第275話 トドメ
ルシフェルからヒールが飛び、残り少なくなっていた俺の体力がいくらか回復する。
組立式重装砲にはリキャストこそなくても、再装填の時間が必要なのだろう。ヒール前に次弾が飛んできていたら危なかったが――これなら、もう一撃は耐えられる。
……それにしても、よく生き残れたものだ。
ソルジャーを倒せたのは、完全にルシフェルのおかげだ。
リミットスキル《精霊の三重奏》がなければ削り切れていない。
だが――本来なら俺もソルジャーと一緒に倒れていたはずだ。
ダメージログを見ても、ソルジャーの攻撃が低すぎる。
ダモクレスの剣による追加ダメージを含めても、四人の中で断トツの最下位。最強アタッカーの一人が、そんな低火力であるはずがない。
理由は一つ。
ルシフェルが同時発動した三つの精霊魔法スキルのうち、《氷鎖の嘆罰》と《黒凍の削牙》には、ダメージだけでなくデバフ効果があることだ。
《フリーズ・バインド》は一定時間の攻撃力小ダウン。《ダーク・ブリットル》は次の攻撃の攻撃力大幅ダウン。その二つの効果が重なり、俺は命拾いしたというわけだ。
ソルジャーも攻撃系のリミットスキルを使えば俺を倒せたかもしれないが、咄嗟に反応するのはさすがに無理だったのだろう。あるいは、そもそもリミットスキルが使用不能な状態だったのかもしれない。
いずれにせよ――今の攻防のMVPは、間違いなくルシフェルだった。
チラリとルシフェルを見ると、ほっとしたような表情を浮かべていた。
きっと、自分の狙い通りになったことに満足しているのだろう。
……くそっ。自分こそが最強アタッカーだと、俺にもソルジャーにも見せつけて満足したってわけか。
ここで、「私のおかげで命拾いしたな」なんて上から目線で言ってこようものなら、「俺が前で敵を引きつけたおかげで安全に戦えること忘れるな」と言い返してやるつもりだったが――
「――ショウが無事でよかった」
「――――!? いや、お前のおかげで助かった……」
しまった……。完全に不意を突かれ、思わず本音で返してしまった。
……さすが策士ルシフェル。恐ろしい男だ。
俺の思考の裏をかき、予想外の言葉で揺さぶってくるとは。
密かに戦慄する俺。だが、いつまでもルシフェルにかまけている場合ではない。
戦い自体はまだ終わっていないのだ。
向こうには、まだ高火力を誇るメイが残っている。
すぐにでもトドメを刺さなければ、大ダメージをもう一度食らうことになる――はずだった。
だが、肝心のメイが手を上げ、戦う気がないことを示していた。
残り数段を駆け上がり、監視台へ出る。
メイとの距離は、わずか数メートル。
「……メイ、戦意を喪失したのか?」
「もうショウを倒せる可能性はなくなったからね。弾の無駄遣いはしたくない」
メイはあっけらかんと言い放った。
俺を油断させるための策――ではない。今のすっきりした表情を見れば分かる。
メイの組立式重装砲は、一発撃つごとに弾を消費する。
勝算がなく、ポイント獲得の望みもないなら、撃つ理由がない。
ミコトさんのように最後まで拳を振るう美学もあるが――メイのように効率を優先して判断するのも一つの美学だ。
俺はゆっくりと距離を詰め、攻撃可能範囲に入る。
それでもメイは構えず、ただ美しく微笑んだ。
「ショウ……あんたの手でやってくれ」
「……メイ」
どうせ倒されるのなら、仲間の手で――。
その気持ちは理解できた。
俺は静かに包丁を掲げ、スキルを発動して振り下ろす。
一撃では倒れないため、淡々と攻撃を重ねる。
――メイの残り体力が100を切った。次の一撃で終わる。
早く楽にしてやろう。そう思い、メイメッサーを振り上げ――しかし、そこで手が止まった。
「……どうした、ショウ? 早くトドメをさしてくれ」
「…………」
だが、俺はこの手を振り下ろせなかった。
「……もしかして、自分の手では私を殺せないっていうのか?」
「…………」
「その気持ちは嬉しいが……それでも私はショウの手で――」
【ルシフェルがメイに零の嘆き ダメージ340】
【ルシフェルはメイを倒した】
さっきまで穏やかな顔をしていたメイが、鬼のような形相で俺を睨んだまま崩れていく。
少々罪悪感を覚えるが、これが俺達の戦略だ。仕方がない。
ルシフェルも俺の動きを見て、意図を正しく汲み取ってくれたようだ。
タッグ一覧のウィンドウを見ると、ルシフェルの名前の下に、ソルジャーとメイの撃破マークに加え、新たにスターが二つ増えている。どうやらメイは二個のスターを所持していたようだ。
これで俺達のポイントは一気に「+5」。
しかもスター三つはルシフェル側に集中している。万が一俺が落ちても、ルシフェルさえ生きていればスター三ポイントは守れる。
……よしよし、計算通り。
そう内心でほくそ笑んだところで、チロリンと文字チャットが届いた。
『絶対殺す』
差出人はメイ。
「1stドラゴンスレイヤー」の件で、ルシフェルが俺達のギルド(特に俺)を目の仇にしているのは、ギルドのみんなも知っていることだ。当然メイもルシフェルにいい感情はないだろう。だからこそ、そんな相手に倒されるのはイヤで、俺にトドメを刺されることを望んでいたのだろうが……すまんな、メイ。
誰が誰のトドメを刺すかというのも戦略の一つなんだ。
それに、もう俺達がメイ達と再戦する理由もない。
ルシフェルのリミットスキルなしでは、次に勝てる保証などどこにもない。スターを失った向こうと、スターを三つ抱えるこちら――もう戦う必要はないのだ。
メイよ。残念だが――もう俺を殺すチャンスはない。がはははは。
……いや、待てよ。このチャット、ゲームの中の話、だよな?
急に背筋に冷たいものが走り、思わず身を震わせた。




