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15:期待と機体

 その晩、食堂の一角にオルフを始めとしたミルレンシア人達は集まり、着席した。

 各々の前には夕食が置かれている。


「――というわけで、新しい戦闘機の設計技術者を迎えることが出来た。俺の横に座っているオーエン=マーテルがそうだ」

 オルフが目配せを送ると、オーエンは頷いた。


「オーエン=マーテルだ。よろしく頼む。戦時中はプレアデン重工で飛行機の設計をしていた。当時はブリッツ・シュヴァルベの設計にも携わっていた」

 オルフとオーエンを除いた面々に、どよめきが湧いた。プレアデン重工は巨大企業であり、そこの設計技術者と言えばエリート中のエリートだ。そんな人間が本当に現れるとは、それは確かに意外だろう。

 とはいえ、飛行機の設計が出来る様な技術者ともなれば、エリート以外にいるはずも無いのだが。


「へえ。そいつは大したもんだ。だが、その割には少し、言っちゃ悪いが見窄らしくねえか?」

 目を細めて行ってくるモルトに、オーエンは苦笑いを浮かべた。

「まあな。俺は戦後になって、飛行機以外はどうしてもやる気が出ないと駄々捏ねた挙げ句にクビになった人間だ。それでもずっと、飛行機のことばかり考えていたような男なんでな。我ながら、馬鹿だと思うよ。ヤバい筋に借金まで作って何やってんだとは思うが。つまり俺は、そういう性分なんだろう」


「ほ~ん? お前さんも、難儀な性格してるねえ。ま、俺は嫌いじゃねえぜ? そういう馬鹿野郎は」

 くっくっと、モルトは笑いを浮かべた。少なくとも、鼻持ちならないエリート気質の持ち主ではないと判断され、そこは好感に繋がったようだ。

「それで? 早速だが、どんな機体を造っていくんだ?」

 モルト=ヒュートがオーエンに訊いた。


「基本的な方針として、オルフから聞いたものと同じだ。ブリッツ・シュヴァルベを進化させたものになる。エンジンはヤハール製を載せるが、性能は申し分ない。機体の組み立てをより簡便にして、製造や整備のパフォーマンスを向上。エアブレーキのような、実戦ではほぼ使い道の無かったギミックも、これを機に捨てる。それから、防弾板の面積を増やし、生存性を上げるつもりだ」


「それも確かに重要だが、肝心の速度や運動性はどうなんだ?」

「性能が上がったエンジンの利点を最大限に活かせるように、機体前方にカナード翼を取り付ける」

「そうすると、どうなる?」

「あくまでも、俺の見立てに過ぎないが、機首上げなど進行方向に対して角度を付けることで機体前面の揚力を得やすくなる」


「つまり? 機首が浮き上がりやすくなるから、旋回や離陸がしやすくなるという理屈か?」

「その通りだ。特に、ブリッツ・シュヴァルベというのは高速での戦闘を想定とした機体だ。そういった速度での高機動性を上昇させることは、大きな強みになるはずだ。翼面が増える以上は、空気抵抗も増えるということであり、戦時中のエンジン性能では速度を鑑みて見送らざるを得ないアイデアだったが。新しいエンジンなら、その問題もクリア出来るだろう」


 戦い方によっては、ヤハールの新型戦闘機にも劣らないものを用意出来る。そんな希望を感じさせるだけの説得力が、オーエンの説明にはあった。

「悪くないな。それで? その戦闘機は、明日から造るのか?」

 コクトゥの問いに、オーエンは首を横に振った。


「いいや? 図面に起こすために10日ほど欲しい。その後になる。必要な部品は、用意が出来た図面から順次用意して貰う話になると思うがね」

「何だ? まだ設計図は無いのか?」

「今のところ、俺の頭の中にしか無い」

 そう言って、オーエンは自身の頭を人差し指で叩いた。


「仕方ないだろう? こんなご時世だ。戦闘機の図面なんざ下手に描いているのを見付かってみろ? ヤハールの連中にしょっ引かれかねないからな」

「なるほど。それもそうか」

 オーエンの答えに、コクトゥは苦笑を浮かべる。


「しかしそれは、実際に書くのは全くの零からと言うことですよね? 大丈夫なのですか?」

 ロペアの問いに、オーエンは不敵に笑う。

「甘く見て貰っちゃ困るな? これでもプレアデン重工の元設計技術者だ。熟練の仕立屋が客の体型を見ただけで、理想的な裁断を見積もれるように。頭の中にある立体を図面に書き起こすことは訳無い」


「そいつは大したもんだな」

「何かと、戦時下はギリギリの毎日だったからな。嫌でも腕が上がったよ」

 皮肉気な笑みをオーエンは零した。


「まあ、そんな訳で、ようやく俺達の新型戦闘機開発もスタートだ。ヤハールとしては、『どうやってあの戦闘機を造ったのか手がかりにしよう』って目的の方が重要なんだろうが、そんなものは知ったこっちゃねえ。連中に一泡吹かせてやろうぜ!」

 その場にいるミルレンシア人達から、歓声が上がった。


「それを俺の前で堂々と言うか。貴様という男は」

 一方で、監視役として唯一ヤハール人として同席していたカイが半眼を浮かべる。

「まあそう言うなよ? これから、長い付き合いになりそうなんだからよ? 腹を割って話した方が、信頼出来るってもんだと思うぜ?」

 そう、オルフが言うと――

「勝手にしろ」

 とは言いつつも、拒絶するつもりも無いと言いたげに、カイは笑みを浮かべた。

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