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ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに! リアルでは女の子達と配信はじめます  作者: グミ食べたい
第3章 ドラゴンスレイヤー編

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第53話 雑談 ~インフェルノ攻略~

 料理スキルのバグ騒動が落ち着き、俺達はギルドの拠点である三つ星食堂――ギルド名ではなく、店の方だ――へメインの活動場所を戻していた。

 今日も、店の一角に新設した個室スペースに集まっている。まだメイは来ていないため、今ここにいるのは俺とクマサン、そしてミコトさんという古参のメンバーだけだ。


 余計な混乱をもたらしたあのバグ騒ぎだが、悪いことばかりでもなかった。

 俺の名が知られるようになり、この店を利用してくれるプレイヤーも増えたのだ。

 以前なら、店の食堂のテーブルでギルドメンバーと話していても、客なんて滅多に来ないから周りを気にする必要もなかったが、今では人がいない方が珍しくなり、内輪話をするのも難しくなってしまった。

 そのため、急遽この個室スペースを設けることにした。ここに入れば、外に声が漏れず、内緒話をするにはこれ以上ないくらい便利だ。

 設置費用はかかったが、インフェルノ討伐の報酬が想定以上だったため、資金面の心配はない。


「まさかショウさんの店に、個室ができるとは思っていませんでした」

「確かに」


 ……おい。二人とも、さりげなくひどいこと言ってないか?

 嫌味とかじゃなく、笑顔で悪気なく言っているのが、余計に刺さるんだが。


「でも、ショウさんまで個室に入っていていいんですか? キッチンに誰もいなくなってますけど?」

「それは大丈夫。カウンターに行けば、店主不在でも作り置きしてある料理を勝手に買えるようになってるから」


 注文を受けるたびに店主が必要なシステムなら、俺はこの店に縛りつけられることになる。

 だから店主不在でも商品を売れる仕組みがあるのだが、生産職じゃない人は意外と知らないのかもしれない。


「そうなんですね。私はいつもショウさんに目の前で作ってもらってましたので、気づきませんでした」


 ミコトさんの言葉を聞いて、ふと昔を思い出す。ギルド結成前の暇だった頃は、店に張り付いて客が来るたびに料理を振る舞っていた。

 今となってはそれも懐かしい記憶だが、もしミコトさんが俺のいない時に店へ来ていれば、作り置きの料理が買えることは知っていたはずだ。

 もしかして、俺が店にいないとわかると、そのまま帰ってしまっていたのだろうか?

 いやいや、まさか。

 それじゃあまるで、料理が目的じゃなく、俺に会うのが目的みたいじゃないか。きっと、ミコトさんが来店するタイミングと、俺が店にいるタイミングとが重なっていただけだろう。


「俺は作り置きじゃなくて、ショウが目の前で作ってくれた料理がいい」

「はいはい。クマサンの料理はちゃんとその場で作るから心配しなくていいよ」


 クマサンが俺のハンバーグに特別な思い入れを持っているのは知っている。

 俺としても――クマサンが相手なら、やっぱり目の前で作りたいと思ってしまう。


「……私だって」


 ほんの一瞬だけ、ミコトさんの視線がこちらに向いた。

 何かを言いかけて、すぐに逸らされる。

 その意味を考え始めると――なぜか、妙に落ち着かない。


「ん? ミコトさん、今、何か言った?」

「……なんでもないです」


 ミコトさんはプイと横を向いてしまった。頬を膨らませたその姿は、少し拗ねたように見える。

 彼女のこんな表情は珍しい。どうやら、俺は知らない間に彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。


 ……この短い間に、何があったんだ?

 理由はわからないが、ここはご機嫌をとっておくべきだろう。


「そういえば、ミコトさんはヒーラーとして、クマサンはタンクとして、評価が鰻登りだよね。ギルドマスターとして、俺も鼻が高いよ」


 動画を公開した時から、メンバーそれぞれのプレイに対する評価のコメントが寄せられていたが、最近になってさらにその評価が上がっているのだ。

 それというのも、ネット上でインフェルノの情報が広まり、その討伐がいかに困難かが知られてきたからだ。

 攻略情報を参考にしても、挑戦者達は返り討ちにあってばかりいるらしい。


 料理スキルを使っていた俺は、そこまで意識していなかったが、インフェルノはとにかく硬い。物理は、最大の弱点である頭部を狙わないと大きなダメージが通らず、魔法は部位判定がないため、最も有効な氷属性で攻めても有効打になりにくい。デバフの効きも悪い。

 おまけに、戦闘が一定時間を超えると、あの各種ブレスを吐きまくる地獄モードに突入する。長期戦で地道に削る、という手も取れないのだ。


 ……こういう情報を見るたびに、よく勝てたものだと、改めて思う。

 そんな状況だからこそ、現在主流の戦術はいくつかに分かれている。


 遠距離物理四人構成――理論上は最適解だが、要求されるプレイヤースキルが極めて高い。

 魔法攻撃四人構成――扱いやすいが、崩れやすくSP管理も難しい。

 タンク・ヒーラー入り構成――比較的安定はするが火力不足で長期戦になりやすく、地獄モード突入は避けられない。

 どれも一長一短で、決定的な攻略法には至っていないのが現状だ。


 そんな中で、俺達の攻略は明らかに異質だった。

 職業構成はイレギュラーでありながら、近距離アタッカーを含めた正攻法とも言える戦い方だった。

 しかも、インフェルノの情報がほとんど出回っていない初見の状態で挑み――サーバー内で最初に撃破している。

 その結果、俺達の動画はバグ疑惑が晴れた今、さらに評価を上げていた。


 ――このメンバーで勝てたことが、何より誇らしい。

 自然と、胸の奥が熱くなった。


「インフェルノの攻撃力は桁違いで、タンクがターゲットを取り続けるのが難しいって言われているのに、クマサンはずっと固定し続けてた。他のプレイヤーからも『あんなタンクはほかにいない』って絶賛されてるよ」

「……ミコトがしっかり回復してくれたおかげだ」

「ミコトさんも、回復のヘイトでインフェルノのターゲットを取ってしまって戦線が崩壊するって話がいくつも挙がっているのに、クマサンを死なせることも自分にターゲットを向かわせることもなく、支え続けてくれた。神ヒーラーって言われてるよ」

「……それはクマサンがしっかりヘイトを稼いでターゲットを取り続けてくれたからですよ」


 二人は互いの功績を静かに讃え合い、自らの手柄を誇示することはしなかった。

 俺は、そんな二人の控えめで仲間想いなところが好きだ。


「二人とも、パーティの誘いがますます増えてるんじゃない?」

「……ええ。特にインフェルノ討伐へのお誘いは多いですね」

「俺もだ。こんなに誘いがくるのは初めてだ」


 二人が信頼に足るタンクとヒーラーであることは、今回の動画を通して証明された。アタッカー四人構成ではタンクもヒーラーも不要だが、アタッカー二人構成で挑むのなら、これほど信頼できる味方はいないと、自信を持って断言できる。

 でも、二人がそうやって他のパーティに行くようになったら――この場所も、少し静かになってしまうのかもしれない。

 そんな俺の思いを察知したのか、安心させるような顔でミコトさんが俺を見てきた。


「まあ、今は全部お誘いは断ってますけどね。このギルドで行動したいですから」

「俺も断っている。俺はこのギルドのタンクだからな」


 その言葉に、迷いはなかった。

 クマサン、ミコトさん……。

 俺を泣かせる気か?

 二人の言葉に胸が温かくなった。


「でも、評価し直されているのは私達だけじゃないですよ。メイさんだって、本業とは違うところで有名になってますからね」


 そうなのだ。アイテムを惜しみなく使うその金持ちプレイで視聴者をあっと言わせていたメイだが、その経済力や鍛冶師としての腕とはまた違った形で脚光を浴びていた。

 それは、あの尻尾攻撃――テイルスマッシュの予備動作を見切ったことだ。

 インフェルノ戦において、近接アタッカーが不遇な立場にあるのは、頭部を狙えないことと、もう一つ、このテイルスマッシュの厄介さに起因している。大ダメージの上、食らうたびに強制ダウン時間が伸びていく。近接殺しとも言えるその性能のせいで、インフェルノ戦で近接アタッカーが歓迎されない部分は大きい。

 しかし、メイは戦闘の中でその予備動作を見抜き、俺に的確に伝えてくれた。インフェルノの目の動きから尻尾攻撃の予備動作を見抜いた最初の人物として、今やメイの名は多くのプレイヤーの間で知れ渡っている。

 もっとも、予備動作を知っていても、戦闘の最中にそれを確実に見極めるのは困難なようで、「戦闘しながらインフェルノの目の動きなんて細かいところまで見ていられない」という声が多数上がっている。

 しかし、そうなると、インフェルノの予備動作である目の動きに気づいて以降、一度もそれを見逃さず、俺に伝えてくれたメイって、とてつもないことをやってのけたことになる。

 ――やっぱり、俺の仲間は凄い。


「けど、それを言うならショウだって、すっかり有名人じゃないか。料理スキルがバグじゃないことがわかって、アタッカーとしての料理人ショウがちゃんと評価されてきたからな」


 クマサンが、なぜか自分が褒められた時よりも嬉しそうな顔で俺に笑いかけてきた。

 そう。ついこの前まで、バグ利用者として叩かれるんじゃないかと怯えていたのに、今では俺もアタッカーとして注目される存在になっていた。


 ――あの戦いは、間違っていなかったんだ。


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