第251話 HNMギルドとの差
フィジェットを先頭に、シアやミネコさんらギルド「ヘルアンドヘブン」のメンバーが並んでいた。ざっと数えて十二人――二パーティってところか。
「ねーさん達も新エリア?」
「ああ!」
ねーさんはいつものように屈託なく笑った。裏表のないその笑顔が、この人の一番の魅力だと思う。
「なかなかの大所帯だね」
ユニオンを組むと補正が働いて経験値効率は落ちるが、組まずに二つのパーティとして連携しながら狩りをすれば、経験値はそのままで、万が一戦闘中にほかの敵に絡まれてもフォローし合える。四人しかいない俺達から見ると、羨ましい限りだ。
だけど、ねーさんの答えは俺の想像を超えてきた。
「ああ、今回は『真インフェルノ』の調査も兼ねてだからね」
「――真インフェルノ!」
その言葉に、俺だけでなくクマサン達も息を呑んだ。場に緊張が走る。
「そういや、ショウ達はアップデート当日に、いきなり真インフェルノに出くわしたんだってな」
「……ああ」
「うちも遠目には見たことはあるけど、まだ近くで見たことはないんだよ。いきなり近くで出会ったショウが羨ましいよ」
ねーさんにあの日のことを話したことはないが、シアとは時々チャットをしている。その時に真インフェルノの話もしているから、彼女からねーさんに伝わったのだろう。別に隠すことでもないので、問題はない。
「運がいいのか悪いのか、自分でもわからないけどね。ねーさんも、見に行くのはいいけど、迂闊には近寄らないようにしたほうがいいよ」
ねーさん達のことを心配してかけた言葉だったが、彼女は唇の端を上げ、挑発的に笑った。
「誰が『見に行くだけ』だって?」
「え……?」
「『調査』って言ったろ。今後の本格的な討伐に備えて、敵の強さを測るために、一度戦ってみてもいいと思ってる。そのために、デスペナで落とした金の回収班として、別パーティも連れてきたんだからね」
「――――!」
息が詰まり、言葉を失った。
まさかねーさん達が、もうそこまで考えているとは……。
「『片翼の天使』や『異世界血盟軍』の連中も、真インフェルノの最初の討伐者を狙って動き出しているらしいからね。うちらだってのんびりはしてられないんだよ」
そうか、これがHNMギルドか……。
真インフェルノと目が合いながら、逃げるしかなかった自分との差を痛感する。
「じゃあ、うちらは行くよ。もし真インフェルノを見かけたら教えてくれよな。それじゃあ、またな」
ねーさんは軽く手を振り、仲間達を率いて歩き出した。
シアやミネコさんだけでなく、ほかのメンバーも笑顔で挨拶しながら俺達の前を通り過ぎていく。
「俺達も一緒に連れて行ってくれ」――喉元まで上がってきたその言葉を飲み込んだ。
所属ギルドが違う、足手まといになるかもしれない、いろいろと理由はあるが、きっと最大の理由は、真インフェルノの情報を集めても、俺達には討伐機会がない――それを思い出したからだろう。
前にヘルアンドヘブンと一緒にHNM狩りができたのは、ただ彼女達の人数が足りず、偶然俺達が居合わせたからに過ぎない。今のねーさん達は最初に真インフェルノを倒すことを目指している。ならば、十分に準備をして挑むはずだ。そこに俺達の入り込む余地はない。
そして俺達だけで真インフェルノに挑もうにも――決定的に人数が足りない。
HNMとは、ソロや少人数ギルドには縁のない、まるで別世界の存在。
その現実を、俺はいまさらながらに思い知らされた気がする。
「私達も行こうか」
メイがそう言って、そっと俺の肩に手を置いた。
「……そうだな」
クマサンとミコトさんも静かにうなずく。
彼女達も少なからずショックを受けているようだった。
俺達が真インフェルノを避けるように狩りをしている一方で、HNMギルドは奴を倒すために真剣に動き出している。
以前なら自分達とは無縁の話と流していただろうが、一度HNMとの戦いを経験してしまうと、どうしても悔しさやもどかしさが心に残る。
「俺達は俺達にできることをやろう」
俺は皆にそう言うのがやっとだった。
 




