あの星座の向こう側で
「なろうラジオ大賞4」応募作品です。
純文学、ですかね。
「……あなた。まだ起きてますか?」
「……」
「ふふふ。もう寝ちゃいましたかね?
あなたは昔から寝るのが早くて、私よりあとに寝たことがなかったですね」
「……」
「……そういえば、あなたは昔から星が好きで、星座の話をいろいろしてくれましたね。
私はそれを聞くのが好きでした。
夏の縁側で、お祭りの最後の花火が終わったあと、星たちが瞬きだしてからが私たちの夏祭りの本番でしたね。私にはあなたの夏の大三角の話がどんな出店よりも楽しみでした」
「……」
「……あなたは、いつかあの星座の向こう側に行ってみたいと言ってましたね。
向こう側から見ても、やっぱりあの星座たちは変わらずそこにあるのかって。変わらず、やはり綺麗なのかって。よく、そう言ってましたよね」
「……」
「どうですか?
あちら側には行けましたか?
やっぱり、向こうでも星は綺麗ですか?
それとも、まだ向かっている途中ですか?」
「……」
「……あなたは言ってくれましたね。いつの日か、一緒に星座の向こう側に行こうと。
私は嬉しかったんですよ。いつも星ばかり見ていたあなたが、隣に私がいることを、私が隣にいていいことを認めてくれた気がして……」
「……」
「そのあと、あなたの方が先に出発することになるのが分かったとき、あなたはこうも言ってくれましたね。
『先に行くが、必ず向こう側で待ってる』
って」
「……」
「……ずいぶん、待たせちゃいましたね。
私にも、ようやく出発する時が来たようです。道中、少しは不安や寂しさもありますが、それでも私は安心しています。
約束してくれたから。
必ず、向こう側であなたが待っていてくれているって分かってるから。
私も、もうそちらに行きます。
すぐに、追いつきます、から……どうぞ、大好きな星を見上げて、私が行くのを、待っていて……ください、ね……」
仏壇に飾られた遺影には優しく微笑む、年老いた男性が写っていた。
そして彼女もまた、彼と同じように幸せそうな笑みを浮かべて、ゆっくりと、覚めることのない眠りについた。
星座の向こう側で待ってくれている、愛しの彼のもとへ。