22:模擬戦に向けて(2)
新型のブリッツ・シュヴァルベ試作機は無事に完成し、オルフ達は一度目の試験飛行を行った。
オルフは加減気味に基本的な空戦機動を行い、大まかな機体性能を推測する。限界はまだ見極めていないが、総合的に見れば、恐らくはヤハールの新型戦闘機である剣鷹と遜色が無い代物だろう。
試験飛行の後、新型ブリッツ・シュヴァルベはハンガーに戻された。機体各部に損傷が無いかを確認されている。
その様子をオルフは遠巻きに眺め、物思いに耽っていた。
「浮かない顔だな」
「ああ、あんたか」
オルフの隣に、オーエンが寄ってきた。
「何か、機体に懸念でもあるのか? なら、言ってくれ。事故に繋がりかねないようなものは、勝負以前に見過ごせない」
「いや、大丈夫だ。そうか、すまん。そんな風に見えているのか」
オルフは嘆息した。
「模擬戦のことなら心配無用だ。俺は、別の事を考えていた。昨日の夜、ハクレの野郎に気になることを聞かされた」
「気になること?」
オルフは頷く。
「襲撃事件に使われた機体のエンジン。あれの出所が、まだどうしても分からないんだとよ。失踪してからの中尉の消息とか、分からないことは他にも色々とあるんだが。中尉以外にも、消息不明な連中がいるらしい。具体的に誰か、までは纏めきれていないらしく、詳細は分からねえけど」
そう言うと、オーエンの表情は強張った。やはりこいつも、嘘を吐くのが下手な男だとオルフは思う。
「悪い。もし何か知っているようだったら、訊いてみたかったのは確かだ。残骸になったあの機体を見たときも、あんたはそんな顔をしていたから、ひょっとしたらって思っただけで。もしそうだったとしても、無理強いして聞くつもりは無い」
「そうか。顔に出ていたのか。だったら、あのカイっていう男にも、そう思われているんだろうな」
「多分な」
「プレアデン重工にも、捜査の手は伸びたのだろうか?」
「ああ、そっちはもう調べたと言っていた。んで、シロだってよ」
それを聞いて、オーエンは呻いた。
そんな彼の様子に、オルフは小首を傾げる。
「プレアデン重工に変な疑いがかけられるのを避けたかったから黙っていた。っていう訳じゃないのか?」
「いや? その通りだ。その通り、なんだがな」
舌打ちして、オーエンは腕を組んだ。
「すまない。俺にも、どう話せばいいのか考えがまとまらない。この話は、後で話をさせてくれ。そうだな、模擬戦が終わったら、そのときにでも話そう」
「分かった」
踵を返し、作業に戻っていくオーエンを見送って。自分も、気持ちを切り替えようとオルフは思い直した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その晩、シン=キリマは寝台の中でほくそ笑んでいた。
ブリッツ・シュヴァルベ試作機の試験飛行は日中に確認している。なるほど、敗戦国の人間が造ったにしてはまともに飛ぶ機体ではある。彼らも、口だけのつもりではなかったらしい。
しかし、剣鷹の敵ではない。そう、キリマは判断した。速度は遜色無い。そして、機動性は剣鷹が上だ。
ブリッツ・シュヴァルベの戦い方というものは、先任のパイロット達から聞かされている。あの機体は高い上昇性能と降下性能を活かし、それこそ燕のように舞って攻撃してくる。戦法としてはシンプルなのだ。
だが反面、そういう尖った性能をしているが故に、他の機動は劣る。格闘戦、特に巴戦となれば圧倒的に剣鷹に分がある。ここで、ブリッツ・シュヴァルベの速度が剣鷹より勝るようなら、逃げられるという展開も有り得るかも知れない。しかし、大きく違いが無いというのなら、そんな真似はさせない。
「勝つのは俺だ」
囁くように言って。シンは燃える闘志を鎮め、目を瞑った。




