「レジ袋はご入用ですか」「大丈夫です」
「レジ袋はご入用ですか?」
スーパー、コンビニ、本屋。およそ「店」と呼ばれるあらゆる施設で、頻繁に聞かれる問いである。もしレジ袋が必要であれば、
「はい、お願いします」
と言えば良い。こちらの返事にはそれほどバリエーションはないだろう。では、必要がなかったときは何と答えるだろうか。
「いいえ、要りません」
「結構です」
と答える人より
「大丈夫です」
と答える人が多いのではないか。
なぜ、「大丈夫」が断りの返事になるのか。それを考えてみるために、他に「大丈夫」という言葉を使うシチュエーションを考えてみよう。
「今日具合悪そうじゃない?」
「大丈夫、ちょっと昨日深夜までアニメ見てて寝不足なだけ」
「外雨すごいけど、明日遠足行けるのかな……」
「大丈夫、今日の夜には止む予報だよ」
どうやら「大丈夫」という言葉は、心配を打ち消すために使われる言葉らしい。元来「大丈夫」というのは「大きな『丈夫』」、すなわち壮健な男性のことを示す言葉であることからしても、「大丈夫」には「心配いらない」というニュアンスが多分に込められていると考えられる。
つまり、「大丈夫です」という返答は、「レジ袋はご入用ですか?」という質問を
「レジ袋がないと大変ではありませんか? 宜しければレジ袋をお付けしますよ?」
という気遣いだと解釈した上で、
「お気遣い頂きありがとうございます。ですが、他の手段を持ち合わせておりますので、ご心配には及びません」
と感謝を示し、相手を安心させつつ断る表現なのである。一単語にこれだけの意味を持たせ得るのが日本語の面白さではないだろうか。
とはいえ相手への配慮の深さの一方で、「大丈夫」という遠回し表現は大きな欠点も抱えている。
先日、7月になったばかりの頃のことである。本屋に買い物に行った際、レジで
「有料になってしまうのですが、レジ袋にお入れしますか?」
と訊かれた。鞄を持っていた筆者は、とっさに
「大丈夫」
と答え、そのまま受け取って退店したわけだが、店を出てからはたと気づいた。筆者としては
「(袋がなくてもそのまま持って帰れるから)大丈夫です」→「レジ袋は要りません」
というつもりで「大丈夫です」と答えたのだが、よく考えてみれば
「(有料でも)大丈夫です」→「レジ袋は要ります」
という意味でも取れてしまうではないか。顔色一つ変えず対応してくれた店員さん、実は内心戸惑っていたのかもしれない。
なんたる不親切な答え方をしてしまったのだろうと、目眩のする思いだった(目眩は屋外の明るさのせいかもしれないが)。
そもそも断りの返事に「大丈夫」を使うべきではないと主張する人もいる。しかし、筆者はそうは思わない。「大丈夫です」という言葉には、相手の配慮に対する敬意が込められているのだから。
しかし、その言葉遣いによって相手に伝わりにくくなった結果迷惑をかけるのであれば、それは本末転倒と言う他ない。一発で相手に伝わる言葉を選ぶというのも、相手に対する敬意の持ち方の一つである。
結局のところ、どのような言葉を使うべきかというのは、そのときどきのシチュエーションで大きく変わってくる。ハイコンテクストとローコンテクストにはそれぞれ良い点がある。どの返事が適切ということではなく、言葉とコンテクストに都度向き合い、適切な言葉を模索してみることが案外肝要なのではないかと、そんなことをふと思った。
あ、評価とか感想とか大丈夫ですよ!(ニッコリ)