お母さんと私2
「…お母さん、なんなのこいつら。」
「えーっと、だめよ攻撃したら。」
お母さんがエヘっと可愛らしく笑う。そんなものでは騙されない。騙されないぞ!くそぉ、攻撃できないではないか!!
お母さんと一緒に深い森の中に建てられた家に戻って一月。動物たちしか寄り付かない平和な家でお母さんとの2人っきりの生活を満喫していたのに。どうしてこの平和な家に物騒な鎧を着た兵士たちがいるのか。そしてお母さんの首元にナイフを突きつけているのか。お母さんが私のために作ってくれた夕食が無残にも床にぶちまけられているのか。少なってきた薪の調達のために、少しだけ家を離れている間に、訳の分からない男どもに家に踏み込まれてしまった。お母さんが可愛がっている狼のような獣が私のところまでやって来て、テレパシーで教えてくれたのだ。その体は血で真っ赤に染まっていて、そいつらに攻撃されたことが分かった。お母さんを守るために獣が戦ってくれたことも。
一瞬で全身の血が沸騰するような怒りが湧いてくる。全速力で家に戻ると、玄関の前に鎧を着た兵士たちがたむろっていた。お母さんと一緒にそだてていた花たちが踏み荒らされていて、男たちは何も気付かずにゲラゲラと笑っている。そのうちの1人が私の存在に気付いた。
「うわぁ、なんだあの化け物は!!っ、あれが話に聞いた化け物の子供だな。なんて醜い…。」
そんなことをどこの誰とも知らない人間に言われたって全く傷付かない。むしろ怒りがさらに湧いてくるだけだ。
「適当に痛めつけてやれば黙るだろう。どうせ子供なんだからっぎゃああああああ!!」
ヘラヘラと笑っていた男の懐に入り込み、右手でその腹に拳を叩き込む。身体を守るための鎧はあっという間に粉砕されて、男は森の方へと吹っ飛んでいった。
「なっ!」
先ほどまでヘラヘラと笑っていた男たちが剣を構え始める。そいつらが戦闘態勢に入る前に、全員腹に拳を叩きつけて気絶させてやった。本当は殺してやりたかったけれど、殺すとお母さんに怒られるのでできるだけしないようにしている。ムカつくから一発ずつ蹴りを入れた後、我に帰って急いで部屋へと入る。
「お母さん!」
「おぉっと、そこ止まれ。それ以上動いたらこの女がどうなるか分からないぞ?」
部屋に飛び込むと、お母さんは既に敵の手に囚われていた。首元にナイフを突きつけられた。すぐにでも全員殺してやりたかったが、お母さんに止められたので仕方がない。振り上げていた右手を下ろしてお母さんを捕らえている男を睨みつける。
「そうそう、それでいいんだよ。」
ニヤリと笑う男は大変に気持ち悪い。趣味の悪い黄金の鎧を身に纏った貴族風の男。くすんだ金髪は緩くウェーブがかかっていて、青色の瞳がまさしくと言う感じで気に入らない。腕が使えないんだったら、どういう力かよく分からないけれど、お腹にいるときにお母さんを助けた謎の力を使おうととしてみたが、それも気付いたお母さんに「だめよ」と止められてしまった。
どうしてお母さんがここまでこいつらを庇うような真似をするのかが分からない。どうしてという気持ちを込めてお母さんのことを見つめていると、お母さんがにっこりと笑った。
「どうやらあなたのお父さんが呼んでるみたいなの。自分で迎えに来れないなんて、本当にダメな人だわ。」
「はぁ?お父さん?」
お母さんの脳天気な声を聞いて、私は固まってしまったのだった。