上海到着
いざゆかん、上海!
俺はキャリーバックを片手に上海の地に降り立った。お一人様限定の旅行ツアーのため非常に気楽だ。恋人連れや家族連れがいない仲間達へ生暖かい視線を送りつつ、ツアーコンタクトさんについて行く。
今回はみんなでツアーを楽しむというわけではなく、ある程度の観光スポットを回ればその後丸一日自由という、非常に俺にとってありがたい旅行内容であった。さっそく自由行動となり、行きたかったカフェへと足を進める。
一人、上海の映えスポットであろうカフェに座っていれば突然誰かが俺の前の席に座った。急な相席に驚いていれば、人懐っこい犬のような少女が笑いながらこちらを見ている。そして俺と目が合うなり、彼女は口を開いた。
「オニーサン。日本人?」
美しい黒がテラスの風に吹かれて揺れる。
「は?」
「オニーサン。日本人やんな。アタシ日本人大好きやねん」
流暢な関西弁を使って上海ガールが笑う。俺は数秒瞬いて、やっと事態を理解した。
「そうだ。日本人。君、日本語上手だな」
よく海外に行く友人が行っていた。日本人好きの外人は多いと。だから日本人と知るなり、学んだ日本語を自慢しようと見知らぬ外人が近寄ってくるとも。
だから俺はまだ学生であるであろう彼女に警戒することなく笑いかける。
「え、ほんまに? 嬉しいわぁ。」
「イントネーションから違和感ねぇな。ばっちりだ」
おっけーと日本語英語で彼女に丸を向けると嬉しそうに顔を綻ばせた。甘いわんこ系フェイスはアイドルに向いていそうだ。と言うかよく見ればめちゃめちゃに少女は整った顔をしていた。
「……目の保養…」
「んぁ?オニーサン。どうかした?」
「あぁいや、なんでもない。」
こてん、と首を傾げるその姿もまた可愛らしい。上海にきて変な商売に引っかかるなよと友人代表[茴]からありがたいお言葉をいただいたが、それどころかわんこ系上海ガールと対面だ。これのどこか不運だ。幸運に違いない。
「なぁなぁ、オニーサン」
「どうした?」
「オニーサン、いい人っぽいから忠告しとくな。この辺危ないから男でも一人で歩くのは危険やで」
「えっ…そうなのか?」
「うん。特に最近はな」
「そうか…ここは日本とは違うからな。ありがとう」
「ええよ〜。じゃあ観光楽しんでな」
小さなリップ音を鳴らして彼女が投げキッスを送る。あまりに様になっているその姿に、胸を抑える。
「上海女児…意外にプレイガールだな…!」