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第六夜 僕、の爆睡中に大変なことがあったようです。

前夜:身体に付呪魔法をかけてルッソを撃退した、と思いきや昼間に路地裏に連れられフルボッコにされる。安全のため魔法の発動をきっていたのがアダになった。しかしなんとか貞操は守りきることができ、ルッソとも別れることとなった。

 ルッソを見送ったあと、太陽が昇る前に急いで部屋に戻った。部屋に着くなり一気に疲れが溢れ、着替えることもなくそのままベッドに沈んだ。なので寝ている間に何があったのかは知らない。後日プロントさんから聞いたところによると、昼間にも関わらず太陽が隠れ辺りが薄暗くなったそうだ。

 


 これは転生者、小村栄太が爆睡していたときの話である。


 その日太陽が出ているにも関わらず、空が帳に覆われたように暗くなった。月が太陽にかぶさる現象、皆既日食である。各民族の伝承において吉兆、または不吉のしるしとされていた。


「久しぶりだね。月の女王」

 

 燦然(さんぜん)と輝く巨大なドラゴンが女王の前にいる。鱗の一枚一枚が陽光のごとくあたりを照らす。太陽の化身とされ、昼とその活動を司る神燦煌龍(さんこうりゅう)である。


「吾が月に住まう夜の女神、月の女王である」


 月の化身であり夜と、夜とともに生きる者の守護神、月の女王は負けじと両手を腰に当てて大きく体をのけぞらせた。


「うん知ってるよ。前もそのくだり見たし。ホントそれ好きだね」


 燦煌龍の厳かな姿からはかけ離れた優しい声が響く。


「こうやって我々が会うのも久しぶりだけど。どう?元気にしてた?」

「うむ。息災であった。そなたも変わらぬようで何より」


 月の女王は両手を腰に当てたまま無表情に応える。


「うん。今回わざわざ来てもらった件なんだけどさ。単刀直入にきくよ?君なんかしたでしょ?」


 月の女王は思案を巡らす。


「はて? これといって思い当たらぬが」

「月の加護。転生者に与えたでしょ?」

「おお、そうじゃった」


 ようやく思い当たったように手をポンと打つ。


「うーん、よろしくないなぁ」


 燦煌龍は輝かんばかりの体から溜息をもらす。


「なにがよろしくない? 申してみよ」


 両者は対等の立場である。しかし、月の女王は無意識のうちに尊大な態度をとっていた。それに慣れているのか、燦煌龍は気にも留めない。


「君が地上のものに加護を与えるのは別に構わないんだけどさ、内容をよく考えてほしかったんだよね。前にも言ったでしょ、加護を与えるときは要相談って」

「別に吾の裁量で構うまい」

「いや、今回は特別なんだよ。君、同じ人物に二回加護を与えたでしょ? 一度目は転生者に君と似た姿と力を与えたこと。二度目は転生者の本棚を彼の運命とリンクさせたこと。彼、転生でも加護を受けてるから計三度も加護を受けてるよ」


 そのせいで、生前に小村栄太と呼ばれていた男は、月の女王の介入により珍妙な日々を過ごしている。


「あやつを誰が転生させたか知らぬが、吾とそなた以外の加護など大した効果ではあるまい」

「うーん? そうかなぁ? 百歩譲ってそれはいいとして。君の姿と力を与えたのは問題だよ。転生者とか転移者はとにかく無双したがるからね」


「無双して構わんではないか。エルフとドラゴンは絶滅の危機に瀕しておる。吾らの繁栄のため、また偉大さを世に知らしめるためにも悪くなかろう。それに吾の娯楽にもなる。そのため同じ姿と力を与えた。アバターというらしい。何も問題あるまい」


「大問題だよ。さっき彼、君と同じ『月の女王』を名乗っちゃったからね。限定つきだけど我々と同等の存在になっちゃったよ。300年前にも言ったけど、我々『偶像』は地上の信仰によってこのような姿で顕現している。このまま事態を放置したらどうなると思う?最悪の場合、その、なんだっけ?痘痕(あばた)の、『月の女王』が信仰を独り占めしてしまい、君を含め我々の存在が危ぶまれてしまう」


「まさか……」

「そう考えるものがいてもおかしくないってことさ」

「……」

「ことの重大さにようやく気付いてくれて嬉しいよ。幸い彼にその自覚はないけれど」


 エルフの守護神にして、夜を支配する絶対的な女王。それが地上にも誕生してしまったのだ。


「さらにその、なんだっけ? 面倒だから『痘痕(あばた)の女王』と呼ぶよ。それが誕生したことでにわかに騒がしくなってね。雲上神と海洋神の兄弟さ。彼らは昔から君にご執心だからね。たとえ君のまがい物でも今度こそ自分のものにしようとするよ」


 雲上神は女好きで有名だった。どれほど天を駆けても届かぬ月の美女に、並々ならぬ思いを寄せている。一方弟は雲上神に対抗意識を燃やしていた。


「間違いなく取り合いになるね」


 月の女王は完全に沈黙している。彼らははるか昔にも同じようなことをやらかしていた。


「我々十二神はかの地に直接関与しない、という約束で均衡を保ってきたはずだよ。しかしそれを君がうかつにも崩してしまった。残りの勢力も自身の存在がかかっているから黙ってはいないだろう」


 女王は眼前のドラゴンが立腹していることにようやく気が付いた。


「わ、吾は……吾は……そんなつもりじゃ……」

「あーほら泣かないの。悪気があってやったわけじゃないってのはわかってるから。君のその気まぐれな性質も天然なところも、我々『偶像』に与えられた宿業だ。そしてあの兄弟の性分もまた同じ」


 燦煌龍はまるで孫をあやすように優しくなだめる。


「ただここまでなら私も放っておいてよかったんだけどさ。二つ目の加護がもっと厄介でね。『痘痕の女王』名前なんて言ったっけ? 栄太くん? 彼の持つ本にドラゴンと戦う話があるんだよね。運命をリンクさせる前に確認した? その顔はしてないみたいだね」


 栄太の本棚にもエルフが高位のドラゴンと戦う本があった。


「私自身が今回の珍事件に巻き込まれているみたいなんだよ。こんな形で表舞台に引っ張り出されるなんて不本意なんだけどさ。とりあえず眷属のドラゴンには手を出すなとは言っているけど、彼らもこういうイベント大好きだからなぁ。なんかもう勝手に盛り上がっちゃってんだよ。事態を収拾するには私も直接地上に降りなきゃいけないようだ。もちろん君にも来てもらうからね」


「……つまり……つまり……どうなる?」


「月と太陽の化身がそろって再降臨するわけだからね。控えめに言って大混乱、大げさに言って終末だろうね。まぁ、できるだけ穏便に済ませたいから、彼には一肌脱いでもらおうよ。君の方からよろしく伝えておいて。あぁそれと、くれぐれも『痘痕の女王』を調子づかせるようなことはさせちゃダメだよ」


 かくして太陽と月の密会は閉じられた。



 雨天月 九日 晴れ?くもり?夜?


 お手伝いさんがケダモノの変たいさんだとわかって、なんだか気分がわるくなったのできのうはお店を休みました。一日部屋で閉じこもっていて、なにもすることがなくて、なんだかおとうさんにわるいなって気になったの。


 だから夕ごはんは私が作ろうって思ったの。ベーコンにソーセージに目玉焼き。

 

 そろそろお店が閉まるかなって思っておとうさんを呼びに行ったらおととい来たおっぱいの大きなエルフさんがいました。なんかしんけんな話をしていたから声をかけづらくって。そのままこっそりふたりを見ていました。

 

 そしたら、エルフの人がいきなりおとうさんの目の前でぬぎ出したの。そしたら、おとうさん近よってエルフの人の体をなんどもさわってたの!


 おとうさん! おかあさん死んじゃってまだ一年しかたってないよ! もうおかあさんのこと忘れちゃったの? おとうさんもケダモノの変たいさんなの?


 チコちゃん私泣きたい。


『アンナの日記』より


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