィンドカッター!」
その瞬間、姫様の周りに無数の圧縮された空気の刃が出来上がった。
その数は4、50ほどにのぼるだろうか?
これだけの数の刃を同時に作り出せる魔法使いは、世界広しといえども、数えるほどしかいないだろう。
姫様は世界最高峰の力を持つ、魔法使いであることを示していた。
「キ~~~~~~~!!」
しかし、ひるむことなく、数の力でねじ伏せようとするクリフホークたち。
「ふん!」
そんなクリフホークを冷たい目で見つめると、姫様は刃を四方八方に飛ばす。
<ズバッ!!>
「キ~~~~~!!」
風の刃は、正確にクリフホークたちの翼を切り裂いていく。
飛ぶ力を失い、次々と落下していくクリフホークたち。
たった一発の魔法で、あれほどいたクリフホークの姿は、その場から消えてしまっていた。
「ふう...他愛もないわね...」
姫様は一言、つぶやくと、ガーネットに目を向ける。
「もう大丈夫よ!」
優しく微笑みかけると、姫様はガーネットとともに崖の上を目指して、浮かび上がっていった。
☆彡彡彡
ほどなく、崖の上にたどり着く。
山の中腹に孤立した、5m四方ほどの狭い岩場に到着した。
高い崖を登らなければ決して来ることができない、到達困難な地の上に、二人はふわりと浮かんでいる。
やがて、姫様はガーネットをその場に横にして寝かせると、状態を確かめる。
「こんなに泥だらけになって...すり傷もたくさん!!...可哀そうに...私が治してあげるからね!!」
そして、魔法を唱えた。
「ヒール!」
姫様の詠唱と同時に、ガーネットの体がぼんやりとした光に包まれる。
次の瞬間には全ての怪我が治癒されていた。
「ス~~~...ス~~~...」
穏やかな寝息を立てだすガーネット。
「・・・」
そんなガーネットの顔を、姫様は優しい表情で眺める。
「こんなに汚れて...可愛い顔が台無し!!」
そう言った姫様はハンカチを取り出すと、魔法を唱えた。
「ウォーター!」
すると、空中に水の塊ができる。
球状に浮いているその塊は温かいお湯だった。
そのお湯にハンカチを浸すと、姫様はガーネットの顔をきれいに拭きだす。
しばらくの後、
「うん!きれいになった!やっぱりガーネットは可愛い!!」
ガーネットの顔を見つめる姫様が笑顔になる。その時だった。
「んん...姫様?」
ガーネットが軽くうめくと、まぶたがかすかに痙攣する。
「いけない!!」
<ポンッ!>
また、白い煙が姫様を包み、その姿を隠す。
「んん...ああ、マリンだったんだね!」
目を開けたガーネットの瞳に飛び込んできたのは、心配そうにガーネットをのぞき込むマリンだった。
「ミャ~~~!!」
うれしそうに頬ずりしてくるマリン。
「ふふふ!ありがと!」
そう言ったガーネットがマリンを胸に抱きとめると、マリンの頬が赤く染まる。
それをよそに、ガーネットは辺りを見回した。
「ここは...私、登り切ったの?!」
『信じられない』といった顔のガーネット。
崖の際に移動すると下をのぞき込む。
「キャッ!」
恐ろしさのあまり、すぐに目を逸らすと山肌にもたれかかる。すると、
<ガラガラガラ!!>
土が脆かったのか、山肌の一部が崩れ去る。
その奥には広い空洞が。
「ミャ~~~~~!」
中へと入っていくマリン。
「待って!」
ガーネットも急いで追いかけると、そこは吹きつける風もなく、太陽の強い日差しも遮ってくれる、適度な温度の快適な空間だった。
「夜中までここで休もっか?」
マリンに話しかけたガーネットだったが、
「そうだ!!『奇跡の花』!!きっとこの岩場のどこかに...」
いきなりそう叫ぶと、洞窟の入口から顔を出す。
「あった!」
ガーネットが岩場の真ん中に生えている、一株の草を見つけた。
それは10cmくらいの可憐な草で、固く閉じたつぼみをつけていた。
そのつぼみは若草色でほのかに中が光って見える。
「間違いない!」
草のそばに駆け寄ったガーネットが、うれしそうな顔に変わる。
『緑の奇跡』。それはガーネットが王城の書物庫で読んだ本に記述されていた。
他の植物が育つことのできない、不毛の岩場で芽を出す。
そして長く長く根を伸ばし、地中にあるほんの少しの養分を使って、徐々に徐々に成長していく。
数十年かけて10cmほどに成長した草は、満月の夜に花を咲かせる。
長い年月をかけて集められた栄養を、凝縮して作られるその蜜は、あらゆる怪我を癒やすという。
「今夜は満月!きっと花を咲かせるはず!ねぇ!マリン?」
「ミャ~~~~!!」
期待するように、そう口にしたガーネットに、マリンはうれしそうに鳴いたのだった。