5:事情聴取
またマスコミの連中かと二人が家の外に出ると、予想は外れた。
戸を開けると、オルフとレルヒィの目の前に立っていたのは、数人の軍人だった。無論、占領軍の。
オルフは目を細めた。
「何の用だ?」
「失礼。複数の記者から、この家を訪れた男に酷く殴られたとの通報があったのでね」
「そういうのは、普通は警察の仕事じゃねえのか? 軍が出しゃばるような話じゃねえだろ」
「まあ、普通はそうなのですが――」
ちらりと、オルフの一番目の前に立つ男はレルヒィを見た。
「こちらにも、色々と事情があるものでしてね。ご同行願えますか?」
願えますか? などと白々しいこと訊くものだとオルフは思った。こういう手合いが、こう言ってくるってことは、どう足掻こうと連れて行くと言っているに等しい。
「止めて下さいっ! この人は私が記者の人達に囲まれて困っているのを助けてくれただけなんです。何も悪いこと何てしていませんっ! ですから、連れて行ったり酷いことはしないで下さいっ!」
懇願するレルヒィをオルフは手で制した。
「いや、いい。何となく、理由は察した」
「ご理解、助かります。我々も手荒な真似はしたくないので」
「どういう事ですか?」
事態を飲み込めていないのだろう。一人、困惑するレルヒィに振り向いて、オルフは頭を掻いた。渋面を浮かべる。
「要するに、こいつらは俺とシュペリ中尉の関係を疑っているんだよ。証拠不十分で、妹は早々に解放したが、そうやって泳がせておけば誰かしら釣れるかも知れないと監視していた。そんなところだろ?」
「そんな」
オルフは占領軍に向き直るが、彼らは何も答えない。その沈黙は、肯定しているようなものだと思うが。
「別に、俺は構わない。出来ればもう少し、シュペリ中尉を偲んでいたかったが。この後の予定があるわけでも無いし、あまり長々とお邪魔しても悪い。疚しい真似もしていない。正直に話せば、すぐに開放して貰えるだろうさ」
「それは、事情聴取の結果次第ですけれどね」
約束は出来ない。だが、悪意を持って陥れようとはしないつもりだと。オルフには、そんな言葉に聞こえた。
こちらを見上げるレルヒィに、オルフは笑みを浮かべた。
「そんなに心配しないで下さい。お邪魔でなければ、終わったらすぐにまた一度、こちらに立ち寄らせて貰いますから」
「本当ですか? 約束ですよ?」
レルヒィにオルフは頷く。
「あと、荷物は持っていっていいんだよな? 移動用に使えそうなものを詰め込んだだけなんだが」
「ええ、構いません。ただ念のため、こちらで預からせて貰っても?」
「私が、取りに行きます」
「家の中まで同行させて貰っても?」
すかさず訊いてくる占領軍に、不承不承ながらもレルヒィは頷いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
名前はオルフ=ヒンメル。年齢24歳。戦時中は首都防空隊に所属するも、終戦によるミルレンシア軍解体と共に除隊。最終階級は飛曹長。
階級から考えれば、戦地によっては小隊を率いる立場だったが、年齢と配属先により、実戦での指揮経験は無し。
戦後は故郷に帰り、実家の農場を手伝って今に至る。
首都メルテナを訪れたのは、空戦競技チャンピオン戦テロリスト襲撃事件を起こしたシュペリ=ラハンの家族を見舞いに来たため。除隊してからの過去四年間は、彼らとの接触は一切無し。そもそも、メルテナに来たこと自体が四年ぶり。
大雑把に纏めれば、そんな感じのことをオルフは説明した。
「なるほど。ここまでの話を聞いた限り、事件とは一切の関わりが無いみたいだな。自然な話に思える」
「だから、そう言っているだろうが」
陰気な取調室の椅子に座って、オルフは毒づいた。
「だが、それを証明するものが無い。例えば君が、本当に故郷にずっといたままだったという証拠だ」
「そんなもん、何をどうやって出せって言うんだよ」
オルフは半眼を浮かべた。
「ああ、それももっともだ。君の故郷に兵を送り、証言を確認するというのも一つの手だが。そこまでする程、我々の手も空いていないし、その証言が確かだという保証も無い」
「だろうよ」
言わば「無いことを証明しろ」という話だ。そんな真似、真面目にやってられるようなものじゃない。
「なので、証拠不十分ということで、我々にこれ以上君を拘束する理由は無い」
「そうか。分かってくれて何よりだ」
「だが、だからといって君を野放しにするわけにもいかない」
「ああ? 何でだよ?」
「言っただろう? 君が事件に一切関係無かったという証明が出来ていないからだ」
オルフは舌打ちした。
「じゃあ、一体どうしようってんだ?」
「開放はするが。当分の間は我々の目の届くところにいて貰いたい」
「つまり、メルテナからは出るな。実家には帰るな。そんなところか?」
「まあ、概ねそんなところだ」
オルフは嘆息した。こんな話、親に報告したら何と言われることやらと。
「おたくら、中尉を偲んで訪れた相手を全員こうするつもりか? 当時の戦友も散り散りになって、今どうしているのか俺も知らねえけどよ。果たして、来るかどうかも分かんねえけど。相当の手間じゃないか? いつまで続ける気だよ?」
「そうはならないように。一刻も早い事件の全容解明を急いでいるところだよ」
「ああ、そうかい」
投げやりに、オルフは息を吐いた。取りあえず、レルヒィには無事な姿を早々に見せられそうで、それだけは良かったと思うが。
「その事件の全容とやらが解明されれば、中尉の遺体も妹の元に返してやれるんだな?」
「確約は出来ないが、その可能性は高いと、個人的には思っている。正直、若い娘が直視するには厳しい姿だから、そのままの姿を見せるのは避けた方がいいとは思うがね」
「そうかも知れねえな」
拳銃で頭を撃った挙げ句に、墜落。そんな遺体がどんな姿になっているかだなんて、オルフもあまり想像したくはない。
「しかし参ったな。俺はここに伝手は無いんだ。日銭を稼ごうにも、仕事をまずどうしたものかねえ。おたくらが拘束したせいで、レルヒィは昼の仕事を失ったっていうくらいだし」
そこんとこ、ちょっとは責任感じて手を貸すくらいの誠意は見せてくれてもいいんじゃねえの? と、オルフはじっとりとした視線を向けた。まあ、無駄だとは思うが。
「その話なのだが、我々、というか上からも少し、君と話がしたいそうだ」
「うん?」
予想外の反応に、オルフは眉をひそめた。