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39:戦闘(1)

 太陽が地平線から顔を出した頃。

 オルフは目を細めた。

 その視線の先には、小さく二つの点が浮かんでいた。この時間に、ミルレンシアの他の基地から飛んできた飛行機はあり得ない。また、郵便などの民間機が紛れ込むということもあり得ない。


 ミルレンシアからパイロットが攫われていたというのなら、ウルリッツァ湿原の具体的などこで訓練をするのかも、それは分かる話だ。だから、ミルレンシア軍と同じ場所を使っていたシン達は墜とされた。

 徐々に大きくなる二つの点。見間違いようのない、三日月型の後退翼を持った機体。それらは、逃げる気配を見せなかった。

 やる気ということだ。


 オルフはにぃっと、白い歯を見せて笑った。上等だ。元よりここで、退くつもりは無い。

 敵機の機影が、照準器の最小目盛りの幅の大きさになるかどうかというところで、オルフは上昇に転じた。続いて、上昇しながら左ロールして敵機に対して機体の横を見せる。首を曲げて、視線は敵機から逸らさない。


 オルフの進行方向先を、火線が横切っていく。

 こいつは、間違いなくレパンだとオルフは直感した。この長射程でここまで正確に狙いを定めてくる戦闘機乗りは、彼以外には知らない。この早漏野郎がと、オルフは胸中で毒づく。

 断頭台の刃の如く迫ってくる火線に対し、オルフは再び180度ロールを行い、操縦桿を退いた。火線が、機体の腹の下をくぐっていく。


 機体の尾部から、軽い衝撃と金属が破裂する甲高い音が伝わった。

 オルフは舌打ちする。こういう、有効射程外からちまちまと当てて、それで偉そうな顔をするから、この先任はあまり気に入らなかった。腕は認めているし、人格も悪くないことは理解しているが。ただ、相性が悪い。

 有効射程外からでも射撃をしてくるのも、理由は理解している。要するに、進路を塞いで相手の進行方向を誘導するのが目的だ。そうして逃げ場を失わせた挙げ句、確実に仕留められる距離まで近付いたところで、トドメを刺す。それが、レパンという男の必勝法だった。


 さっきも、オルフが期待を反転させていなければ、機首上げした先に射線は振り下ろされ、オルフは風防ごと吹き飛ばされていただろう。火線を躱そうとすることで、どう動くかという先を読んで。そこから、更に軌道修正して当てられたが。

 だから、有効射程外のうちに、当たり所さえ悪くなければなんとかなるうちに、そんな誘導には惑わされることなく、動くことが生き残る道となる。

 オルフは操縦桿を倒し、敵機へと機体をやや傾けながら上昇し、上を取っていく。オルフの後ろを取るべく、敵機もまた再び上昇してくる。


「そうは、させねえよ」

 これまで何度か乗った感触で、新型のブリッツ=シュヴァルベが従来のものよりも旋回性能に優れていることは実感している。だから、これでも追いかけられると踏んでいたし、事実、その通りとなった。オルフは背面になりながら、敵機に対して後方頭上から襲いかかる。


 有効射程ぎりぎり、更には目的が彼らの救出であるため、機銃も小口径のものに換装している。当たったとしても、致命傷にはならず、せいぜい幾ばくかの性能低下を期待出来るかどうかだ。そして、それでいい。

 オルフは、照準をコクピットに合わせたまま、引き金を引いた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 レパンは機体を右にロールさせ、敵機に対して横倒しの格好にした。

 それに対し、僅かに遅れて火線が、ついさっきまで主翼があった場所を通過していく。間一髪の回避だった。

 この、こちらの射線による誘導には引っ掛からず、多少の被弾は覚悟の上で切り込んでくる飛び方には覚えがある。


「やはり、オルフ。お前か」

 レパンは確信する。

 戦後、ミルレンシア空軍が解体された以上、オルフが再び戦闘機に乗り始めてから、どれほどの月日も経っていないだろう。しかし、それでもここまで飛べるということは、少なくとも戦時の頃の腕は取り戻していると考えていい。

 レパンは薄く笑った。


 ならば、遠慮は無用だ。手も足も出ないような相手を一方的に撃ち落とすよりも、勝負になる相手と戦った方が、まだ罪悪感は少ない。レパンは、勘を取り戻してきたオルフに感謝した。仮に、無様な腕だったとしても、遠慮なく撃ち落とす覚悟はしていたが。

 機体を45度傾けたまま、レパンは操縦桿を退く。機体は斜め上へと上昇しながら旋回し宙返りを行う。


 シャンデルと呼ばれる機動を取りながら、レパンはオルフがこちらを追うことなく下降していくのを確認した。オルフの判断は間違ってはいない。速度を落として追ったところで、突っ込んでくる角度が急すぎて追いきれない。オルフにあった、射撃のチャンスは先ほどのほんの一瞬に過ぎない。

 そこからのオルフの動きは、読み通りだった。

 位置エネルギーを運動エネルギーへと変換。速度を上げたところで、再び機首を上げ、上昇していく。


「馬鹿の一つ覚えが」

 確かに、それはブリッツ・シュヴァルベの基本戦術だ。だが、そんなものが同じブリッツ・シュヴァルベ乗りに通じるとでも思っているのかと。

 高度はまだこちらが上だ。

 レパンは更に機体をロール、今度は完全に背面を地上に向け、操縦桿を退く。スプリットSの機動へと移行する。そして、上昇を続けていくオルフの下へと潜り込んでいく。


 逆ループの形となり、地上と平行になったところで更に機首上げ、オルフの背後が見えてくる。

 ここから更に突き上げる形で追いかければ、オルフは撃墜出来る。

 が、レパンは反射的に回避運動を取った。


 その直後、主翼の下から火線が掠めるように吹き上がっていくのが見えた。火線が見え始めた気がしたというだけだったが、判断は正解だった。金属音も響いたので、軽く当てられたかも知れない。

 レパンはロールして、相手を確認。もう一機の敵機。剣鷹が下に潜り込んでいた。と、同時に一つ、違和感を覚えた。被弾の衝撃が軽い。

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