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第259話 モンスター用料理

 俺たちが集まったのは「北の森」だった。

 北の砦の南方、最北の町ベルンの近くにある、比較的危険度の高いエリアだ。

 敵のレベルは新エリアのモンスターには及ばないが、旧エリアの中では上位クラス。

 新要素の検証には、敵が弱すぎても意味がないし、強すぎるのもリスクが高い。

 お披露目の後、そのまま新エリアに狩りに行く予定もあるし、北の森なら都合がいい。

 ――メイが選んだ場所だが、さすがはゲームというものをよく理解している。


「ショウ、こっちだ~!」


 森の入り口に近づくと、メイが大きく手を振っていた。

 隣にはクマサンとミコトさんの姿もある。どうやら俺が最後だったようだ。

 三人のもとに駆け寄ると、クマサンとミコトさんが、どこか期待に満ちた目でこちらを見てくる。

 ……やめてくれ、その目は。過度な期待はしないでほしい。

 正面から見られず、つい視線をそらしてしまう。


「ショウさんとメイさんの追加要素、楽しみですね!」

「ああ、そうだな」


 まずいなぁ。

 二人とも、完全に「何かすごいものが見られる」と思っている顔だ。

 特に俺は、料理スキルのせいで変にハードルが上がってる気がする。


「どうする、ショウ? どっちから試してみる?」


 メイの問いかけに、一瞬返事をためらう。

 どっちが先にやるか……地味に重要だ。

 もしメイのが俺以上に微妙なら、その後に出す俺のは多少マシに見える。

 だが逆に、メイのが思っている以上に良いものだったら――俺の「モンスター用料理」でトリを飾るとか、公開処刑でしかない。


「……俺からにしよう」

「わかった。じゃあ、先にショウのを見せてくれ」


 俺はうなずき、アイテムボックスから【ブレイクボーンステーキ】を取り出した。


「まずは食事か?」

「いや、俺の追加要素はスキルじゃないんだ。この料理が新たな追加要素なんだよ」


 クマサンとミコトさんが顔を見合わせて首をかしげる。

 まぁ、無理もない。今回のアップデートで戦闘職には新スキルが実装された。

 だから非戦闘職にもスキル系の強化が来ると思い込んでるプレイヤーが多い。

 でも実際はそうじゃない。ネットで情報を漁った限りでも、スキル以外の「特殊要素追加」もけっこう多いのだ。


「その料理が追加要素ってことは……新しく上級レシピでも解放されたのか?」


 さすがクマサン。なかなか鋭いところを突いてくる。

 だが――惜しい。


「確かに料理が追加されたのは間違いないけど、今回追加されたのは『モンスター用料理』なんだ。通常料理とは別に、モンスター専用の料理を作れるようになった」

「モンスター用料理……!?」


 三人の声がきれいに重なった。

 ……うん、嫌な予感しかしない。

 その声にほんのり期待の色が混じってるのが、逆にプレッシャーだ。

 頼むから、「モンスターと仲良くなる夢の料理」みたいな想像はしないでくれよ。


「それで、その料理をどうするんだ?」


 何か先にフォローを入れようかとも思ったが――もういい。見せたほうが早い。

 俺は覚悟を決め、「ブレイクボーンステーキ」を地面に設置した。


「こうやってアイテムを置くと、料理の匂いにモンスターが引き寄せられるらしいんだ」


 しばしの静寂。

 風が木々を揺らす音だけが響く。

 ――そのとき、茂みの奥でガサガサと音がした。

 全員がそちらに視線を向ける。


「……え、もう反応したのか!?」


 次の瞬間、ブラッディベアが木々をかき分けて飛び出してきた。


「うわっ、早っ!」


 慌てて戦闘態勢を取るが――ブラッディベアは俺たちを無視して、香ばしく焼けたブレイクボーンステーキへ一直線。

 そのまま飛びつくと、夢中で肉にかぶりついた。


「……び、びびらせやがって……」


 説明には「匂いで寄ってくる」としか書かれてなかった。

 まさか本当に、数秒で飛び出してくるとは思わなかったぞ。

 俺たちは距離を取り、警戒しながら、ベアが一心不乱に俺の料理を食う姿を見つめた。


「……こうやって敵をおびき寄せるのがモンスター用料理の効果なんですか?」

「それもあるけど、料理を食べたモンスターにはデバフがかかるんだ。今の料理だと防御力がダウンするはず」


 自分でもわかるほど声が小さくなっていた。

 どうせ微妙な効果だとガッカリされるだろう、そう思っていたからだ。

 だが――


「へぇ~、それは便利ですね!」

「ああ、そうだな。釣りとデバフを同時にこなせるうえに、今なら先制攻撃もできるな」


 ミコトさんとクマサンの反応は、予想以上に好評だった。

 え、マジで? がっかりされると思ってたのに……。


「それに、この森の入り口って本来モンスターが湧かないだろ? ここに敵を呼べるなら、狩場確保の手段が一変する」


 メイまで真剣な顔で分析している。

 ――そっか。確かに、三人の言う通りだ。

 俺は「直接戦闘に関係ない」ってだけで過小評価してたけど、これ、冷静に考えればかなりの支援能力じゃないか?

 釣り不要、取り合い回避、デバフ付きの誘導手段――。

 ……うん、よく考えたら、これ普通に強いかもしれない。


「はっはっは、どう? 俺の『モンスター用料理』は? 攻撃では『料理スキル』、戦闘支援では『モンスター用料理』、なんだかもう、どの場面でも俺ってパーティに必要不可欠って感じじゃない?」


 気づけば胸を張ってドヤ顔になっていた。さっきまでビクビクしていたのに、我ながら調子がいい。


「ショウさんは最初っからパーティに必要な人ですよ」


 「調子に乗るなよ」ってツッコミを待ってたのに、ミコトさんは満面の笑みで返してくれた。素直に褒められると、なんだか照れくさい。


「それほどじゃないけど……ありがと」


 気恥ずかしさを隠すように、俺は話題を切り替える。これ以上褒められると、胸の奥がこそばゆい。


「じゃあ、次はメイの新要素を見せてもらう番だけど……その前にブラッディベアを片づけようか」


 ただ、こうなると逆にメイが出番を出しづらそうだ。チャットの反応を見る限り、メイの新要素はあまりパッとしない様子だった。俺だけ注目されてしまったことが、少し申し訳なくなる。

 そんな気持ちでメイを見ると、彼女は肩の力を抜いて微笑んだ。


「私のは、戦闘中に使うタイプのものなんだ。試すのに、ブラッディベア戦はちょうどいい。三人でまずは戦闘を始めてくれないか」


 どこか楽しげだ。きっと、俺の新要素がパーティに役立ちそうだから安心したんだろう。自分のがしょぼくても、全体で見れば問題ない――そう思ったのかもしれない。


 ――安心しろ、メイ。

 どんな新要素だって、俺がしっかりフォローしてやる。

 このパーティには、俺の「料理スキル」と「モンスター用料理」がある。

 どんな新要素でも気にする必要なんてないからな。


 そんな決意を胸に、俺はブラッディベアへと斬りかかった。


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