25:消えたロケット
カイは再び、その町を訪れた。
「わざわざ、すまないな」
「何、別に構わない。その分、あいつらを早く返してくれればありがたいがね」
「それは、君達と彼ら達の心がけ次第だ」
皮肉気味に言ってくるオットに対し、カイは表情を変えること無く言う。
鍵を開け、オットがシャッターを持ち上げるのを見届けてから、カイは付け加える。
「とはいえ、少なくともそう悪い印象は無い。その分、いつになるかは分からないが、彼らが帰る日は早まっているはずだ」
「そうあって欲しいものだ」
オットは小さく、笑みを浮かべた。
カイはコクトゥが経営している工場の中へと入った。
「しかし、あんたもご苦労なことだな。ここだけじゃなく、あちこちを回っているんだろ? この中も、前に来たときに入ったってのに。捜し物一つのためにここに来るとは」
「どうしても、気になってな。まあ、あと君達が誠意を見せてくれているように、こちらも要望にはなるべく応える態度は見せないと気分が悪い」
「律儀だね。ヤハールの人間ってのは、どいつもこいつもいけ好かない連中ばかりだと思っていたが。あんたみたいなのもいるんだな。ついつい、認識が変わりそうになる」
「戦争をやっていたんだ。なら、敵対する勢力に憎しみが湧くのは当然だ。だが、実のところ互いにただの人間だ。それを忘れさせるのが戦争だ」
カイは吐き捨てるように嘆息した。
「だから俺は、戦争が嫌いだ。好き好んでやるような連中も、早々いないだろうがな」
「全くだな。ただ俺は、戦争が始まる前は、まだどこか他人事で、戦争が始まることで、この国の行き詰まった未来も切り開けるものだと思っていた。戦うことで、未来は勝ち取るものだと思っていた。ある意味では、戦争が始まってようやくこれ以上堪えなくていいのだと思っていた。戦争を待ち望んでいたのかも知れん。しかし、そんなものは結局、まやかしだったな」
「当時の指導者達を憎んでいるのか? 『戦うことで未来を掴む』。これは、当時のプロパガンダだったと聞いた。それを聞いたら、俺もそうだと思っていたかも知れない。それに、勝ったからこそそう思うのかも知れないが、まるっきり嘘の言葉という訳でもないだろう。当時の指導者達も、必死だったと言っては、擁護のし過ぎか? ヤハールの人間である俺が言うのも、変な話だと思うが」
「んなこたぁ、俺も分かってんだよ。ただ俺は、この憤りを誰に向ければ良いのか分かんねえだけだ」
「そうだな。俺も、同じ気持ちだ」
しみじみと、カイは同意する。
埃を被った機材。床の隙間を満遍なくカイは眺めていく。
「それで? 捜し物っていうのは、シュペリの奴が身に付けていたっていうロケットか? 捜すのは構わねえけど。無いと思うぞ? 電話でも言ったが」
「ああ。聞いている。それでも、念のためだ」
「警察には訊いたのか?」
「一応はな。だが、保管期限が過ぎている。記録を探しては貰っているが、期待薄だな」
カイの答えに、オットは肩を竦めた。
「まあ、気が済むまで捜してくれていいさ」
「本当に、そのロケットには見覚えが無いんだな?」
「無い。あいつに妹がいたことは何度か聞いている。それでも、そんなロケットは一度も見せてきたことが無かったし、見たことが無い。それこそ、着ていた服とスクラップ寸前のトラクターとエンジンを除けば、何も持っていなかったな。前にも言ったが」
「そうか」
「あいつの遺体も含めて、全部おたくらの基地に保管してあるんだろ? そっちには無かったのか?」
「見付からなかったそうだ。検品は捜査の最初にもくまなく行ったが、やはりそんなものが見付かったという記録は無い」
「こう言っちゃ何だが、本当にそんなロケットがあったのか? 妹が言っていることが勘違いなんてオチじゃなく?」
「それも無さそうだ。オルフが言うには、彼はそれこそ常に肌身離さず身に付けていたらしい。妹については、かなり可愛がっていたらしく、よく自慢していたそうだ。そういうときは厳しい上官が甘い兄の顔になるのが常で、オルフの奴は当時、そこを突いてはご機嫌を取っていたそうだ」
「なかなか面白そうな奴だな、その男も。弟から、あんたらには悪いが、新型戦闘機を使った模擬戦で、ヤハールのパイロットをコテンパンにしてくれたと聞いて嬉しく思ったが。ますます好きになりそうだ」
くっくっと、オットは上機嫌に笑った。
「シュペリが妹を大切に想っていたというのは、本当なのか?」
「本当だな。あまり、その事について話したことは無いが。『妹のところに帰ることは、もう出来ない。けれど、俺はあいつだけは守らないといけない』みたいなことも言っていたな」
カイは怪訝な表情を浮かべた。
「どういう意味だ? 帰れない? 妹に寄りかかりっきりだった挙げ句に家出したことで、帰りづらいのは分かるが。守るというのは?」
「さあな? 俺にもさっぱり分からん。訊いても、頑として教えてはくれなかったな」
「エンジンの出所と同様に。か?」
「ああ」
オットは頷いた。
結局、その後はどれだけ工場を捜してもロケットは見付からなかった。




