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僕が言語を学ぶ理由

作者: あおい

図書館の一番奥、窓からの心地よい風が吹き抜ける場所。それが僕のいつもの場所。風の音を聞きながら今日は僻地の民族の言語を学ぶ。すり減った歴史を感じる書物のページをめくる。目を通し分からないところは文脈から推測する。後で先生に確認しよう。来週の訪問日までには理解し話せるようにならないと。文字を目で追いわからないところをメモする。ひたすらそれの繰り返し。ずっと昔から繰り返してきたことだ。


「またやってんのか。たまには休むなり体を動かすなりしないと病気になるぞ」

聞き覚えのある声がした。顔を上げるのも面倒でただ「ああ」とだけ返した。広い図書館のこの場所に来る人はまずいない。ましてや声をかけてくるようなやつは幼馴染のアレクぐらいだ。

「今度はどこの言語を学んでるんだ?」

そう言って本を覗き込む。

「うへー、見たこともない文字だ。アルデス地域の民族の言語だって」

アレクは顔をしかめた。

「本当に言語を学ぶのが好きだな。そんな辺境地域のそれも民族の言語。なんでそんな熱心にやってるんだ?」

なんでかだって……、それは……。

僕が言葉に詰まっているとアレクがやれやれと言うようにため息をついた。

「まあ何をするかはお前の自由だし、とやかく言うつもりはないけどな。ずっと昔から時間があれば勉強ばっかで少し心配なんだよ。他の奴と一緒にいるところも見たことないし。昔好きだった剣術もいつからかぱったりやらなくなったし。そういえばお前と話してみたいって言う奴もいるみたいだからたまには息抜きしてみたらどうだ」

「嬉しいけど遠慮しておくよ」

顔を上げて僕は言った。

「そうか、……まあ、頑張れよ」

そう言うとアレクは出ていった。少し寂しそうにも見えた。

何故学ぶのか、ね。確かに他の人から見たら不思議なのだろう。幼い頃に偶然会った女の子。僕より少し年下に見えた子。親に無理やり連れて行かれたパーティーがつまらなくて内緒で探検していたらたまたま会った。親とはぐれてしまったのか肩を震わせて泣いていた。どうにかしてあげたくて色々聞いたが不安そうに泣くばかり。何か話していたが違う国から来たようで何を言っているのか分からなかった。どうしようもなくてその子を置いて人を呼びにいった。戻ってきたときにはもうその子は居なかった。あの子は無事に戻れたのだろうか。自分は何もしてあげられなかった。その無力感が今でも重く残っている。ただ、せめて彼女が話していた言葉を知りたい。その思いで今日までひたすら言語の勉強をしてきた。まだきっと知らない言語がたくさんある。周りはやりすぎというがまだまだ全然足りない。今日も明日も、いつかあの言葉がわかるその日まで。


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