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13:諦めない先

 応接室の中。オルフ達の前で、男は大きく息を吐いた。

 オルフはいつぞや、独房で語った話と同じことを話してみたのだが。


「悪いが、俺達は力になれない」

「何故です?」

 思わず、オルフの目が細められる。そんな彼の様子を見て、オルフ達の前に座る男は、にやりと笑った。


「おい、小僧。俺も、お前のような奴は嫌いじゃない。お前のような、まっすぐな奴はな」

 オルフは言いたい感情を抑え、飲み込んだ。

 ミルレンシアの中でも三本の指の中に入る重工業。プレアデン重工の社長、ケルガーは60歳手前だが、そんな男にしてみれば、自分なんぞは多少イキがった小僧にしか見えないということなのだろう。

 勘、としか言いようがないが、オルフは目の前の男にそれだけ、背負い続けた何かを感じた。


「お願いします。理由を説明してください」

「素直に教えを請う姿勢は、悪くない。それを忘れた奴は、そこで成長が止まるからな」

 それは、オルフも同感だった。


「理由はな。力になりたくても、なってやれないんだ。戦争が終わり、俺達のような存在は徹底して、その技術を平和的な目的に使うことを約束させられた。設計するものは、自動車や電車といったものばかりだ。事業計画は完全にそっち方面に傾いている。今さら、それを変えることは出来ない」

「飛行機の設計経験がある技術者を数人、お借りすることも無理だと?」


「ああ、その通りだ。あいつらは、戦争が終わっても残ってくれた、俺の会社の虎の子だ。俺のところだけじゃない、行ってみればいいが、おそらく他のところも同じだろうさ」

「既に行ってきました。詳しい理由までは、教えて貰えませんでしたが。ビジネス的に考えて、リスクがあるといった話は聞かされましたが」


「そうだな。それもある。突然に、どこまで信憑性があるか怪しい話を持ちかけられて、それにほいほいと乗ることは出来ない。従業員の生活を背負っているからな。それこそ戦時中なら、無理してでも協力していたが」

「私達はヤハール空軍ですが、この話は正式に動いているものです」

 オルフと共に訪れた男。カイが口を開く。


「だろうな。そこは疑っていない。問題は、空軍全体としての本気度だ。正直言って、こんな話を動かすにしては、おたくらの規模が小さすぎるんじゃないか? 計画性も、行き当たりばったりだ。情熱があれば補えるなどと、夢みたいな話には乗れない。本気で動かす気なら、国っていうのはもっと断りようがない真似をしてくるもんだ」

 ケルガーは目を細めた。


「それとも何か? お前ら、俺がここで従わなければ、銃でも突き付ける気か?」

 ケルガーの低い声を聞きながら、オルフは彼の胸中を推し量る。本気だ。それだけの覚悟を持っている。そう、オルフは判断した。

「そこまでしろとは、上から言われていません。あくまでも、穏便な形でご協力を願いたい。そう考えているので」

「随分と、紳士的なこったな。いいことだ」

 くっくっと、ケルガーは含み笑いを浮かべる。


「話はそれだけか? それなら、そろそろ帰ってくれ。俺も、これで忙しい身なんでな」

「待ってください」

 席を立とうとするケルガーをオルフは呼び止める。


「あと、もう少しだけ聞かせて欲しい。プレアデン重工の事業や従業員に影響が無ければ、いいんですよね?」

「何が言いたい?」

「戦後、この会社を去った技術者で、ブリッツ・シュヴァルベの設計に携わっていた人は、いませんか?」

「いない。と、言ったらどうする気だ?」

「それこそ、俺が零から勉強して設計します」


 これでも飛行機乗りだ。シュペリのようにはいかないが、その背中を追いかけることを諦めるというのも、違うだろう。だから、ここで設計を諦めるというのも違う。最後の最後まで、足掻き続ける。

 それが、オルフの思いだった。

「諦める気の無い馬鹿ってのは、どうしようもねえな」

 再びケルガーは腰掛ける。そして、彼は鼻で笑った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 オルフとカイは車を降りた。

 ルテシア市街の端に、その作業場はあった。古びた家の隣に、ボロボロのトタン屋根の小屋が並んで建っている。「マーテル整備工場」と、かなり掠れた看板がぶら下がっていた。


「ここか?」

「教えられた住所の通りならな」

 二人で、小屋の前に並ぶ。カイが拳を上げ、ドアへと振り下ろす。

「オーエン。オーエン=マーテル。扉を開けろ」

 しかし、返事は無かった。


「留守か?」

 ケルガーからは、オーエンという男は、戦後にすっかりやる気を無くしたろくでなしだと聞いている。飛行機に関わる仕事以外は絶対にやらないと駄々をこね続け。そんな男を雇い続けることも無理だから、クビにしたのだと。

 その後、どういう生活をしているのかは詳しく知らないと言っていた。だが、それでもたまに小遣い稼ぎにはなるであろう程度の仕事を回し、その仕事は納めてくるのだから、生きているはずだとも言っていた。

 何だかんだ言いながらも、従業員を見捨てられない。あの男はそういう男なのだろう。いずれ、オーエンが立ち直り戻ってくれることを願ってもいるのかも知れない。


「オーエン。オーエン=マーテル。扉を開けろ。ヤハール空軍だ。貴様に耳寄りな話を持ってきた。素直に開けた方が、賢明だぞ」

「そういう言い方で、素直に開けるものなのか?」

「黙ってろ」

 カイは一歩踏み出し、扉に耳を当てた。


「やはり、中にいるな」

「何故分かる?」

「人の気配がする。ノックした時の反響から考えても、間違いない」

「まるで、潜水艦乗りだな。戦時中は、そうだったのか?」

「いいや。どこにでもいた歩兵だ。っと、動いたな」

 カイは目を細めた。


「オルフ。足音を消して隣の小屋の方へ回れ。小屋の中へは身を乗り出すなよ」

「あんたは?」

「ここで、少し小細工をする」

「了解」

 カイが何をする気か知らないが、考えがあるのならと、オルフは指示に従った。


 横目でカイの様子を伺うと、どうやらドアノブに針金を突っ込んでいるようだった。

 そうして待つこと、約十秒。

 カイがドアを開いた。その直後、小屋の中から物音が響いてくる。トタン屋根の方の小屋の奥から、ドアが開かれた音がする。

 しっかりと、燻り出されたなと思いつつ。

 オーエンが飛び出してきたところに、オルフは壁の陰から飛び掛かった。

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