第1袋 おばあちゃんと別れ
「おい……もう逝くんか…?」
「……おかしいですね…ぇ…絶対爺さんより…先に逝く……自信は、無かったんですよぉ……」
この人と暮らした72年間の思い出が詰まるこの和室で今まさに私は寿命を全うしようとしている
話す度に酸素が奪われて、その為に息をするのも苦しくなる…しかしそれも麻痺しているのか苦しいや痛いなどの感覚はどこにも無い。今はただ、失われる酸素よりも一言でも多く、私のしわくちゃな手を優しく握りしめるこの人に声を届けたい
「儂もそうだよ……婆さんのことを先に看取るなんて思いやせんかった」
「……ご飯は…しっかり食べ、てださ…お掃除もっ…寝る時は…雨戸を……っ、何かあったら……意地を張らず、にっ……あの子…たちに…………」
「わかっとる……っ、わかっとるからっ……!儂はっ」
あぁ……まだ言わなきゃいけないことがあるのに……何でこうも大事な人にかける言葉ほどどうでもいい事ばかりが先に口に出てしまうのだろう
それでも
薄れゆく視界の中
最後に見たのが
この人が私の手を強く握って涙で顔をぐちゃぐちゃにしたしわくちゃの笑顔で本当に良かった……。
思いついた時に書き留めてるものです
更新は遅めかと思います