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初めましての方も、お久しぶりの方も楽しんで頂けたら幸いです。
右半身に強い衝撃の後、右下腹部に燃えるような痛みが広がった。
熱い
熱い
不思議と痛みはない。ただただ熱く苦しい。
男の汚い手が私の腕を掴んだ。男の黒い眼には恐怖で震えた自分の姿が映っていた。きっちり編んでいたお下げはあちこちから髪の毛が出てボサボサで、涙や鼻水で顔を汚していた。
「痛いか? 痛いよな。嗚呼、その苦痛で歪んだ顔……もっと見せろ!」
だらしなく口を歪ませ、ナイフを持ち替えコートを切り裂いた。薄手のコートはいとも簡単に裂け、中に着ていた白いブラウスも裂けてしまった。
外気に曝された皮膚を男はまじまじと見ると、乾いた唇を舐め欲情を露わにした。
ざらついた熱い掌が私の太ももを撫で、スカートの中へと伸びていく。
気持ちが悪い。
どうしてこんな目に合わなければならないの?
こんな男に犯されて死ぬなんて絶対に嫌。
死ぬべきなのは私ではなくてこの男であるはずだ________。
「触るな下衆が」
相変わらず刺された腹部は熱いが、先ほどとは違って不快な熱さではない。
確かめるように触れてみると己の血液でぬるつきはあるものの、痛みどころか切り口さえ消えてしまっていた。
いつの間にやら体の震えも止まり、恐怖も絶望もない。
ただあるのは怒りだけ。
「お、お前は……何なんだよ!!」
傷が消えていることに男も気づいたのか、得体のしれない目の前の少女に恐怖を抱いていた。
傷が消えただけではない、先ほど小鹿のように情けなく震えていた少女は今や捕食者のように鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
「私? お前が知る必要はない。なぜならお前はもう死ぬのだから」
男は逃げようと足に力を入れたが、動く前に少女の手が男の顔を掴んだ。
男は絶望の色を瞳に浮かべ、涙を浮かべている。先ほどの目の前の少女のように。
男の顔からは血の気がなく、青白さすら越して、土気色である。
情けなく小刻みに震え、鼻につく匂いに眉を寄せて下を見れば、どうやら恐怖のあまり失禁しているようであった。
男の顔を掴む右手に力を加えれば、あっけなく頭蓋骨が砕ける音が鳴り響いた。
手に残った肉片をゆっくりと舌にのせ、味わうように咀嚼した。
血の甘い匂いが鼻腔を擽り、柔らかい肉がほろほろと口の中で溶けていく。
嗚呼、なんて旨い。
何故今まで人間を殺して食べてこなかったのか。
今まで私は何を食べてきた?
私は今何を食べている?
なんで私はこんなものを美味しいと感じているの?
どうして人を殺したことに罪悪感も恐怖も感じていないの?
「私はなんなの!?」