第七話 目撃
有栖と協力関係を結んでから早数日、私はスマホの画面を定期的に覗きながら日常を過ごしており、あの日から必ずトレンドに未確認生物と打ち込んで検索して逐一見るようにしていた。情報が出たら直ぐにでも駆け付けれるように出来ることがそれくらいしかなかったのだ。
だけど当然ながらそんなしょっちゅう事件など起こるわけもなく、ただスマホばかり見ているだけの非行少女が三人出来上がってしまっていた。
そして昼休み、スマホの更新ボタンを定期的に押しながら天とお弁当を食べている
「...うちらさぁ」
「はい」
「めっちゃ行儀悪くない?」
「ふふふっ、いきなりやめてくださいよ」
実際肩肘ついて昼ごはんを食べている私たちは相当教育に悪い格好をしていて、先生に見られたら普通に怒られてしまいそうである。
そうして今日も何事もなく昼休みが終わろうとしており、教室に歩きながらダメ押しで最後に更新ボタンを押そうとスマホの画面を見ると、見たことない程の未読件数が表示されていた。
心臓が一つ跳ねる。緊張しながらその未読投稿を表示する。
「きたっ!」
そこには大量の困惑と避難を仰ぐような文章が羅列されていた。投稿の中には場所も書かれており、状況が投稿を見ているだけでもひっ迫しているのが分かり、場所もここからそう遠くない駅の構内のようだ。
「天、あかり!」
「有栖!」
有栖が手をあげながら走ってこちらに向かってくる、有栖も恐らく同じものを見たのだろう。
「投稿見たか!」
「うん、駅構内に出現したって」
「えっ?」
一人分かっていない人がいたようで、天は慌ててスマホをいじりだす。それを尻目に私と有栖でこくりと頷く。
「えっと...行く?」
「勿論だろ! そうでなきゃ何でこんなことをしていたのか分からないだろ? そして行かなきゃ何も始まらない!」
「...状況は分かりました。行きましょう」
私たちは学校を抜け出して現場に走り出す。
現場近くには既にとんでもない人だかりができており、すでに警備員が駅への出入り口を封鎖していた。少し遠くにはアナウンサーとカメラが状況を実況しており大惨事だ。
「どうする? 簡単には入れなさそうだぜ」
「そうだね...誰か裏口とか知らない?」
「ふっふっふ」
天が得意げに腕を組んでちょっとキザに笑いだす。その瞬間、ロケーションも相まって天と初めて会ったときの記憶が蘇る。
「あかりは気づいたみたいですね。そうですよ、私にはアレがありますから!」
「アレ? どういうことだ、何かあるのか」
「そういえば有栖は知らなかったね。」
「ふっふっふ、説明するよりも前に実践しましょう! ついてきてください」
私たちはその場から離れて、人気のない場所まで小走りで向かう。
そして人気のない場所に着いたころ、有栖がしびれを切らしたのか聞いてくる
「人気のないところにきたんだが、そろそろ何がしたいのか教えてもらってもいいかい」
「まぁまぁ、そう焦らないでください。今から実践してみせますから!」
天は近くの壁に手を伸ばして力を込める
「はあっ!!!」
すると壁にどこまでも吸い込まれそうな暗黒の大穴が出来る。
「...こ、こりゃすげぇな」
有栖は口をあんぐりと開けて茫然としている。わかる、天のことを色々知った今でも目の前の光景は嘘のようだと思ってしまう。
「ここを潜ると駅の中に入れます、行きましょう」
天はそう言って先行して穴の中に飛び込む
「...どうするよ」
「どうするも何も、行くっきゃないっしょ!」
「それもそうだな...よし!」
一つ深呼吸をして、天の開けた大穴の中に飛び込む有栖。正直この大穴、見ているだけで心がムカムカするというか...不安になるというか、正直入りたくはないと本能が呼びかけてくるのである。私はこれが安全だと分かっているのでそうでもないけれど、初めて入る人は中々勇気がいると思う。
素直に有栖は凄いなと思った、そして私も大穴に入る。
入った先は中華系の飲食店の厨房だった。まだ美味しそうな匂いが漂っており、少し前まで人がいたことが分かる。天と有栖は待ってくれていたみたいで、天は私を一瞥すると大穴を閉じて外の方を見る。
「先ほど、何か大きな音がしました。早く向かいましょう」
「おう」
「うん!」
返事をした直後にまた大きな音が幾つも鳴る。何かが爆発したような聞いたことがないながらも不快な音だけれど...それが何となく銃声だというのは分かった。
「急ぎましょう、猶予はあまりなさそうです」
天の言葉を合図に走り出す。
音が鳴りやまることはない故に現場には直ぐにたどり着く。
そこには絵に描いたような特殊部隊といった姿をした兵士が怪物と対峙していた。怪物は大人二人分ほどの大きさに白いゴム質の身体、全身には血管が浮かんでおり、手や頭はなく巨大な卵のような体に太く短い脚のみが生えている。
「きっっっしょ!?」
「しっ! 静かに!」
「いや銃声で聞こえねぇだろうよ。...でもマジでキモイなオイ」
その光景がギリギリ見える位置で顔だけ出して見守る私達。一体の怪物相手に、様々な方法をもって応戦するが、状況は芳しくない。
そのゴム質の身体には、銃弾すら効いていないようで、兵士たちは駅構内のシェルターなどを駆使して何とか怪物から逃げ延びている。だがそのシェルターも怪物の凄まじい突進で何度かの攻撃を防いだ後にあっけなく突破されている。
「アレ、どうするよ。どう見ても人間が戦ってどうにかなる相手じゃねぇぞオイ」
「...最悪、私が何とかします」
「出来るの?」
「やるしかありませんよ...見て見ぬふりなんて」
こそこそと相談していると、向こうの方で大きな動きが見えた。どうやら増援が到着したようで、現場で耐えていた兵士たちが安堵してその増援部隊の元に駆け寄る。現場にいた兵士たちより随分軽装に見えるけれど...。
手慣れた様子で怪物を囲うように配置に着いたその部隊。そして奥からピシッとしたスーツを着た黒髪と赤髪の女性がやってくる。
「準備完了しました!」
「よし、構え!」
赤髪の女性が合図をすると兵士たちは何も持たぬまま、銃を構えるような動作をする。正直お笑いコントでも見てるようだけど、ふざけていられるような場面でもない。ちょっと笑ったけれど。
「デモン・トランスレーション!」
兵士たち、そして女性二人がそう発すると、一瞬で今までの服装から変わり、別の服装に変わる。兵士たちの服装は宇宙戦争か何かの映画に出てきそうな近未来的な鎧に、先ほど虚空に構えていた手に銃が生み出されている。
女性二人は黒髪の女性の方は、まるでドラキュラのような服装に背に蝙蝠の羽が生えたような姿に。赤髪の女性の方は髪の色が青のグラデーションが加わった色に変わり、服は北欧ファンタジーの魔女を思わせるような服装に変わり、手には魔導書のようなものを持っている。
「撃て!」
赤髪の女性が命令すると、兵士たちの銃からすさまじい電撃の弾が撃ちだされる。先ほどまで一切の攻撃に動じていなかった怪物が明らかに効いているようにもがき苦しみ姿勢を崩す。
そしてしばらく、兵士たちの銃が弾切れを起こし再装填をする。かなり撃ち込まれたように見えたけれど、まだ怪物はかろうじて生きているようだ。
しかし、怪物が体勢を立て直す隙を与えるはずもなく、女性二人が追い打ちをかける。
「シャドウクロウ!」
「デトネーション!」
黒髪の女性の両手にエネルギーのようなもので作られたかぎ爪のようなものが生まれ、すかさず怪物の胴体を引き裂く。そして赤髪の女性が魔導書を構え、魔導書からすさまじい炎が先ほどの攻撃で付いた傷口をめがけて飛んでいき、怪物を内部から焼き尽くした。
「......」
その光景に私達三人とも思わず口をあんぐりと開けて茫然としてしまう。
そうして、構えながら怪物の沈黙を確認した兵士たちがその場で報告を取り行い始める。
「...凄かったね」
「えぇ、息をするのも忘れるほど圧巻の光景でした」
「なるほどな、怪物たちが外で悪さをし続けない背景に、ああいう人たちの活躍があったってわけだ」
その時、身じろぎした時に天の頭が近くにあった置物にぶつかってしまい、それが割れてしまう。当然、大きな音が鳴ってしまったわけで、兵士たちを取りまとめていた赤髪の女性が先ほどの服に変わり、私達のいる場所にジリジリと近づき始める。
「まずいまずいまずい!何やってんの天!?」
「マジすいません! どうしましょう、一緒に捕まってくれますか!?」
「落ち着けお前ら、怪物から逃げて隠れていたって言えばごまかせるだろうが!」
「それだ!」
有栖の提案に乗って外に出ようとしたときだ。怪物の死骸の辺りで硬い殻を突き破るような音が鳴り、赤髪の女性は後ろを振り返る。
赤髪の女性はすかさず兵士たちへの場所へ戻る。何を思ったのか私たちは逃げ出すこともなく、その光景を見守る。
そして、その正体はすぐにわかる
「離れなさい!」
黒髪の女性がそう言って近くにいた兵士を抱えて後方に跳ぶ。兵士たちがいた場所には何か液体のようなものがまき散らされており、付着した場所はボコボコを泡立ち、その場を溶かしていた。
そして液体をまき散らした中央からは黒い影が怪物の身体から生まれ、一つ体を震わせる。
背からは巨大な虫の羽が生え、影は硬質化して黒い鎧となり、顔は蟻、体の形状は蜂で、身体の表面はまるで黒曜石のように光沢があり、前足に大きな鎌を持ち巨大な四枚の透明な羽が生えた、巨大な虫が生まれたのだった。
「デトネーション!」
すかさず赤髪の女性が応戦するが、その硬質化した身体にはその炎は効かなかった。
怪物は構うこともなく、その場から飛び立った。その速度は目に見えず、その時の衝撃波で近くの建物のガラスが割れ、私達のところにもその破片が飛んでくるほどだ。
怪物が外に逃げたことによって現場はさらに混乱を極め、兵士たちは通信を取りながら怪物を追っていく。
「えっと...え、どうしよう」
色々なことがありすぎて頭が真っ白になる私。
それとは別に天は立ち上がり、すぐ後ろの虚空に空間の大穴を開ける。
「追います。私なら、追えます」