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第252話 遭遇

「ショウ! そんなとこでぼーっと突っ立ってると、敵に絡まれるよ!」


 メイの叱責にハッと我に返る。

 気づけば、俺だけみんなから離れてしまっていた。


「ごめん!」


 慌てて駆け寄る。

 新エリアに入った俺達は、森の中でとりあえずの拠点を定め、狩りを行っていた。

 釣り役が敵を連れて戻ってくるまでは、残りのメンバーは固まって待機――これが鉄則だ。もし待機組がうっかり絡まれ、そこに釣り役が敵と共に戻ってきたりなんかしたら、それこそ大惨事だ。

 だけど、俺はさっきからどうにも狩りに集中できていなかった。

 頭の中では、フィジェット(ねーさん)達の姿が浮かぶ。今頃、真インフェルノ相手に一戦交えているかもしれない。そう思うと、胸の内がざわつき、狩りどころではなくなる。


「……だめだな、こんなんじゃ」


 新エリアはまだまだ未知の部分が多く、一瞬の油断が命取りになりかねない。気を抜いている場合じゃない。

 そう思って気を引き締め直したところで、釣りに出ていたクマサンが戻ってきた。

 敵を見つけたら「発見」「釣った」などチャットで報告する決まりだが――やばい、俺は聞き逃したのか? だとしたら完全に集中を欠いている。


「だめだ。こっちには見当たらない」


 戻ってきたクマサンは一人。後ろに敵の姿はなかった。


「別の方に探しに行ってくる」


 どうやら敵を発見できずに一旦戻ってきただけらしい。

 ほっとすると同時に、一生懸命やってくれてるクマサンに対して申し訳ない気持ちが湧いてきた。

 まったく、何やってんだよ、俺……。


 ――よしっ!


「待ってクマサン! 次は俺が釣りに行くよ」

「だけど――」

「安全策でクマサンに任せてきたけど、ここでの狩りも慣れてきたしな。いつまでもクマサンだけにさせておくわけにもいかないだろ?」

「そうか……わかった。任せる」


 釣り役は、結構神経を使う。新エリアではまだ取り合いのような緊張感はないものの、複数の敵に絡まれないよう慎重に敵を釣らないといけないし、仲間のSPの回復具合を見て釣るタイミングを調整する必要もある。

 俺は余計なことを考えてしまいそうになる自分に喝を入れるためにも、自ら釣り役を名乗り出た。


「それじゃあ、行ってくる!」


 そう叫び、森の奥へと駆け出す。

 待っているよりも自分で動いたほうが余計な雑念を払える。どうせなら一丁、気合いを入れてレアな敵でも釣ってきてやる――そう思いながら周囲を探っていた、その時だった。


「――あいつは!」


 一瞬、モンスターの群れかと思った。だがすぐに、それが十数人規模のプレイヤー集団だと気づく。

 そして、その先頭を歩くのは――ルシフェル。HNMギルド「片翼の天使」のギルドマスターだ。

 俺は咄嗟に木陰に身を隠し、息を潜めて様子をうかがった。

 運営イベントのチャリオットの時に見かけたベルゼバブ、ミカエル、ガブリエルの姿もある。さらにラファエル、ウリエルといった「片翼の天使」の幹部クラスまで揃っている。どう見ても、ギルドの精鋭達だ。


「一人、二人……全部で十八人。三パーティ分ってことか」


 これだけのメンバーを見るのは、HNM討伐の時以来だ。

 それにしても、よくもまぁミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルなんて四大天使の名前の連中をギルドに揃えられたものだ。四大天使の名前をキャラクターネームにする方も大概だけど。

 ちなみに、四大天使とされる、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルは、天使の九つの階級の中でも最上位である熾天使(セラフィム)に属する存在で、本来は性別もない。だが、「片翼の天使」では――ミカエルが金髪ギャル系美少女、ガブリエルが巨乳ロリ系美少女、ラファエルが知的眼鏡美少女、ウリエルが元気いっぱいスポーツ系美少女と、その宗教関係者が見たら、間違いなく卒倒しそうなカオス布陣だ。

 彼女達の姿に思わず苦笑いしてしまうが、そんなことよりも、俺はこのメンバーが今ここにいる理由を考えてみる。


「もしかして、こいつらも真インフェルノの調査か?」


 ねーさんは「片翼の天使」や「異世界血盟軍」が、最初の真インフェルノ討伐者になるために動き出していると言っていた。それなら、この大所帯も納得できる。

 そう思いかけたが――何か違和感を覚えた。


「あの顔……ただの調査じゃないな」


 ルシフェルの表情には緊張が張り詰めていた。単に真インフェルノを見るためなら、あんな顔はしない。ねーさん達のように、試しに一度戦って情報収集をするとしても、ここまでの表情にはならないはずだ。


「もしかして……」


 ある可能性が頭に浮かんできた。

 本来なら、HNMギルドの動きなんて俺達には関係ない。四人だけの小さなギルドに、彼らと張り合う余地なんてないのだから。

 だけど、それでも――俺はこのまま彼らを黙って見送る気にはなれなかった。


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