ストーキング/裸エプロン/姉、参上!
俺の名前は、夜乙女朝男。
俺は青森県内にある、数年前に過疎地となってしまったエコネコ商店街に住む、普通じゃない高校三年生だ。
どこが普通でないかだって?
雨の夜に猫人間になってしまう特異体質なのだ。
だが安心してくれ、コンプレックスは解消された。
なぜなら猫の生まれ変わりと、付き合っているのだから。
親は二人とも仕事で海外出張、兄は既に自立しているため、二年前くらいから一人で暮らしている。
背が高くキレ長の目で、少し怖いイメージを第一印象で持たれるが、俺は基本的に動物と庭の手入れが好きなオトメンもどきである。
因みに最近通販でロデオボーイを買った、付き合うようになってから、彼女の手料理をよく食べるようになったので、腹周りが着になるようになったので、魔がさしてしまった。
まあ、三日前から使っていないが。
―
今日は全国的に日曜日である。
誰が何と言おうと、何の疑いの余地もなく、日曜日、もしくはサンデーである。
「ふぁ〜何作るかぁ〜」
自宅の自室で惰眠をむさぼっていた俺は、2階から降り、キッチンのドアを開く。
何か朝食を自分で作らねばならない、まあ、俺はそれを手間と思ったことはない。
一応オトメンもどきだから。
「ふにゃ〜ん!先輩!おはようございます!」
ドアを開いて現れたのは、音子であった。
栗色に輝くセミロングの髪がなびき、まさに猫のように大きな目である。
体は小さく、幼児体型である。
極楽追尾音子は俺が幼い頃に助けようとして、最終的に死んでしまった猫の、生まれ変わりである。
「なっ?!音子?」
台所で何かをグツグツと鍋を使い、トントンと包丁を使っていた音子は、俺の声に振り向くと、にぱっと笑いこちらに接近する。
「ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも、タ・イ・イ・ク・ス・ワ・リ?」
音子は、ニコッと笑って新妻台詞とウインクを決める。
だが。
俺に朝シャンする趣味はない。
椅子とテーブルがあるのに、わざわざキッチンで体育座りする趣味もない。
三択のようで、俺にはご飯しか選択肢は無かった。
「というか、その格好はなんなんだ?!見てるこっちが恥ずい!」
そう、最大の問題なのは実質一択の三択ではなく、今の音子の格好であった。
普段は学校のセーラー服の上にフードつきのジャンパーを着て、そのジャンパーに付いたフードで頭の猫耳を隠している。
だが、今音子が着ているそれは、「裸エプロン」であった。
もう着ている、というより、裸にただ一枚フリル付きの布がついているだけ、といった感じである。
「にゃははーん」
フードこそ被っているものの、元気よくステップを踏む音子の小さい体に、白いフリル付きのエプロンが追いついていなかった。
「え…‥でも、先輩の隠してる本にこういうシチュエーションが」
因みに彼女が見つけ出した隠している本はまだ、危険度ランクで言えば「B」のブツである。
流石の彼女も危険度ランク「A」のブツを見つけることは出来なかったようである。
流石、俺。
フリル部分をピロッと上げ、音子はかわいさアピールをしようとするが―
「ぶっ!つうか、やめなさい人の部屋を漁るのは!」
そんなアピールを拒絶するため、俺は目を閉じる。
音子の色々な所が見えてしまうのに、音子の奴はいつの間に露出狂になってしまったのだろうか。
「ふにゃん、ごめんなさい先輩!」
よしよし、分かってくれればいいんだ。
音子はしょぼくれたような声を出したため、俺は彼女を背にして目を開けた。
ちょうど廊下から入ってきたキッチンのドアの前であった。
「にゃーん制服は、確かリビングだ~よっと。」
その僕の前を、謎の歌を歌いながら音子が走っていく。
勿論、裸エプロンのまま、である。
「リビングには~先輩が買ったまま手付かずのォ~ロデオボーイがあるよォ~にゃ~ん!私を上に乗せて~サディスティックな欲望を満たそうとするよォ~多分!」
音子はまだ珍妙な歌を歌っている。
純情な俺は、鼻血を出してしまっていた。
出ている所が全く出ていない彼女の体に、俺は魅力を感じてしまうのだ。
最初からそうだったわけではない、彼女を好きになってから、そう思うようになったのだ。
ん?純情な高校生はいかがわしい本を読まないだろって?
言うなよ。
「でもォ~先輩はァ~優しいから大丈夫~、因みに~エロ本の隠し場所は~ベッドの下だよ~っと。ねこねこもがちょ!」
謎の歌の二番目の歌詞は、ちょっと反応に困るものであった。
だが、ベッドの下までならばまだ大丈夫だ。彼女が「A」ランクのブツを捜し当てることは無いであろう。
そう、思いたい。
何かが、俺の中で引っ掛かった―
何かが、やりっ放しな気がする。
キッチンの窓から、差し込む朝日。
オイル切れのライター、は無い。
俺は、キッチンの中を見回す。
卵焼きだ、包丁で綺麗に切り揃えてあった。さっき、音子が切っていたのはこれか。
「美味いな、音子」
卵焼きをぽりぽりと一切れ口に入れながら、再び周囲を見回す。
あと、漬物。
これはさすがにスーパーで買ったものだ。
マトリョーシカ、なぜかキッチンに置いてある。音子が拾ってきたものだ、よく洗ってあるが、中国製の安物のため、顔が怖い。
何か、忘れている気がする。
あ、鍋の火つけっぱだ。
中身は味噌汁だった。
危ねえ、危ねえ。
「おい音子!火のつけっぱは危ないぞ!!気をつけろ!!」
セーラー服を着て再びキッチンに来た音子は、俺の怒鳴り声に驚き、ピクンと耳をひくつかせ、目を閉じる。
「にゃっ!!ごっごめんなさい先輩!!私、先輩のことばかり考えてて…‥でも危ないですよね、ごめんなさい」
「気をつけろよ?本当に、火は危ないからな、大体、お前は普段から…‥」
俺はついつい、長々と説教をしてしまう。
「ふぇっ…‥」
あ、ヤバい。
音子は初めはうんうんと頷き、ごめんなさいとしっかり謝っていたが、今は頷き、目を閉じ、ふるふると振るえている。
このままでは、確実に音子が泣いてしまう。
「次から、気をつけろよ?俺のことは、四六時中考えてくれていいから」
俺は、背後から音子の小さな体を抱きしめた。
「ふにゃっ?!」
猫耳や髪の匂いを嗅ぎながら、俺は思い切り音子を抱きしめる。
するとシャンプーと石鹸、そして音子自身の肌の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
「俺だって四六時中、音子のこと考えてるんだぞ。はぁ…‥かわいいなぁ音子、俺のかわいい音子。」
そう呟くと、音子の全身からへなへなと力が抜け、こちらに体を傾けてくる。
「はぬっ、はうっ駄目ですよぅ先輩ぃ…‥とろけちゃう」
猫耳に僕の頬が触れ、ピクンと彼女の全身が動く。
ほうっ、と惚ける彼女の横顔を覗き、俺の理性は、完全に破壊された。
「とけちゃいなよ、音子」
そう言うと、俺は傾いていた音子の体をゆっくりと床にへたれこませた。
「らめぇ…‥しぇんぱいのいきじゅかいだけでぇ…‥もう、とろとろなにぉ…‥」
へたりこんだ音子の背後に密着しながら、耳元で、俺は囁く。
「感じやすいんだな、音子。かわいいだけじゃなくて、エッチなんだ」
猫の毛のようにサラサラとした髪を撫で、猫耳に吐息を吹きかける。
「ここ、感じやすいよなぁ。こうされると、たまらないだろ?」
すると、彼女は息を荒げながら、背後の俺の頭に手を伸ばした。
「いわにゃいでぇ…‥にぇこのしゅべてはしぇんぱいのものだからぁ…‥いじわぁるしにゃいでぇ…‥やしゃしゅくしてぇ…」
顔を真っ赤にさせた音子の吐息が、俺の顔面にかかる。
もう、限界であった。
「っつ、もう…‥可愛すぎんだよ!!」
俺は、思わず音子のセーラー服に手をかけた。
その瞬間であった――
「そりゃそうでしょう、私の妹ですもの」
白い猫が、テーブルの上から俺達を見ていた。
多分、最初からそこにいたのであろう、呆れたような目つきで欠伸をしていた。
「ににゃっ!?」
「うなっ?!義姉さん?!」
二人同時に飛び上がってさまった。
そこにいたのは、音子の姉である極楽追尾姉子である。
因みに、音子と違い、ごくごく普通の猫である。
この家には、数週間前からよく出入りしており、よくご飯なども一緒にとっている。
音子とは生まれてすぐに生き別れたため、音子もよく覚えてないらしいが、確かに音子が猫だった頃と同じような匂いがする。
因みに姉子義姉さんが喋れるのではなく、俺が特異体質のために彼女の言うことが分かるだけなのだ。
「おはよう二人とも。全く人間のくせに、朝から発情しまくってるわね、あんたら」
俺は正座し、義姉さんに頭を下げた。
「す、すみません義姉さん!!音子があんまりに可愛かったもんだから、ついつい魔がさしてしまい…‥寸止めのつもりだったんですよ?音子っていつもは元気なのに、急にしおらしくなるのがマジでなんか俺的にクるって感じで、こっちの我慢も限界なんだったりそうだったり、本当に。ちょっと触りたいな、的な?この前よりちょっと膨らみが膨らんだかな?的な視線で僕が彼女を見るわけないじゃないですか、それを触診で確かめて、あわよくば…‥なんてどこのエロゲの主人公なんですか俺は。んなワケないじゃないですか、いやぁ流石に全年齢対応的な?だからホント、なにもなくて、これは、ただただ俺がつまづいちまっただけでして、その後、彼女が口が乾燥して痛いからちょっと見て欲しいとか言ったもんですから凄まじく密着していたわけでして、密着することにより暖房機具を使わずとも互いの体温も温まるし、エコなわけで、CO2削減なわけで地球にとっても優しいわけでありますよ。変なことなど全くなくて、凄まじく健全な、ある意味不健全な営み的な?若者だからって皆がみんなそんなことばっかりしてるわけないじゃないですか、いやだなぁアハハ、本当に本当に何にもなくて、全くもって俺達は純粋な少年と少女の心をいつまでも忘れないボーイミーツガールなわけですよ!あ!因みにさっき俺が彼女に喋っていた言葉は全編グロンギ語なので日本語として捉えないで下さい、全く、完璧に、完全違いますので!本当に!!」
すっかり気が動転していた俺は凄まじく饒舌に、意味不明な釈明をしていた。
「にゃあ…‥先輩泣いてる女の子に弱いんですね、にゃるほど、遊歩道」
確かに以前も大泣きしたら優しくしてくれたなあ、などと呟きながらメモをとる音子。
やめてくれ。確かに俺は、しおらしいのには弱いが、お前がそれを武器にするのは困る。
と、そんなことより、今はこの正真正銘の本物の猫をどうにかするのが先決だ。
とりあえず、今の説明で納得してくれただろうか…
「別にぃ?私は止めないわよ?ただの猫が見てるだけなんだから、若者らしく『続き』しちゃえばいいんじゃないかしら?」
意地悪な笑いをもらしながら、義姉さんは俺達を見上げた。
さすがに猫だけあって、性もオープンだなあ(ひどい偏見)、あはは……俺達にどうしろと?
「…‥」
「ふにゃぁ…‥お、お姉ちゃんの前でなんて、流石に…‥」
とか言いながら、まんざらでもない様子で俺の袖を引っ張る音子。
さすがに、もう『続き』は出来そうになかった。
「義姉さん!!飯、食ってって下さい!!」
ニコッと全力で笑顔を作り、猫飯を用意する俺。
俺は、全力でお茶を濁す決意を固めた。
そんな俺の足元に、義姉さんが嬉しそうにスリスリと寄ってきた。
「ま、気が利くのね、そうするわ」
そんな俺と義姉さんを見ながら、音子はむくれた顔でご飯を用意していく。
「むむむぅ…‥私が作ったのにぃ」
ああ、やきもち焼いてもかわいいなあ音子は。
そんなこんなで、俺達の朝は始まっていった――
終わり。
よかったら感想下さい。
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