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ぎこちなさ

俺を救った少女は、警戒心を消すように優しい笑顔を向けて側に寄ってきた。


「元気になった?」

「…あぁ、それなりにはな」


 俺の返事に気にした様子もなく彼女はポケットから何かを取り出した。


「オニーサンが探しとるのってこれやね?」


 それは俺の愛用するスマホとパスポート。なんで、と声を漏らすと彼女はそれを手渡ししてくれる。


「ありがとう」

「通知すごい来とった」

「はは..、想像がつくよ」

「…オニーサン、警戒心なさすぎん?」


 少女は琥珀色の瞳を丸めてこちらを見やってそんなことを言う。俺もまた自身の大切なものを返されたことにより気持ちが緩んでいた、と顔を引き締めた。


「って、嘘やけどな。ここなら安全。巻き込んでもうてすまんかった」

「巻き込むって…やっぱり夢じゃなかったんだな」

「残念ながらね」


 彼女は物を渡すと俺から離れた窓際に腰を下ろした。人一人簡単に通すことのできるぐらい大きな窓は開いており、夜風が彼女の柔らかそうな髪をくすぐる。目を細めたまま薄く笑う少女を見て、手に持っていたスマホを向けてしまった。


 パシャリ、


 流れるように自然な形で写真を撮ってしまう。するとそれに気づいた少女はこちらを向いて笑った。


「どっかに売りつけるつもり?」

「あ、…すまん。あまりにも絵になりすぎてて、不快だったら消す」


 彼女は数秒考えて「別にいいわ」とだけ残した。


「オニーサンって怖いもの知らずよなぁ。」

「俺にだって怖いものあるぞ」

「例えば?」

「数での暴力、とか?」

「さっきやん」

「おかげさまでトラウマもんだ。」


 巻かれた包帯を撫でながら、真顔でいれば彼女は目を伏せる。別に責めているわけではないが責め立てられた子供のように背が曲がっている気がして、心なしか罪悪感を感じてしまう。


「でも、治療ありがとな。それと、俺をあそこから助けてくれて。…俺が殴られたのは君が原因らしいけど、それでも、俺を助けたのも君だから。」


 人として恥じることないように礼だけは伝えたかった。触れてしまえば消えて手の中から滑り落ちてしまいそうな雰囲気を持つ彼女に、俺は不器用ながらに笑ってやる。


「…な、るゔぃ」


 聞き馴染みのない名前を拙い日本語で伝えれば彼女はこちらを驚いたように見る。


「……オニーサン、よう変わっとるって言われるやろ」


 絞り出したようなその言葉は彼女の葛藤が伝わってきてぎこちなかった。

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