第六話 未確認生物
「...えっと」
ゴールデンウィークが終わって数日後の放課後、少しの用事を足して机に戻ってくると誰かが私の机から目をのぞかせる形でこちらを見ていた。バレていないとでも思っているのだろうか。
「もしもーし、どなたですか」
机に座って目の前の人に話しかける。
「バレていた...だと!?」
「隠れる気がないでしょ」
「お前がメクラチビゴミムシなら私のことを見つけることはできなかったはずだ...!」
「誰だよメクラチビゴミムシ。普通にこれ以上にない位の罵倒でしょそれ」
「うむ、一理ある」
「一理どころじゃないだろ」
目の前の女の子は腕を組んで真剣な表情でうんうんと頷いている。どうしよう、ヤバい奴に出会ってしまった。
「それで...君は誰?」
「なるほど、想定外だ...! 今その質問をしてくるなんてなッ!」
じゃあ何を想定してたんだろう。十分すぎるほど想定できる返答だったと思うんだけど
「波内 有栖! ジャーナリストの卵だぜ!」
「へ、へぇ...私はあかりだよ」
「おーっ! 自己紹介は初対面の基本だよなっ、これからよろしくぅ!」
そう言って私の背中をバシバシと叩く有栖。まるで昔からの親友だとでもいうような距離感に流石に戸惑ってしまう
「えーっと、ジャーナリストを目指してるんだっけ?」
「いや別に」
「ジャーナリストの卵がどうこう言ってなかった!?」
「写真は好きなんだよね」
懐から古めのデジカメを取り出してウィンクをしながら自慢げにしている。その姿自体はそれっぽいけど、何もかも嘘っぽい気もする。
そうこうしていると同じように用事を済ませていた天が教室に戻ってくる
「......。」
「おっ」
「あっ、天」
捨てられた子犬みたいな表情をした後、少しむくれてこっちにやってくる
「...あかり、誰ですかこの人」
そんな浮気現場を目撃したみたいな詰め方してこないでほしい、ちょっと怖い。
「えっと、私もよく分からないんだけど」
「私から自己紹介するよ、波打有栖だよ。よろしく、時之天さん」
そう言って握手を交わそうと手を出し、天はおずおずとその手を取る。三秒ほど握手をした後、私と天に改めて向き直る
「実はキミたちに興味が湧いてね」
「私たちに」
「興味...ですか?」
「その通り。」
そう言って一枚に写真をポケットから取り出して私の机に置く。その写真を見て私と天は目を見開く。
その写真は先日の肝試しで怪物相手に天が戦っているまさにその時を捉えており、多少ぼやけていて見にくいものの、ソレが私たちだと素人目でも分かる程度にはハッキリと撮られている
「...見られていたんですね」
苦い顔をしながら天がそう呟く。私もこんな写真を見せてくるくらいだから何を要求する気なのかと身構える
「それは分かったんだけど、何をしてもらいたいとかあるの?」
「勿論。」
思わず身構えてしまう、このタイミングでこの写真を出して私たちに問いかけてくるということは脅す気満々だと思ったからだ
「っつても、具体的にどうってわけじゃねぇ。一緒に異能者絡みの取材をする手伝いをして欲しいんだ」
「取材...ですか?」
天がおずおずとそう問うと、有栖がニヤリと笑う。
「最近話題の未確認生物って知ってるかい」
「知らない」
「知らないです」
その瞬間、首をガクーッと落として有栖がジト目をこちらに向けてくる
「お前らニュースとか見ねぇのかよ」
「ニュースかぁ...」
「一人暮らしでテレビ回線引いてないですからね」
「現代っ子め」
「その通りだよ?」
「はい」
「うるせぇ同意すんな、ニュースくらい偶には見ろ」
いやぁと苦笑して後ろ頭を掻く天と私を見て、ため息を一つついてからスマホを取り出しニュース番組の録画を見せてくれる
「二日前のニュースだ」
少しの合間の後、本題のニュースが始まる。
『次のニュースです。先ほど未明、〇〇工場にて未確認生物による被害が発生。現場に居合わせた数名が軽傷を負う事件が』
私たちはそのニュースを食い入るように見る。事件の内容、特徴などを照らし合わせると他人事ではない気がしたからだ。
そのニュースが終わると天は顔をあげて有栖に向き直る
「こんなことが今各地で起きているのですか?」
「あぁ、今世間じゃ大騒ぎだぜ?」
「はいはい、質問いいかな?」
私は手をあげて有栖に問う
「あぁ、どうした?」
「確かにこの事件、私たちが遭遇したのと似てるけど、怪物の姿とか違うし、そもそもあの怪物はこっくりさんで呼び出された~みたいな話だったはずだよ」
「良い質問だねぇ、目の付け所が良い!」
私をビシッと指さしながら得意げにそう言うと、ニュース画面を閉じてスクロールさせ、別のニュースを見せてくる。
「これは三週間くらい前だ」
天と顔を見合わせてから再度そのニュースを見ると、同じように超常現象と共に未確認生物が現れ、被害をもたらしたというニュースだ。怪物の特徴は私たちの出会ったものとは全く異なるけれど、場所は廃工場でその事件内容は私達の遭遇したあの事件とかなり類似していた。
「超常現象を起こす怪物が各地に現れては甚大な被害をもたらしている、この国で今問題になってる事件だぜ」
思わず唖然とする。私たちが知らない間に世の中はあんなオカルトな事件がいくつも起きていたというのだ。
「こほん、話を戻すぜ。そんなわけでこの国で何かが起こってる。でも私一人でどうにかなるような事案でもなさそうだからな、お前らに協力してほしいのよ。お前らだって他人事ってわけじゃねぇだろ」
天とお互いの顔色を窺う。どうやら考えることは同じのようだ
「いいよ! そういうことなら私たちに任せて!」
「こいつは口だけの役立たずですが」
「おい」
「私なら何かできることがあるかもしれません。ぜひ協力させてください」
私たちが協力すると宣言すると有栖は二カッと笑って私たちの肩を叩く
「そう来ると思ったぜ、これからよろしくぅ二人とも!」
そうしてここに、この世界の超常現象を調べようとするちっぽけな探索一行が生まれた