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第三話 肝試し

 入学から数週間が経った。ゴールデンウィークも近づいて、入学以降初めての大型連休に教室は浮足立っており、相変わらず瓶眼鏡マスクを外さない天も同じのようだ。

 あれ以来、天と私は普通に仲良くなって、どっちも三須香に知り合いがいないこともあってか、この教室でも二人グループとしていつも一緒にいる。周りにもグループが出来上がり二人グループになったのもあるが、同時に天のこの姿で話しかけてくる人がいないのも原因ともいえる。

 そしてクラスの会話の中で話しているのが聞こえたけれど、やっぱりマスクや眼鏡を外さない理由は聞いても教えてくれないようだ。


 そして昼休み、食堂で天とそのゴールデンウィークについて話し合う。


「ゴールデンウィークどうする? 実家に帰ったりするの?」

「いえ流石に...遠いですし」

「あはは、五百キロくらい離れてるんだっけ?」

「そです」

「そりゃ遠い...ん? でも天の能力で一瞬で行けたりするんじゃ?」

「それは...」


 天は軽く目を反らし、顔に影が差した...気がする。


「ま、まぁ便利すぎる能力ですから少し制限中で。まだホームシックって感じでもないので」

「そっか」


 なんとなくその話題にはあまり触れないことにした、あまり話したくなさそうだから仕方ない。

 それにしても制限中だとごまかしたけれど、もし制限中ではなかったら彼女は五百キロの距離を瞬間移動できるというのだろうか。

 少しだけ沈黙が流れ、天も気まずそうだったので話題を変える。


「じゃあどうせだし改めて三須香の観光しない? ゴールデンウィーク遊ぼうよ!」

「え、いいんですか!?」


 本当に驚いたといった様相で席まで立ってこの話題に食いついてくる。


「全然いいよ。それに実は行きたいところがあるんだよね」

「行きたいところ?」

「そう! 偶々クラスの子たちが話している内容が聞こえてきてさ」


 話ながら天に、スマホの地図のアプリで目的の場所を見せながら説明する。


「ここに、この学園の系列の廃校があるんだけどさ、そこにまつわる怪談話があってね」

「ほう」

「ここで最近こっくりさんをやった子供たちが本当にこっくりさんを召喚してしまって化け物が出現したって今噂なんだよね」

「またそんなありふれた...流石にその子供たちの知り合いが脅かしたとかなのではないですか?」

「ちっちっち~甘いなぁ」

「その妙に腹立つ言い方やめません?」


 この子意外にツッコミの気持ちが良い。

 最初はコミュニケーションが取れない子なのかなと思っていたけれど、単純に聞く専らしく、聞きながら相槌打つのは結構うまい。


「どうやらその一件があってからその廃校は立ち入り禁止になったみたいなんだよね。普通、子供の噂話だけでそこまでする?」

「確かに...。ちなみに噂を聞いたのはいつ頃なんですか?」

「つい三日前」

「随分直近ですね」

「でしょ? なんか匂わない?」

「確かに...」


 二人で顔を見合わせて頷く。


「じゃあ決定! ゴールデンウィークは二人で肝試しと行こう!」

「おーっ!」


 更にノリも良く、話していて心地が良い。案外運命の出会いだったのかもしれない。

 そしてゴールデンウィークの初日、夜中に現場集合の約束をして、二人で肝試しをすることにしたのだ。






 そしてゴールデンウィークの真夜中零時。

 私達は話していた廃校に集まり、ほぼ同時に到着してお互いに挨拶をかわす。


「やっほ~天! ...お、おぅ」

「こんばんわ、どうしました?」

「い、いや...ごめん今は言わせて」

「はい?」

「その顔のマスクと眼鏡、この夜中に見るとめっちゃ怖い」

「私もこんな格好で出歩いていたら、子供じゃなくても捕まりそうでひやひやしながら来ました」

「だろうね! 外国のホラーに出てくるスプラッタ系の殺人鬼みたいだよ!」

「そこまで言いますか!?」


 言いながら二人でけらけらと笑い合う。

 しかし、ふと会話の境目に沈黙が走ると、耳が痛くなるほどの静寂が辺りを包んでいる。その時に改めて肝試しに来たのだと実感する。

 真夜中と言う時間帯と廃校前という立地による相乗効果による恐怖感がじわじわと迫ってくる。


「い、今更だけどさ、廃校ってこう...怖いよね」

「廃校といえば肝試しの定番みたいなところがありますよね。七不思議でしたっけ」

「天は怖くないの...?」

「私はこういうの平気なんですよね」

「同族だから?」

「どういう意味ですかこのやろう」


 そう話している間に天は早く行こうと立ち入り禁止のテープを手でどかしながら、こちらを見る


「どうしたんです? 早く行きましょう」

「ほ...ホントに行くんすか時之さんや」

「何言ってるんですか、行くって言ったのあかりでしょう」

「というかこういう悪いこと平気でやる系女子なんですね時之さん。ハッ!まさか本当の本当にジェイソンの」

「チェンソーがご所望ですか」


 天はチェンソーのエンジンを起動させるジェスチャーをしながら不満を訴える。

 怖がっている私とは対称的に、天は本当にこういうのが大丈夫らしく、全身からワクワクオーラがにじみ出ている。


「...じゃ、じゃあ行きますか」


 意を決して私も天に続いて校門を潜り、天の腕にしがみつきながら玄関前まで辿り着く。

 当然のように玄関の扉は閉まっているかと思ったが


「...開いていますね」

「ふ、普通こういうのって夜とか夜中って閉まってるものじゃないかな!?」

「同意見です。本当に何かある可能性が浮上してきましたね」

「や、やめてよ! 縁起でもない!」

「再度聞きますけど提案したのあかりですよね。どうします? 今日は帰りますか?」

「ここまで来て後退の二文字はないっ!」

「......」


 天からこいつ面倒くさいという視線を強く感じたけれど今だけは許して欲しい。夜の校舎がこんなに怖いとは思わなかったのだ。

 古い校舎というだけあって外観こそ石造りだけど、下駄箱などは木造であり、長く使われていた形跡である悪戯書きや傷が、昼間に見ればほっこりする光景なのだろうが、今この肝試しの時に見るとまるで呪われているか、ここに来るべきではないと警告でもされているようで震えが止まらない。

 相変わらずビビりな私は天の腕にしがみつきながら、懐中電灯の光だけを頼りに散策をする。周りが静かなのもあり、自分たちの足音だけが廊下に反響する。


「妙ですね」

「え? な、なにが?」

「立ち入り禁止テープまであるにも関わらず、校門前にも校舎内にも警備員がいないんですよ」

「そ、そういえば...」

「偶然の可能性もありますが、果たしてそこまで不用心なものでしょうか? あんな如何にもといったものが張られれば好奇心で入る輩は少なからず現れるはずです」

「お、脅かさないでよ...」

「いえ、そんなつもりは」


 会話を絶やさないようにして進んでいると、目の前から少し大きめの風が吹く


「なになになになに!?」

「窓が開いていただけみたいですよ」

「な、なぁんだ、びっくりさせないでよ!」


 思わず胸をなでおろす。

 だが段々と脅かしてくれやがってと何故か無性に腹が立ち、八つ当たり気味に速足かつ足を踏み鳴らしながら、開いている窓の場所まで行く。強めに窓を閉めて鍵をかける


「ふぅ、これで一安心っと。」


 自分をごまかすように手をはらって踏ん反りかえっていると

 目の前に白いものが通りがかる。


「ぎゃあああ! でたあああ!」


 腰を抜かした私の手元にその何かがひらりと落ちる。バタバタと天の足まで四つん這いで駆け寄ってセミの如くしがみつく。

 そんな私の頭を撫でながら特に天は落ち着けと宥めてくれる、本当にありがとうございます。

 しばらくして落ち着いた私は、恐る恐る目を開けてその白いものを確認する


「羽でしょうか」

「羽...羽!?び、びびび、びびらせないでよっ!」

「ホント、何で来たんですかあなた...」


 それは直径七十センチほどの大きな羽で、この暗闇の中でもライトで照らすと一際目立つ、白い光沢を放つ綺麗な羽だ。


「先ほどの突風、もしかして白鳥か何かが侵入していたのではないでしょうか」

「あぁ! なるほど!」


 そうは言いつつも、それが白鳥の羽でないことは二人とも分かっていた。その羽が私たちの知る鳥の羽ではない、何か幻想的な存在のものなんじゃないかと思うほど、たった一枚の羽からでも異彩を放っている。

 私がその羽に見惚れていると、天がその羽をひょいと拾って私に渡してくる。


「お守りに持っててはいかがですか?」

「えっ、いいの? すっごく綺麗だけど」

「はい、記念品として持っててもいいと思いますよ。その羽、あかりに似合うと思います」

「そ、そうかなぁ...えへへ」


 天から羽を受け取って、持ってきたカバンに大切にしまう。

 そして天に励まされたことで少し心が落ち着いた私は、一つ大きな深呼吸をして頬を叩いて気合を入れる。


「よし! 心機一転、探索頑張るぞ!」

「ふふふっ、はい。後ろは任せてください」





 

 そして探索すること一時間、色々な教室を回り、とある教室に入ったときに思わず目を見開いて口を抑える。


「うっ...!?」

「これは...」


 その部屋中が血しぶきで黒ずみ、死体こそなかったものの、処理されきれていない肉片があちこちにこべりつき、それに群がるハエと生臭い匂いが部屋中を支配する。

 そしてその部屋の中央の机の上に、黒ずんで文字がにじんだ一枚の用紙、そこに十円玉が一枚と文字の羅列「こっくりさん」があった。

 

「本当に...本当にこっくりさんが...」

「...早く出ましょう。ここは危険です」

「う、うん...」


 私は目の前の光景の非現実感と衝撃で、足を多少もつらせながら後ずさりする。




 背中に何かが当たる。

 私の背後に、何かがいた。


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