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31:急転

 司令室の中、色々な感情を押しとどめながら、オルフはハクレと相対した。

 何がどういう事か、さっぱり分からない。突然に有無を言わさず、武装した兵士達がハンガーへと押し掛けた。彼らはオルフとオーエンのみを残して、モルト達を地下の独房へと連行したのだった。


「どういうことか、説明はしてくれるんだろうな?」

「無論だ。その為に君を呼んだんだ。彼らにも、同じ説明をするつもりだよ」

 大きく、ハクレは息を吐いた。


「順を追って話そう。シンが目を覚ました。命に別状は無い。記憶の混乱も無いそうだ。君達が早期に発見してくれたおかげだ。まずは、その点、感謝する」

 ハクレは頭を下げた。

 シンは湿原の端の方で墜落していた。彼が助かったのは、地面が柔らかい湿地帯だったこと。脱出した近くで機体が炎上し目印となり、発見がしやすかったというのが主な理由だろう。


「そうか。あの野郎、無事だったか。まあ、あいつが助かったのは駆けつけた救護隊の努力もあってのことだと思うぜ? 彼らにも、そう伝えてやった方がいいと思う」

「そうだね。そうさせて貰う」

 そう言って、ハクレは同意してきた。


「事情が事情だけに、シンは現地の病院からすぐにこっちへ移送して貰う事になったよ。直接確認したいことが、色々とあるからね」

 事情は分かるものの、おちおちゆっくりと休むことも出来ない。オルフはシンに少し同情する。

「それでだ。シンがあそこで何が起きたのかを話してくれた。俺も、病院から駐屯地を経由して聞いた話しか知らないがね」

「何て?」


「ブリッツ・シュヴァルベにやられた。だそうだ」

「はあっ?」

 あまりにも予想外だったせいで、オルフは思わず頓狂な声を上げる。


「何を馬鹿な事言っている? 俺はあのとき、この基地にいただろうが? 機体も、あれ一機しか無いはずだ」

「分かっている。君があの場にいたなどと言うつもりは無い。ただ、シンの言葉を信じるなら、何者かが、シュペリと同様に出所不明のブリッツ・シュヴァルベに乗って現れ、シン達を襲撃したということになる」

「他の連中は?」


「シンを残して、全員撃墜されたそうだ。何分間か戦って、一機こちらを仕留めたと思ったら後は瞬く間に墜としてきたらしい」

「相手の数は?」

「2機だったそうだ。対してシン達は全員で5機だった。敵はかなりの実力者だったと見ていいだろうね。シンは、本当に命からがらで逃げ出したと言っていた」

「生き延びて情報を持ち帰ってきてくれただけでも、勲章ものだな」

 オルフは深く溜息を吐く。


「それでだ。この事件とも繋がっている可能性が疑われるため、彼らを連行させて貰った」

「馬鹿言え、どう繋がっているっていうんだ! 証拠はあるのか?」

「そんなものは無いさ。逆に、無いからこそ疑われている。言っておくが、これは俺も好き好んでやっている訳じゃない。ただ、彼らの置かれた状況は相当に厳しい。それこそ、こうして独房にでも入れておかないことには、身の安全が保証出来なくなるかも知れない」


「何でだよ?」

「さっきも言ったけれど、彼らは身の潔白が証明されていない。だからこそ、疑いの目は晴れない。俺達はこれまで、人道と公平性を慮り、地道に証拠を集め、彼らの信頼を得た上で事実を明らかにしようと進めてきた」

「そうだな」

「しかし、そんな真似は手緩いという声もあるんだ。今までは抑え込んできたが、この事件で一気に風当たりが強くなった」


「だから、締め付けを強めた。そういうことか?」

「そうだ。そうでもしないと、そういった声に対して示しが付かない。ここで、少しでも押し止めておかないともっと厄介なことになりかねない」

「どういう意味だ?」


「彼らをウルテン留置場へ移送しろという話が出てきた」

「それは、マズいのか?」

 オルフが訊くと、ハクレは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「マズい。それこそ、拷問すら行われる可能性がある。あそこはそういう場所だ」

 オルフは呻いた。

「今はまだ、独房に入れたことである程度は牽制出来たと思う。けれど、いつまでもこうしてはいられないだろうね」

「期限があるっていうことか?」

 ハクレは頷いた。


「そうだ。あまり猶予は無いかも知れない。明確な根拠が有るわけではない。印象から考えて、せいぜい凌げるのは10日かそこらというところだろう。それまでに、俺達はシュペリが起こした事件も含め、シン達を襲った事件の全容を解明しないといけない」

「マジかよ」

 オルフは舌打ちした。


「悪いことはまだある。このままだと、ミルレンシア空軍を復活させるという話も、立ち消えになりそうだ」

「踏んだり蹴ったりだな」

「ああ、更に分からないことがまだある」

「何だ?」


「シンが言うには、敵機と戦闘に入った途端、無線が使えなくなったそうだ」

「故障でもしたのか?」

「シンも最初はそう思ったそうだ。よりにもよってこんなときにとね。ただ、冷静になってみると、少し違うような気がしていると言っている。声そのものが、無理矢理掻き消されたかのようだと」

「何から何まで、分からないことばかりか」

「全くだ」

 司令室に、重い沈黙が降りた。

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