24:死人のエンジン
オルフはオーエンと共に、ハクレの執務室を訪れた。
「ご苦労だったね。それと、おめでとう。シンもあれで、悪くないパイロット何だが。流石に、あの戦争を生き延びた精鋭パイロットを相手するのは力不足だったか」
にこやかに笑うハクレに、オルフは半眼を向ける。
「よく言うぜ。おおかた、こんな結果になるのも目に見えていたんじゃねえのか? 今になって俺が言うのも間抜けだが、完全に利用していただろ? 俺達が、戦えるだけの戦闘機を造ることが出来るっていう証明が出来て、ミルレンシア空軍を復活させるための説得材料にも出来る」
「そんな計略を考えるほど、俺は腹黒いつもりはないよ。どうにも、誤解されるようだが。まあ、使えるものは使うけどね」
そう言って、ハクレは苦笑を浮かべた。
「まあ、結果として使える材料になったのは事実だ。そこは否定しない。ミルレンシア空軍の復活は、より現実味を増した。上層部にも、そのように掛け合うよ。君達にとっても、願ったとおりの話だろう?」
「まあな。それは否定しない」
なので、オルフも利用されていたとは思うものの、そこで反発する気は無かった。
「他の人達も、この勝利に喜んでいるようだね。こっちの兵達の反発を招かない程度に抑えて欲しいとは思うけれど、これで胸につかえていたものが少しは晴れるというのなら、それはそれでいいんじゃないかと思う」
「そうだな」
地上に戻ってきたとき、オルフは彼らに揉みくちゃにされ、盛大に歓迎された。泣いていた人間もいた。ただ、一矢報いたい。それだけの思いがどれだけ彼らの心に刻み込まれていたのか、オルフは改めて思い知った。
そして、彼らの期待に応えることが出来て。この国を守り切ることが出来なかったという自身の無念も、少しは晴らせたように思う。
「それで? 話は変わるけれど、そちらのオーエンから話したいことがあると聞いた。それについて、聞かせてくれるかい?」
ハクレに促され、オーエンは頷く。
「ああ。あんたらが、あの日の襲撃事件に使われた機体のエンジンについて捜査しているっていうのは、オルフから聞いた。それと、プレアデン重工は既に捜査済みで、シロだっていうのも聞いた」
「あのエンジンについて、何か知っていることがある。そう言っているのか?」
オーエンは呻いた。
「知っている。とは少し違う話になる。俺が知っているのは、あのエンジンは本来、あり得ないはずのエンジンだということだ」
オルフは眉をひそめた。
「そりゃあ。このご時世で出所不明のエンジンとなれば、あり得ないっていうのは当然じゃないのか?」
しかし、オーエンは首を横に振る。
「違う。そういう意味じゃない。あのエンジンは、設計図からしてこの世に無いはずのものなんだ。誰も造り方を知らないはずのエンジンが、何故かこの世に存在している」
「ゆっくりでいい。どういうことか、落ち着いて話して欲しい」
静かなハクレの声に、オーエンは頷く。
「俺も、詳しくは知らない。単に、戦争末期に、あいつからそんな話を聞いただけだから。あいつっていうのは、俺と同じでプレアデン重工の元設計技術者だ。フリッツっていう。戦闘機のエンジンを設計していた技術者だ。あくまでも、当時にそいつから聞いていた話を基に実際に造ったら、あんな感じのエンジンになるだろうと思っただけで、実際は違うかも知れないんだが」
「いや、それでもいい。君の考えを聞かせてくれ。つまりは、そのフリッツという男が、極秘裏にあのエンジンを開発していたかも知れないということか? そして、知り合いである君は、彼やプレアデン重工を庇おうとした? だから、これまで話そうとしなかったということ?」
「違う。それも違うんだ」
オーエンは頭を掻いた。
「そいつ。フリッツはもう、この世にはいない。終戦してから数ヶ月のうちに、設計図も残さずに死んだ。自殺だっていう話だ」
「自殺? 理由は?」
「分からない。ただ、あいつも俺と同じく、融通が利かない男だったからな。飛行機なんかに使えるような大型エンジン以外は造りたくないとか駄々捏ねて、プレアデン重工はクビになった。自殺の理由としては、生き甲斐を見失ってしまったことだろうと思っている。あいつの死を社長も悔しがっていたって聞いた。ようやく、戦争が終わってこれからだ、生きてさえいればいずれまた機会が巡ることもあるだろうにって、あの馬鹿野郎がって」
「他に、そのエンジンを造れそうな人間に心当たりは? フリッツから聞いた話を基に、設計図を書き起こしたり出来る様な人間や、君以外に話を聞いていそうな男は?」
「いるとしたら、それこそプレアデン重工の連中だ。それも、エンジン技術者の。言っておくが、俺は違う。専門が違うから、大まかなイメージは出来ても、実際に形にするのはとてもじゃないが無理だ。そして、プレアデン重工がシロだっていうのなら、実際そうだと思う。オヤジは、社員の生活優先でそこは徹底して筋を通す男だ。隠れておかしな真似は、絶対にしない」
「なるほど、もしそれが本当だとしたら。死人が遺したエンジンということか」
どういうことだ? と、ハクレは虚空を見上げた。
「悪いな。混乱させるような事を言って」
「いいや。構わない。裏取りはさせて貰うけれど、重要な情報を教えて貰ったと思う。助かるよ」
オーエンは、安堵の息を吐いた。
「ただ、あと一つ聞かせて欲しい。どうして、急にこんな話を教えてくれる気になった?」
「別に、大した理由じゃない。俺も、あんたらに一泡吹かせたいっていう気持ちがあって、そこが少しすっきりしたっていうだけだ。それと、オルフからシュペリ以外のパイロットも行方不明者が出ているって聞いた。それを聞いて、あいつの死にも、どうにも気持ち悪いものを感じたんだ。あいつも、よくよく考えれば、しぶとい性格をしていた。あっさりと、世を儚んで自殺なんて性分はしていない」
大きく、オーエンは嘆息した。
「もし、あいつの死に何か裏があったとしたら、それも調べて貰えるかと思っただけだ」
「仲、良かったのか?」
オルフの問いに対し。
「どちらかといえば、当時は衝突ばかりしていたような気もするがな。まあ、戦友ではあったと思う」
そう言うオーエンの表情は、寂しさを隠し切れていなかった。




