26:三度目の来店
オルフとトキマは、レルヒィ達が働く店に訪れた。
オルフの隣にレルヒィが座り、トキマの隣にはリィゼが座っている。
「今日は、オルフさんと一緒に来店されたのはシンさんじゃなくてトキマさんなんですね」
「ああ。前にあいつと新型戦闘機で空戦をするって話をしただろ? まあ、そういうことだ」
レルヒィに答え。ふん。と、オルフは強く鼻息を吐いて、胸を反らした。
「つまり? オルフさんが勝ったっていうことですか?」
「そうです。圧勝でした」
リィゼの問いに、トキマが答える。
「まあ、口では何と言おうが、あいつはそんなもんだ。ちょっとは身の程ってものを知っただろうさ」
「オルフさん。そんな言い方しちゃ、シンさんが可哀相ですよ」
とは言いつつも、レルヒィもにこにこと笑っている。その笑顔を見て、オルフはますます胸を反らした。
「やれやれ。ご機嫌だな。まあ、気持ちは分からなくもないが」
トキマは苦笑した。
「オルフさん。そんなに強いんですか?」
「強いですよ。とても、四年間も戦闘機に乗っていなかったとは思えない戦いぶりでした。シンも、身贔屓ではなく、決して腕は悪くないパイロットです。ただ、ミルレンシア空軍の元精鋭部隊を相手するには、まだ力不足だったということでしょう」
「それで、シンさんは落ち込んで今日は来てくれなかったっていうこと?」
「半分当たりで、半分は外れです。今日は元々、自分が来るつもりでした。レルヒィさんから話は聞いているのかも知れませんが、自分もレルヒィさんとは少し縁が有るものですから」
「なるほど」
と、トキマは小首を傾げた。
「ひょっとして、自分ではなくシンが来た方があなたにとってはよかったのでしょうか? だとしたら、悪い事したなあ」
「え? やだなあ。そんなことないですよ? ただ、前に来てくれたとき、結構楽しく話をしてくれた人だったし? ちょっと、今どうしているのかって思っただけで」
「そういや。リィゼさんはシンの野郎と随分と盛り上がっていたな」
ふと、オルフは思い出す。
「ふぅん? リィゼって? そうなの?」
レルヒィに半眼を向けられ、リィゼは慌てる素振りを見せた。
「やっ? 別に? 全然そういう訳じゃないですよ? レルヒィ? 前にちょっとからかったの、根に持っていません? そんな意趣返しは止めてくれます?」
そんなリィゼの訴えには「聞く耳持ちません」と言わんばかりに、レルヒィはそっぽを向いた。彼女らのやり取りに、オルフもトキマも苦笑を浮かべる。
「それで、シンが落ち込んでいるというのは当たりです。何しろ、空戦で一方的にやられ続けましたからね。相当にショックだったのでしょう。口数も少なく、憔悴しきった顔をしていました」
「おかげで、随分と素直になったみたいだけれどな。後で俺とトキマが色々と教えたんだが、そこはかなり真剣に聞いていたみたいだぜ。まあ、パイロットやっているんだ。足りないと痛感したものは素直に取り入れる気があるだけ、可愛げがある。トキマがいたからっていうのもあるんだろうが」
「素直に、見所があるって言えれば、君も可愛げがあると思うんだがね」
そう言って、トキマは軽く嘆息する。オルフはどこ吹く風という態度だ。
「どんなことを教えたんですか?」
「主に、逃げ方のコツです」
「逃げ方? 攻め方ではなく?」
オルフとトキマは頷いた。
「死んでしまっては、何にもならないからな。本人の命は勿論、情報や経験の蓄積、戦力の維持。だから、生き残ることが何よりも大事なんだ」
「何機敵機を撃墜しようが、死んでしまってはお終いです。自分は、自分を撃墜王だなどと思ったことはありません。何故なら、戦時の撃墜数だけで言えば、自分よりも遙かに上のスコアと腕を持っているパイロット達がいるからです。しかし、その多くが既に故人となっている。それを考えるとね? 自分には、称号よりも生き延びたというただそれだけの方が、意味がある。そんな風に思います」
「チャンピオンが言うと、重みが違うねえ」
からかうようなオルフの口調に、トキマは照れくさそうに笑った。
「でも、そっかあ。シンさん。落ち込んでいるのね。それじゃあ? トキマさん? もし大丈夫だったらでいいんですけど、シンさんがその気なら、またお店に来てくれるように伝えて貰っていいですか? 私を指名してくれたら、いっぱい慰めてあげるって」
「ちょっと? リィゼ? それってひょっとして一人で?」
「そうですよ? いつまでもレルヒィにべったりって訳にもいきませんし? シンさんなら、一人でも大丈夫かなって。レルヒィと違って、新人はお得意様の獲得には必死になるんでーす」
「ふ~ん? なら、そういうことにしておきます」
レルヒィは唇を尖らせた。
「分かった。伝えておく。ついでに、彼には火傷しすぎないように気を付けろとも注意しておくよ」
くっくっと、トキマは笑う。
「ありがとうございます。トキマさん。あと、もう一つ私から二人に訊きたいことがあるんですが?」
リィゼの問いに、オルフとトキマは小首を傾げた。
「お二人は、戦ったらどっちが勝つと思いますか?」
そこからは、もうほとんどレルヒィとリィゼを置いてけぼりにする勢いで、白熱した空戦談義が繰り広げられることとなった。




