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第261話 組立式重装砲

「メイさん、格好いいじゃないですか!」

「今のはすごい威力だったぞ!」


 ミコトさんとクマサンが、倒れたブラッディベアとメイを交互に見ながら色めき立っている。

 明らかに、俺の「モンスター用料理」を披露したときよりテンションが高い。

 ……これじゃあ、俺のは完全に前フリじゃないか。


「これが鍛冶師の追加要素、『組立式重装砲』。あらかじめ作っておいたパーツを、戦闘中に組み立てて発射する仕組みなんだ。まあ、私も実際に撃つのは今回が初めてだったけど――思った以上の威力だったね」


 二人の称賛に、メイはどこか照れくさそうに笑う。

 仲間の強化は俺にとっても嬉しいことだ。だが同時に、俺の「モンスター用料理」がすっかり霞んでしまった気がして、ちょっとだけ複雑な気分になる。


「す、すごいじゃないか、メイ。……俺の料理スキルを超えたんじゃないのか?」


 笑顔を浮かべながらも、自分でもそのぎこちなさがわかる。

 嘘のつけない自分の性格は、こういうときは困りものだ。

 しかし、メイは穏やかに首を振った。


「いや、そんなことはないさ。今の見てただろ? 組み立て終えるまでに時間がかかりすぎる。ショウが本気で攻撃してたら、完成前に敵を倒せてただろ?」

「それは、まぁ……」

「組立中は戦闘支援もできないし、通常の狩りじゃ使う場面がない。設置した場所から移動もさせられないし。しかも、戦闘が終われば、組み上げた砲台は自動的にアイテムボックスに戻ってしまうんだ」

「な、なるほど……」


 視線を戻すと、戦闘終了と同時に、せっかく組み上げた砲台が消えていた。

 ダメージ値にばかり注目してしまったが、戦闘開始からメイの攻撃まで随分と時間がかかっている。毎回あの組み立て作業が必要だと、素早く敵を倒して数をこなす必要がある狩りでは実用性に欠けるだろう。


「それに、この『組立式重装砲』には金がかかる」

「そういえば、あのパーツ、なかなか金がかかってそうだったもんな」


 言われてみれば、砲の各部には通常の金属だけでなく、ミスリルも使われていた。

 製造コストは相当な額に違いない。

 俺がそんなことを思っていると、メイは苦笑いを浮かべた。


「パーツには最高級の素材を使ったから、確かに製造にはかなりのコストをかけたよ。でも問題はそこじゃない。いくら高くても、パーツは一度作れば終わりだからな。本当に問題なのは――砲弾のほうさ」

「砲弾?」

「そう。ダメージはパーツと弾、両方の素材に左右される。さっき撃ったのはミスリル製の最高級弾。そりゃ威力も出るけど……あんなのを毎回撃ってたら、私でも破産しかねないよ」

「なるほど……」


 攻撃のたびに金がかかる――それは確かに痛い。

 俺の「モンスター用料理」も消費アイテムだから、使うたびに素材費が飛んでいくようなものだ。

 でも金属素材の値段は、料理素材の比じゃない。

 しかも、俺の料理を使うのは一戦闘に一度きりだが、メイの砲は発射のたびに弾を消費する。

 安価な銅あたりで弾を作ればコストは抑えられるかもしれないが、当然そのぶん威力は落ちる。

 結局、強さと財布はトレードオフってわけだ。


「結局のところ、この『組立式重装砲』は、時間がかかるうえに、金をダメージに変えてるようなもんなのさ。SPを消費しないのは利点かもしれないけど、低SPで何度も大ダメージを出せるショウの料理スキルと比べたら――正直、おもちゃみたいなもんだよ」

「……なるほど。言われてみればその通りかもしれませんね。メイさんの攻撃で、逆にショウさんのすごさが改めて際立ちますね」

「確かに。ショウは何の消費もなしに、あのダメージだからな」


 三人の視線が一斉に俺へと集まる。

 以前の俺なら、この眼差しの意味を理解できなかっただろう。

 けれど今の俺にはわかる。――これは、仲間としての信頼。そして、共に戦う者としての期待の眼差しだ。

 でも、さっきまでメイを称賛する流れだったのに、急に自分が再評価されて、妙に気恥ずかしい。


「いや、俺が力を発揮できるのは、みんながいてくれるおかげだから……」

「そういうことを自然に言えるのがショウらしいな」

「そうですね」


 みんながニコニコしながら、なんだかキラキラした目で見てくる。

 ……え、これって褒められてるのか?

 ただ思ったことを口にしただけなんだけど。


「さてと。私とショウの追加要素のお披露目はこのくらいにして、次はクマサンとミコトの番だね。二人にも新スキルが追加されたんだろ? ぜひ見せてくれよ」


 メイの言葉でハッとする。

 そうだ。非戦闘職への戦闘要素の追加にばかり注目していたけど、戦闘職は戦闘職で新スキルが追加されたんだった。せっかくだから、どんなものか実際に見せてもらいたい。なにしろ、ものによっては今後の戦闘スタイルが変わるかもしれない。

 だけど、クマサンはどこか気まずそうに口を開いた。


「いや、わざわざ見せるほどのものじゃない。重戦士に追加されたのは『エレメンタルガード』。一種類の属性攻撃への耐性を上げるスキルだ。使うときに属性を選べるのは便利だけど、正直、戦況を変えるようなものじゃない」

「でも、重戦士って物理防御は高いけど、それに比べると属性攻撃は苦手だろ? それを補えるなら、かなり実用的なスキルだと思うけどな」


 クマサンが随分と控えめに話すので、思わずフォローを入れた。正直、「使える」か「使えないか」で言ったら、これは十分に「使える」スキルだと思う。


「でも……地味だろ?」


 その一言には、思わずうなずくしかなかった。

 さっきの派手なメイの「組立式重装砲」の攻撃を見せられた後では、披露する気になれないのも無理はない。


「ミコトの方はどうなんだ?」

「私の方は……使いどころのなさそうなスキルですよ」


 クマサンに振られたミコトさんは、苦笑しながら肩をすくめた。

 公平性を保つために戦闘職にも新スキルが追加されたとはいえ、内容そのものは控えめなのかもしれない。

 戦闘職と非戦闘職の差を埋める――という運営の意図を考えれば理にかなっているが、プレイヤーとしては少し残念な話だ。


「ちなみに、どんなスキルなの?」

「『神降ろし』っていうスキルなんですけど――」


 神降ろし! 名前からしてめちゃくちゃ強そうじゃないか。

 巫女の奥義みたいな響きだし、絶対すごい効果がありそうなのに……「使いどころがない」って、どういうことだ?


「身体に神の力を宿して、ステータスを強化するスキルなんですけど、神を降ろしている間はスキルが一切使えなくなるんですよ。ヒーラーがスキル使用不可って、意味ないと思いません?」

「それは確かに……」

「まぁ、使うとしたらスキルを使い切って、しかも休息する余裕もないときの、最後のあがきくらいですかね」


 ミコトさんはやれやれといった表情でため息をつく。

 ヒーラーとしての矜持がある彼女にとって、スキルを封じてまで自分を強化するなんて、受け入れがたいのだろう。

 一方で俺は、「使えるなら使う」派。効果的なら料理スキルでも攻撃する節操なしだ。ミコトさんの純粋さが眩しく映る。


「それは……なんというか、せっかくの新スキルなのに、残念だったね」

「ホントですよ!」


 ミコトさんは頬をふくらませ、ちょっと不満げに言った。

 ――これは、さすがに「使ってみせて」とは言いづらい。


「それより、せっかく四人揃ったんですし、新エリアにでも行きません?」


 ミコトさんの提案で、お披露目会は自然と締めくくられた。

 俺ももともと、この後はみんなで新エリアに行くつもりだったから、素直にうなずく。

 メイも同意の意を示したが、クマサンがすまなそうに手を上げた。


「悪い。急いで来たから、アイテムの補充が心もとない。ベルンの街に寄ってもいいか?」


 ベルンは、この北の森からほど近いところにある街。

 ここから直接北の砦へ向かってもいいが、ベルン経由でも距離的なロスはほとんどない。

 それに、新エリアには街がなく、北の砦でもアイテムの種類は限られている。

 まともに準備ができるのは、実質ここが最後の機会だ。


「俺もちょっとアイテムの整理をしたかったし、一度ベルンに寄ってから北の砦に向かおう」


 そうして俺達はベルンに向かって歩き出した。

 とはいえベルンはちょっと寄るだけ。長居をする気なんてさらさらなかったのだが――


【現在、ランダム発生イベント「激闘タッグバトル」の参加者募集中です】

【参加しますか? はい/いいえ】


 ベルンの街に入った俺達を迎えたのは、そんなシステムメッセージだった。


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