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第260話 メイの追加要素

 クマサンがターゲットを取り、俺が背後から攻撃、ミコトさんが後方支援。ブラッディベア相手に、いつもの安定した形を取る。

 俺が本気で料理スキルで攻撃をすれば、ブラッディベアを倒すことなど造作もない。だけど、今回はメイの追加要素を見せてもらうのが目的だ。倒さない程度に弱めの料理スキルを適度に放って、体力を減らす程度に留めておく。

 敵を前にして、倒してしまってはいけないというのは、どうにも調子が狂う。

 だけど、いつもと違うのは俺だけではなかったようだ。


「クマサン、何だかいつもよりダメージが出てません?」


 ミコトさんがそんなことを口にした。

 本気バトルじゃないのでダメージログを流し見していたが、改めて見れば、確かに、クマサンの与ダメが妙に高い。このレベルの敵にしては、かなり削れている。

 でも、俺の料理スキルの威力はいつも通りだし……クマサンに何か強化要素でも乗ってるのかな?


「きっとさっきのモンスター用料理の効果だ。防御力ダウンの効果が出てる」

「ああ、そういうことですか!」


 二人の会話で、俺もようやく思い出す。

 そうだ、さっき使ったのは防御力ダウン効果付きの「ブレイクボーンステーキ」だった。

 ……自分で作っておいて、その効果を忘れるとか、情けない話だ。

 でもまあ言い訳させてもらうなら、俺の料理スキルは防御無視攻撃だから、そもそも防御ダウン効果を実感できないんだ。


「目に見えてダメージが変わっているし、そのへんのデバフよりも効果が高いな、これは」

「そうですね。効果時間も長そうですし、うまく利用すれば戦闘がかなり楽になるかもしれませんね」


 ――何もしていないのに、「モンスター用料理」の評価が勝手に上がっていく。

 ……いや、俺も最初から「使える」と思ってたんだよ? 本当に。

 だが、こうも絶賛されると、あとで出番を控えているメイのことを思って、少しばかり申し訳なくなってくる。


 ――そういえば、メイは何をしてるんだ?


 一向にブラッディベア戦に加わる気配のない彼女が気になって、視線を向けた。


「……何をしているんだ?」


 見ると、メイはアイテムボックスから取り出したと思われる金属パーツを周囲に並べ、何かを組み立てていた。

 角ばった節、筒状の部品、分厚いプレート、真鍮の輪――正直、どれを見ても何の部品か見当がつかない。


「……戦闘中に工作?」


 思わず漏れる。

 まさか、これが鍛冶師の追加要素なのか?

 チャットで微妙な反応をしていた理由が、ようやくわかった気がした。

 鍛冶師はもともと金策面で優遇されていた職だ。戦闘中に「何かを作る」なんて、遊び心の延長のような要素でも、決して不遇とは言われまい。

 そう考えながら、俺は手持ちぶさたのまま彼女の作業を見守った。


 メイは無言で手を動かしていく。

 三本の長尺部材を取り出し、地面に突き立てる。節と節のあいだに差し込んだガイドピンが「カチリ」と鳴った。

 三脚――まるでカメラの脚のようだが、安定感はまるで違う。大型の機材を乗せてもびくともしない。……まさか本当に撮影機材を作ってるわけじゃないよな?


 中ほどの円盤状ユニットを重ねると、ピタリと位置が合い、軸受けがすっと落ちる。露出した歯車が静かに噛み合い、わずかな金属音を立てた。

 続いて、筒状の長物を差し込み、ハンマーで軽く叩いて固定。割りピンを通して抜け止めを施す。

 隙間から見える内部構造には、スプリング、ダンパー、細いシャフト、真鍮のハンドル――精密機械を思わせる部品がぎっしり詰まっていた。

 メイはそれらを一つずつ組み込み、レバーを通し、チェーンを掛け、プレートを当て、ナットを締めていく。

 その手さばきは、迷いがなく、まさに鍛冶師の職人技だった。


 ――ここまでくると、さすがの俺にも分かってきた。

 メイが何を作っているのか。


「おいおい、マジかよ……」


 装填部と思しきフラップが閉じ、ラッチが最後まで回り切る。

 メイは照準らしき機構に真鍮のハンドルを差し込み、ゆっくりと回した。

 組み上がった構造体がわずかに首を振り、角度を変える。

 最後に、長い引き棒を押し込み、掛け金をかけた。

 金属同士が最後のロックを交わした瞬間――全体が、低く澄んだ共鳴音を響かせる。

 それは工具の音でも、武具の音でもない。

 まるで、完成した機械そのものが自らの存在を認めるような「承認の音」だった。


「……組立式重装砲、完成」


 メイが静かに呟く。

 目の前に立つのは、無骨でありながら、機能美すら宿した砲台だった。

 脚部は分厚い鋼鉄製の三脚。地面に食い込むスパイクが、泥でも砂でもびくともしない安定性を確保している。

 中央の旋回台座には、大小の歯車と連結シャフトがむき出しのまま組まれていた。

 真鍮製の照準ハンドルに触れると、冷たく、それでいて滑らかに動く。

 砲身は一枚鋼の削り出し。灰銀色の表面が光を受けて鈍く反射していた。


「メイのやつ、戦闘中にとんでもないものを作りやがった……」


 俺はもはや戦闘の手を止め、ただメイと、その砲台を見つめるしかなかった。


「みんな、お待たせ! 用意ができた! こいつの射線には入らないでくれよ!」


 メイの叫び声が戦場に響く。

 その声でクマサンとミコトさんも、ようやく砲台の存在に気づいた。


「――――!? メイ、それは!?」

「いつの間にそんなものを用意したんですか!?」


 どうやら、敵から目を離してメイの作業を見ていたのは俺だけだったらしい。

 ……うん、これはちょっと気まずい。


「組立式重装砲――ファイア!」


 メイの叫びとともに、引き金が引かれる。


 ――瞬間、空気が裂けた。


 炸薬の爆音が響き、砲身が後方へと反動を逃がす。

 脚部がわずかに沈み込み、鉄と土が軋む音が響いた。

 放たれた砲弾は一直線に獣の胸を穿つ。

 空気を切り裂く回転弾が命中した瞬間、ブラッディベアの厚い皮膚を焼き削るように貫通した。


【メイの攻撃 ブラッディベアにダメージ501】

【ブラッディベアを倒した】


 俺の目の前でブラッディベアの巨体が倒れ伏す。

 だが、そんなことより――俺はログを二度見した。

 見間違いじゃない。確かに「501」と出ている。


 まじかよ……。これって俺の料理スキルを超えてないか?


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