41:戦闘(3)
目まぐるしく位置を入れ替え、複雑な軌道を描く戦闘機を眺めつつ。ハクレは僅かに目を細めた。
見付けた。
オルフやトキマ達が飛んでいる場所から離れて、そいつらはいた。4機の戦闘機と、それよりも一回りほど大きい機体が一機飛んでいた。戦闘機は、三日月型の翼を持っている。恐らくこれが、西部諸国製のブリッツ・シュヴァルベなのだろう。
それらは低空を飛んでいたが、ハクレは更にその下、地上すれすれを飛ぶ。ハクレの前を飛ぶ機体がどこを見ているかといえば、その意識はほぼ、オルフ達による空中戦に向けられているだろう。また、警戒していたとしても、それもやはり上空に向かうはずだ。
湿原に溶け込んだ迷彩を施し、その上で超低空飛行を続けるハクレは、視覚的にも意識的にも、完全に目の前にいる機体の死角に入っていた。
まるで気付かれている様子は無い。
背後から近付き、胴下に潜り込んだ状態から、ハクレは操縦桿を引いた。
こいつらは、素早く片付ける必要がある。
まず、通信妨害をさせたまま、つまりは遠隔操作で爆弾を起爆させることが出来ない間に督戦隊を全滅させなければならない。そんな判断の立て直し時間は与えられない。
それに、ハクレが見た限り、オルフ達が戦っているのは、やはり相当の手練れだ。それも、最初から様子見や手加減が無い。戦闘が長引けば長引くほど、オルフ達が撃墜される可能性が高くなる。それにどうも、展開はあまりいいようには思えない。
ハクレは素早く照準に敵機を定め、引き金を引いた。超低空から低空までを上昇するほんの一瞬。その短い時間で、まずは1機目。そして、立て続けにもう1機を照準に定め、引き金を引く。
呆気なく、敵機は黒い煙と炎をあげて落ちていった。残り、3機。
そのまま、ハクレは敵機の後方を交差する形で上昇し、上を取る。スロットルを絞り、失速ギリギリまで一気に速度を落とす。そして、ストールターンへ。
「反応が遅い」
くるりと機体を反転させ、ハクレは呟く。
ハクレの眼下で、敵機は加速を始めたようだった。ようやく、我に返ったというところだろう。
3機目を照準に入れ、ハクレは引き金を引いた。
あっという間に3機目の主翼は折れ、敵機はくるくると回りながら落下していく。
ハクレは操縦桿引いて、加速していく敵機の背後を取る。
その瞬間、4機目は機首を上げ、螺旋を描くように急減速してきた。
と、同時にハクレも機体をロールさせて減速する。また、高度も落として敵機の後方下へと潜り込んだ。
ハクレは冷笑を浮かべる。
背後を取られたから。慌てて後ろを取り返そうとした? そうさせる心理も、次の機動も、読んでいた通りだ。だから、同じようなことをやり返した。
ハクレは機首を上げて、4機目を撃墜した。これで、督戦隊は始末した。
さて、これで残りは、通信妨害装置を載せたと思われる機体を墜として、無線を回復させるだけだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
彼は、目の前で起きたことが信じられなかった。
突然、自分達の周りを飛んでいた戦闘機が2機、撃墜されたと思ったら、立て続けにもう1機、更にもう1機と瞬く間に墜とされていった。それも、ほぼ何も出来ずに。
「馬鹿な」
コクピットの中で、彼は恐怖に震えた、心臓が痛い程に震える。血の気が引くのを自覚した。
あの4機も、かなりの腕を持った精鋭のはずだった。だからこそ、こんな任務で、督戦隊なんて役に就いたのだ。
それが、ものの数十秒も経たない間に全滅した。
あの、ヤハールの戦闘機には悪魔が乗っているとでもいうのか?
彼の目の前で、ヤハールの戦闘機が大きく旋回する。その旋回が終わるとき、それが即ち、自分の命が尽きるときだ。それを否応なしに、彼は理解する。通信妨害装置を切って、起爆スイッチを押すという考えは、死の恐怖を前に吹き飛ばされた。
「嫌だあああああああああぁぁぁぁぁっ! 嫌だ! 嫌だ! 助けてくれええええぇぇぇっ!」
彼は悲鳴を上げる。悪魔の視線が、冷たくこちらを貫いているのを感じた。
横殴りの機銃掃射がコクピットを貫いて、彼は空へと散らばった。




