隠した素顔
それじゃあ、お大事な!と明るい声で言った彼女はその場を去っていく。後ろ姿を黙って見守るのもシャクで、俺は足音を殺して二人の後を追う。
「……それで、ルヴィちゃん今度はなにをガバった?」
「フユカやないんやからガバッとらんわ。それより、どこまで話を聞いたんや」
「私の大事なものがあいつらに取られたってところ」
「ほーん。それはまた随分と曖昧な」
「そんな余裕こいてる時じゃないでしょ。話なら聞くしちゃんと言いな」
ファンに向けてサービスをする笑顔のフユカはそこにはいない。友人…いや、妹でも見るような、縋るような瞳をルヴィに向けて彼は煙草を咥えている。
「…ま。別になんとかなるやろ」
なんとも、本当に温度すら感じさせずに彼は薄ら笑いを浮かべた。
「……この組が潰れても良いと思ってる?」
「元からないようなもんや。そろそろ終わらせたってええやろ」
「ほんまに?」
「ほんまに」
全てをどうでもよく思っているのか彼女の瞳には色がない。遠目から見たってそれは感じられる。
「あの人はどうするの」
「どうするも何も、怪我を治して帰国してもらう。それ以外に何かあるか?」
「私、不思議なの。ルヴィが何でこのタイミングであの人に絡む必要があったのか」
「…見たんか。相変わらず陰湿やな」
「今はそんな口撃、屁でもないわ。それより早く答えて。あの人に何を重ねてるのかを、ね」
フユカの言葉に鈍くて大きな蹴音が響き渡った。それはルヴィが目の前の扉を蹴りたぐった音。
「うわっ…」
思わず声を出してしまい、口元を押さえるがそれは無駄であったらしい。
「…聞き耳立てるとは躾のなってない子犬ちゃんね」
「オニーサン?」
こちらを見やる二人に先ほどまでの影はない。光によって無理やり暗い色を隠している、そんな印象を受けて、数歩下がる。
「あ、…悪かった…! なぁ、トイレってどこだ!!腹が限界なんだっ・・・!」
そしてとっさに出てきた言葉に自分で言っておいてから赤面する。俺の言葉を聞いた二人はポカンと、口を開けてから数秒経って肩を震わせる。タイミングまで一緒とはとても仲がいいらしい。
「…っすまんか、ったな…」
「子犬ちゃんに…すごいこと言わせ、ちゃった…」
「笑うなら笑ってくれ!!。怒らないから!」
そう俺が伝えると二人はお腹を抱えて笑い出した。




