第267話 想定外のアタッカー
「スキル――みじん切り!」
【ショウはフィジェットにみじん切り 358ダメージ】
俺の料理スキルがフィジェットの体力を大きく削った。
鉄壁のねーさんの防御力を無視してダメージを与えられるとはいえ、味方からのバフなしでの真正面からの攻撃。さらにこの対人イベントということで、イベントによるダメージ補正も入っているのだろう。普段モンスターに与えているダメージに比べれば見劣りするが、それでもプレイヤーキャラクター相手には十分なダメージだ。
しかし、自己回復できるねーさんと、後ろのミコトさんによるダブルのヒール・大で、せっかく減らした体力はすぐに回復されてしまった。
とはいえ、ヒール・大のリキャスト時間は短くはない。その間、二人は別のヒールで繋ぐしかないが、その回復量はヒール・大よりも劣るうえ、それにもリキャスト時間がある。
対して俺は、料理スキルの種類を変えて連発可能。スキルの回転率では圧倒的に俺のほうが上だ。
――この勝負、もらった!
「運がなかったな、ねーさん! 逃げた先が行き止まりだったなんてよ!」
優勢を確信しているせいか、自然と口が滑らかになる。
だが、ねーさんの顔に焦りも悔しさもないことに、うっすら違和感が引っかかる。
「――甘いな、ショウ。誘い込まれたのは自分の方だとは思わないのか?」
「なに……?」
確かに、さっきのミコトさんの登場タイミングは絶妙だった。
だがそれが何だ。
二対一でも、俺の火力は二人まとめて上回る。
それに、ミコトさんはヒーラー。背後から殴られようが怖くはない。
むしろ攻撃に回れば、ねーさんへのヒールが手薄になり、俺に有利になるだけだ。
「強がりを! 相手が俺じゃなかったら、展開も変わっただろうけどな!」
そう、俺にとって二人の装甲は紙同然。ねーさんは俺のスキルが防御力無視の攻撃だということを失念しているのかもしれない。
「すぐにケリをつけてやるよ!」
【ショウはフィジェットに乱切り 312ダメージ】
再びスキルが炸裂し、ねーさんの体力を大きく削る。
対してねーさんの回復は、今度はヒール・中。
さっきより明らかに回復量が落ちている。
――だが、後ろのミコトさんからのヒールが飛んでこない。
……諦めて、逃げたのか?
ねーさんを囮にして、その隙にミコトさんだけでも離脱するのは、この状況では彼女達の最善手だろう。
このイベントは、生き残り勝負ではなく、ポイント勝負だ。チームとしてマイナスポイントを減らす立ち回りは理にかなっている。
……まあいい。ねーさんを倒してスターと合わせて2ポイント。まずはそれで十分だ。
そう考えた矢先――
「――神降ろし!」
【ミコトは神降ろしを使った】
背後からミコトさんの気迫のこもった声が響き、同時に見たことのないシステムメッセージが流れる。
初めて見るスキル……だけど、どこかで聞いたことが――
「……そうだ。ここに来る前、ミコトさんが言っていた追加スキルが確か――」
思い出した瞬間、背中に「ドゴッ! バゴッ!」と爆音のような衝撃が二度走った。
【ミコトはショウに攻撃 125ダメージ】
【ミコトはショウに攻撃 123ダメージ】
「…………は?」
ログを見た瞬間、思考が止まった。
――いやいやいや、おかしいだろ!?
ヒーラーの攻撃じゃねぇ! 二発って何!?
ターゲット選択は変更できなくても、視線だけなら動かせる。
慌てて振り向くと――そこには両手を固く握りしめ、胸の前で構えるミコトさんの姿があった。
「――ちょ!? ミコトさん、何してるの!?」
「アタッカーです!」
即答だった。
「いやいやいや! ヒーラーがアタッカーってどういうこと!? てか、ダメージおかしくない!?」
パニクりながらも頭の中を高速で回転させる。
ミコトさんがさっき使ったのは、今回のアップデートで巫女に追加された新スキル――神降ろし。
聞いた話では「神の力を宿し、ステータスを大幅に上昇させる代わりに、効果中はスキルが使えない」というもの。ミコトさんは「使いどころがない」と言っていたが……。
――そうか。
ステータスアップなら、攻撃力も上がる。
アタッカーのいない彼女達のタッグで、ミコトさんがその役割を担うということか。
理屈はわかった。
だが、それにしても――
――ダメージ、デカすぎない!? そして、なんで二連撃!?
普段のミコトさんは、回復量やヘイト軽減のために錫杖や祓串を装備している。
だが今は何も持っていない。
強力な武器を手に入れたなんて話も聞いていない。
だとすれば――
ミコトさんは右腕を滑らかに後ろへ引いた。
その構えを見た瞬間、嫌な予感が背筋を駆け抜ける。
――まさかミコトさんの攻撃って……
バキッ! ボコッ!
綺麗すぎる左右の拳によるワンツーパンチが、俺の背中に突き刺さった。
【ミコトはショウに攻撃 124ダメージ】
【ミコトはショウに攻撃 122ダメージ】
ミコトさんの武器は両手の拳――まさかの徒手空拳だった。




