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「アースルーリンドの騎士」別記『幼い頃』  作者: 天野音色
第七章『過去の幻影の大戦』
98/115

24 好転

すみません。

『闇の第二』倒して、皆が戻った時に


ローフィスの記述が無くて書き足しました。


それで無くても書き足し、書き足しでどんどん伸びて


やたら長いので


新しい章に移しました。


オーガスタスらが『闇の第二』に打ち勝った後の


ローフィス、エルベスの書き足しは


ブログに載っていません。


載せるつもりはありますが、場面がうんと遡ります。

 レイファスがぐら…!と身を揺らし、テテュスは必死で彼の腰をきつく抱く。

ふっ…と意識取り戻したようなレイファスは、きっ!と再び、目に見えぬ空間睨め付けていた。


テテュスはもう一度、しっか!とレイファスの胴を抱き直すと、足を跳ね上げ拍車かけ、馬の速度を上げた。



その空間で、オーガスタスがぎらり…!と光る光の剣かざし、『闇の第二』と戦っていた。

斬りつけても霧散し、再び黒い靄と成って隅に集まり、不気味な笑い声上げる。


レイファスは呪文唱えながら、それを聞いた。

“消耗しろ!使い果たせ!

そして…我にその身と心、再び明け渡せ…!”


レイファスはギリ…!と唇噛む。

が、隙突いてオーガスタスの周囲に張った光の結界を崩そうと襲う黒い靄に、瞬間顔、しかめる。

靄が襲い来、突き崩されまいと“気”を増幅する度、どっ…と疲労が増す。


が、ぐらつく度、背後にタナデルンタスの中に居るディンダーデン、そしてきつい表情のディングレー、更に空間からアイリスが、確かな援護として背を、支えてくれる。


…だから…!

負ける訳には行かない!

例え…『闇の第二』だろうが!


レイファスは睨め付け、オーガスタスが襲い来る黒い靄に斬りつける剣へと、光の呪文を送った。

びりびりびりびりびり…!

その剣が、雷のように周囲にいびつな形の光を放出する。

靄は

ぎゃっ!

と叫び、霧散した。


消耗しろ!と言うなら、こっちだって言ってやる!

“お前の力を全て削ぎ取ってやる!”



オーガスタスは振った剣の威力に一つ、頷くと、不気味に光る赤い瞳の一際濃い靄へと、剣振り被り突っ込んで行った。


ディンダーデンはタナデルンタスが、その時振るオーガスタスの剣に、ある呪文を乗せ込むのを感じた。


タナデルンタスが呪文を唱えながら、何か警告を自分に放ってる、気がした。


呪文が放たれた後、突然がくっ!と膝から力が抜ける。

途端、オーガスタスの剣が真っ青に光ると、一瞬で黒い靄は凍り付くように、その揺らぎを止めた。


“馬鹿な…!”

高い…高い位置から、声が聞こえた。


アイリスが背後から、同様呪文を、オーガスタスの剣に乗せ込む。

オーガスタスはそれを知ってるみたいに、赤い瞳の不気味な光が暗く濁る、その塊となった靄に、真っ直ぐ斬り込んで行った。


“なんだ!

あいつは…!”


上空飛来するワーキュラスは「夢の傀儡靴王」が、呻くのを聞いた。


“…もうとっくに…!

史実の人間は消え去っている筈だ!

史実の人間の…力等使えないはずなのに…どうしてあの男は今だ…!!!”


ワーキュラスはディンダーデンとぴったり…双子のように寄りそう、タナデルンタスを見た。


真剣な表情で、『闇の第二』を睨め付けていた。


ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっつ!

凄まじい声で、一気に『闇の第二』が居た空間…オーガスタスの心の中…は、明るい光照る場所へと変わった。


オーガスタスは荒い息吐き、髪をばさりと振って、顔を下げ、剣を下に肩で、息をしていた。


“…やったな…………”

アイリスの声が、遠くで聞こえた途端、テテュスはレイファスが気絶したように、ぐらり…とその身を再び馬上から滑り落とそうとするのを、抱き止めた。



体の痺れを感じた途端、『光の里』の本体へ、癒やしの力送られ痺れが解けるのを、オーガスタスは感じた。

ゆっくり…顔を、上げる。

横でディングレーが並んで座っていて、背に手を労るように当て、涙ぐんで見つめているのにそっと…微笑み返す。


目前ではディアヴォロスが、いつもの剣術で騎馬で突っ込む騎兵を、瞬速で斬り殺していた。

「まだ…動くな」

横で同様座り込むディンダーデンに言われ、オーガスタスは顔色の青い、疲労を垣間見せる青い流し目の、色男の顔を見つめ、頷いた。


両手に、それでも気抜くと…痺れが戻り来る。

激痛がひっきりなしに襲い…最期斬りつけたはいいが、力が戻らなかった。




シェイルは必死で、ローフィスの横顔を見守った。

その腕を掴み顔を伺い、縋るように。


ローフィスはもう口も聞けない様子で唇を噛みしめ…が、“里”のミラーレスの言葉が頭に響くのに頷くように顔揺らしそして…ゆっくり意識を、手放していった。


ぐらり…!と揺れるローフィスの身を抱き止め…シェイルは頭の中に響く、ミラーレスの言葉を聞いた。


“これ以上意識があると、本体の傷が開き血が噴き出します”


シェイルは涙浮かべ、その言葉に頷く。

そして誇らしげに…親友が生還するまで生命力を削ぎ取られながらもその場に踏み止まった、意志の強い愛おしい義兄の気絶する身を両腕で抱き包んだ。


言葉にならぬ労りと賞賛に…それでも気絶したローフィスが、微笑んだ気がして、より一層心を込めて、その体に両腕巻き付ける。


まだ憔悴してるエルベスが、シェイルとローフィスのそんな姿に心底ほっとして、顔を上げると背もたれにぐったりともたれ、“里”の癒やし手の言葉に頷く。


“貴方も…出来るだけお休みを”


『影』の攻撃は通常の怪我や疲労とまるで違った。

気力を根こそぎ削ぎ取られ、もし…気力が見えるものだとしたら…それが一気に吹き飛ばされ、跡形も無く剥ぎ取られるのに似てる。


“そんな事が………”


エルベスは心の中で呟きながら、“里”の癒やし手から放射される光の微粒子が自分を包み込む、じんわりと暖かく優しい感触にその身を任せ、意識を手放し行く。


“起こり得るんだ………”


薄れる意識の中夢のように、戦場の皆の姿が朧に浮かんだ。


剣振るアルファロイスはその髪同様、黄金の“気”に包まれ一際大きくそして、素晴らしく色鮮やかな採光放っていた。


“あれが…“気”………”


遠くで癒やし手の、声が聞こえる。

“王家の者らは…“気”の操り方を無意識に…知っています。

産まれた時から。

だから………”


“『影』に一番…抵抗力が強い………”


エルベスは白く朧で安らかな眠りに落ちて行きながら…そう呟いた。



 オーガスタスは何度も途切れそうな意識を必死で…繋ぎ止める。

まだ皆…戦場に居る。

今、気を失う訳には…。


“里”から、ミラーレスが悲しげに囁く。

“けど今!

『闇の第二』の傷を清めなければまた…。

あいつと同じ戦場に居る限り、容易に奴に入り込まれない為、清めないと…!”


オーガスタスはふっ…。と吐息吐く。


ローフィスがずっと…寄り添っていてくれた。

力をくれたのはレイファス。

だが…ローフィスは薄い…とても薄い意識で、それでも寄り添うその暖か味でその存在を確かに示し…そしてディアヴォロスは…ずっと、聞こえぬ心の声で、語りかけ続けてくれていた。


“私はここに居る…。

奴の幻影を心から跳ね退けろ!

それは真っ赤な嘘だと、奴に言ってやれ!

私はここに居る。

君の側に。

君を、護る為に…”


光で護られていながらそれでも…奴の見せた幻影が本物だと…認めれば立ち所に奴に心、奪われる。


ふっと“気”が途切れた時、苦痛と疲労…そして絶望が押し寄せる度、二人はその確かな存在で…心に灯る仄かなそれでも消えぬ光灯し、帰る場所はここだ。と示し続けてくれていた…。


オーガスタスは消え行く意識の中、ミラーレスに微かに頷いた。

“奴らにもうこれ以上…あんな思いを、させる訳には行かない………”


ミラーレスが、全開で微笑う幻がぱっ…と浮かぶ。

そして“里”の本体に、光が溢れ包まれた途端…オーガスタスはふっ…とその意識を、途切れさせた………。



ディンダーデンは幾度も意識が途切れそうになり…正気取り戻そうと頻りに首、横に振る。


“きついな………”

つぶやくと、タナデルンタスが囁く。

“いいから俺に、全てを明け渡せ”


言われ、見えないタナデルンタスに寄りかかるようにもたれかかる。

すると…どこから調達するのか、“光”の綺麗な渦が見え、自分に注がれていくのが感じられた。


“…どう…やった?”

体がじんわり…暖かい。


“お前の体は別にあってそこに光が注がれている。

やり用を知ってれば、それを無くした気力の補充に充てられる。

が、聞いても出来るもんじゃ無い。

コツが要る。

しかも常識捨てないと出来ない”


“出来る奴が居るのか?”

“お前らの時代の、王族は出来る”


ディンダーデンは、くくっ…と笑った。

“だから…奴ら、常識から著しく外れてるのか?

王族といや、常識外れでも仕方無い。

と世間に許されてるしな”

“…いいから休め”


がそれを聞いても尚、ディンダーデンはくっくっくっ…と心の中で愉快そうに笑い続けた。

“なら出来なくて当たり前か………。

俺でも…常識の範疇なんだな?”


嬉しそうに呟くディンダーデンに、がタナデルンタスは素早く付け足す。

“覚えればお前でも出来る”


ディンダーデンの、笑いが突然ピタリ!と止まる。

“つまり…俺は王族並みの、常識外れか?”


タナデルンタスはそれを聞いて唸る。

“褒めたんだぞ?”


が、ディンダーデンの不機嫌は戻らず、ぶすっ垂れてタナデルンタスが導いてくれる、光の渦が自分に注ぎ込まれてる間、ふてくされ切ってタナデルンタスにそっぽ向き続けた。



ディングレーはその声を聞く。

“本体からの回路で、ある程度は癒やせる。

が…この世界で負った傷はここで癒やされなければ、完全には癒えない………”


“里”の癒やし手の一人だろう…。


ディングレーは俯き、頷く。

がずきずきと、鼓動と共に痛むその刀傷が…本体に暖かい光注がれる度、薄れる……。


そう…確かに、傷は癒えない。

が、オーガスタスへの援護で放射した“気”は、“里”からの光で補える…。


ディングレーは一心に“里”の本体、自分の身を包む光に“気”を向け、それを自分に取り込む作業を続けた。


失った、膨大な気力を取り戻す為に………。




スフォルツァは横のラフォーレンが、押し寄せる多勢の敵に、鬼神のように剣振る姿見つめた。

ディアヴォロス避け、弱そうな自分に押し寄せるのにも腹立てていたが、理不尽な事には更に猛烈に腹を立て、そんな時は半端なく強い。

自分ですら、普段は柔軟性の塊の、このとぼけた性格の年下の男を、理不尽して怒らせないよう気遣う程だ。


スフォルツァは再び遠慮無く剣振るった。

心の…どこかで信じられた。

気に掛けてくれる全ての人が、自分達の危機を、助けてくれてる。


そして、ふっ…と振り向く、その背後の向こうでは、彼らの主。

右将軍アルファロイスが剣振っていた。


いつもの…戦場だ。

掠り傷程度は負うだろう。

運が悪ければ、もう少し深い傷を。


けれど…負ける気が、しなかった。

アルファロイスと共に立つ、戦場では。


スフォルツァは再び斬り込んで来る敵に飛び上がり様の一刀を叩きつけ、敵騎士を馬上から斬り落とした。





 ウェラハスは助けに成れず、イラ立つが相手は古代最強と謳われる(ヤグスティン)

群れる事好まず、組織立ち上げた『闇の帝王』に負け、膝折るしか術が無かった。

数百の魔相手では流石古代最強の魔とて、戦いあぐねたからだ。


…少し、気を抜くだけで魔の根は体に侵入し、喰らい尽くそうと細かな根身の内に張り巡らせようとする。


咄嗟、アースラフテスが重なる。

そして…金の光で発光した。


かっっっっっっ!

その瞬間、ウェラハスもアースラフテスも、アイリス伺う天上の亀裂が不動なのを、見た。


気づくと、周囲はすっかり空間出来、根は止まってる。

アースラフテスはにっこりと微笑う。


“私の光は、影響を与えない!

どうかここを抜け、疲労した者達の手当てを!”


ウェラハスはその理由が、朧に解った。

自分達、神聖騎士の“気”は、この結界では強すぎるのだと………。


一つ、頷くと瞬時にその身を、捕らわれていた場より消し去った。




かっ!

荒っぽい赤金の光と共に、神聖神殿隊随一の使い手アラッドルツェンが、赤っぽい髪散らし、ダンザインの目前に現れる。


舞い来る蛾を、かっ!と赤く光って焼き飛ばす。

次に青味帯びた光と共に、やはり神聖神殿隊の使い手レナニスが、蜘蛛の糸を一瞬で氷らせ、怒鳴る。

「隠れてないで、出て来い!」


そして白い光纏う神聖神殿隊の使い手、レナニスとは双子のロドナスが、ダンザインを捕らえる樹液の粘液を、一瞬で固体へと変容させる。


樹液はぱらぱらと剥がれるように落ち、ダンザインは一瞬でその場から、消えた。




ヤグスティンは今や黄金のアースラフテス見、地響く声音で唸る。

“…おのれよくも…!”

が、アースラフテスを睨む瞬間、光マトモに浴び、その顔しかめる。


アースラフテスが光浴びせる度、ヤグスティンに従えるように寄り添っていた、女の妄執が消え去って行く。

“おのれ我から力奪うか!”

が、アースラフテスは問答無用で、二度とヤグスティンが根を張り巡らせないよう、彼の取り込んだ幾多の女の妄執を、光ブツけ消し去って行った。


次第に…本体、ヤグスティンの透けた姿が浮かび上がる。

アースラフテスはその、顔立ちの良い、男ぶりのいい姿に笑う。

「…利口だな…。

唯でさえ…女は嫉妬深いもの…。

真剣に恋すれば、不安も増す。

その心につけ込み、耳に不貞を囁きかければ…幾らでも女は妄執の塊と化す…。

それで…これ程の力、蓄えたか!」


かっ!!!


アースラフテスの光で再び…女達の妄執が離れ行く。

アースラフテスはその狭間、見た…。

妄執と化した女が化け物と成って…愛する男に絡みつき、その生気を吸い取りヤグスティンへ捧げる様を…。


ヤグスティンは囁くだけ…。

後は女の嫉妬心を煽り、愛する男を、狩らせればいい………。


女達の呟きがその空間に細く哀れに響き渡る。


“よりによってあの女と…!

あの女と関係しただなんて!


信じていたのに…。

貴方をずっと、信じていたのに…!"


聞きもしなかった。

貴方の言葉を


“何を馬鹿な事言ってるんだ?"


それは…真実隠す、言い訳だと思い込んで…。

“こんなに愛し、尽くしてる私に、謀りを言うなんて!”


貴方は一言も言えなかった。

私の妄執が…どうやったら嘘と

解らせるられるか手段尽きて………。


そう…あの時この魔が私に寄り添って…。

囁き続けたのよ。

男が嘘を付いていると…。



去って行ったのは…私のせいね…。

どの女が貴方に微笑みかけても私は嫉妬の鬼になった…。


“私を、捨てるの?

他に好きな女が出来たから…?!"


今なら解る…貴方の愛が…。

けれど貴方を信じられなくなった私に貴方は…疲れ果てたのね………。


貴方の向けた背を、覚えてる。

いつ迄もいつ迄も…心に刻み込まれ消えない…。


だから魔に囁かれた時、貴方を殺したのよ。

もう一度だけ会って。

そして飲み物に毒を混ぜて。


そうすれば貴方は誰の物にも

成りはしないと…。



どうして…!

愛する貴方より、魔物の言葉を信じたのかしら?

けれどねじ伏せられるように心に重くのし掛かる重圧。


愛し合った楽しい日々で無く…。

貴方に裏切られ、哀しい記憶しか心に浮かばない日々…。


とても…耐えられなかった。

どうしても…貴方を糾弾せずにはいられなくなっていた…。


些細な事だった。

今考えればどれも。

愛していたら簡単に乗り越えられる程度の…。


けれど魔はそれを拡大し…うんとうんと拡大し

貴方と私の間には、それしかなかったように…私に思わせたのよ………。


幾多の女達の嘆きが空に満ちる。

ちくん…ちくん…とアースラフテスに礼告げながら…あれ程愛した男を自らの手で殺す、後悔に涙しながら…女達は離れ行く………。


アースラフテスはその様に怒り、心震わせ魂から、発光する。


かっっっっ!


ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


ヤグスティンが絶叫する。

必死に…必死に生け贄として捕らえた、女達が生気吸い取り殺した男達の虚ろな魂が、解放に満ち、解き離れるのを必死で…両手で掻き集め、再び捕らえようと両腕振り回す。


が、魂はすり抜け、どんどん空へと上り行く。

女達は愛する相手見つけ、謝罪と後悔の涙零し、どんどん透けて行く。


ある男はその謝罪受け入れ…二人で一つの光と成って空へ。

詫びを聞けぬ男は一人で空へ…。

残された女は涙零し続け…細い…薄い光と成って、やはり空へ………。

次々と解き放たれていく。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!

力が!力が!!!」


ヤグスティンが、気狂いのように叫ぶ、その姿にアースラフテスは笑う。

「…自身の身を、心配しろ…」


そして…アースラフテスはヤグスティンが、闇に下る、原因と成る女を見つける。


最期の…けれど幻影の、女だった………。

「(光の民』か………)」


彼女はヤグスティンで無く、無口で…容姿も、ヤグスティンが『貧弱で地味』と見下している男を、愛していた。


その男は幾度もヤグスティンと自分を並べ比べ、彼女から身を引こうとしていた。

だが彼女はそんな男に、自分の愛しているのはヤグスティンで無く貴方だと言い続けた…。


アースラフテスの目にその男は、信頼出来る好感に包まれ、容姿でも決して劣ってなんかいないと映った。


が、ヤグスティンは調子の良い言葉を周囲の女達に投げかけ、女を楽しませる事の出来る男として、大層人気があった。


「(それを…自惚れとしたか…愚かな)」


ヤグスティンは彼女が自分に靡かぬ事に腹を立てていた。

が、彼女は実力者の娘。


その女を振り向かせられぬ。と友に嘲笑われ…丁度、反乱を企む叔父の勢力に組みしたものの反乱軍は惨敗。


そして反乱者達は『光の国』追われ、ヤグスティンはアースルーリンドに降り立つ…。


アースルーリンドでも変わらず女達を利用し…膨大な力得、『影』の中の地位を確立した………。


どこ迄も…!


アースラフテスは子細を読み取ると、自分勝手で真の恋心、愛を理解せぬその魔と成った男に、思いっ切りの光ぶつけた。


かっっっっ!


アースラフテスから、一直線の強い光が、本体透けて現した、ヤグスティンに向かい真っ直ぐ伸びて行く。


ヤグスティンは必死で捕らえた男の魂、掻き集めようと両腕空に振っていて…振り向く。

叫ぶ…間も無かった。

真っ白な光はヤグスティンを覆い尽くし、光柱と成って天と地を貫き…そして…やがてゆっくりと光は消え…そこには…真っ黒な醜い…小さな、蛆虫が一匹、蠢いていた。


アースラフテスはそっ…とその前に立つと、足持ち上げ恐怖に(おのの)く、蛆虫を踏み潰した。

小さな…小さな悲鳴が聞こえ、再びヤグスティンの、光に透けた体が不安げに、周囲を見回す。


“どこだ…?ここは………”

アースラフテスは肩竦めた。

透けた涙にくれる女達は再びヤグスティンを取り巻き、ヤグスティンは彼女達に一瞬微笑んだが、彼女達の無言の敵意に一瞬で青冷める。


ざっ…と足元に穴が開き、ヤグスティンは女達に引きずられ、その穴に、落ちて行った。


アースラフテスは一つ、吐息吐く。

「女達の気が済めば…天に昇れる。

…多分」


ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁ!


底からヤグスティンの悲鳴が聞こえた。

が、アースラフテスは天国とも地獄とも付かぬ、天に昇り行けぬ女達の作り出した空間に閉じ込められたヤグスティンを、救い出す事をしなかった。




ムストレスはその様子に上空を睨む。


「…糞!

メーダフォーテ!あいつらは誰だ!

神聖騎士よりどうして強い…!」


ムストレスの言葉に、メーダフォーテは上空に広がる「夢の傀儡靴王」を見上げる。

「…神聖神殿隊の奴らは暴れさせるのか?!」


そして「夢の傀儡靴王」から苦悶の呻きを聞き、メーダフォーテはムストレスに説明を怒鳴る。


「神聖神殿隊の威力は“影”の者らに絶大だが、「夢の傀儡靴王」の結界には力を及ぼさない…!


当然強いのは、臣下として共にこの地訪れた神聖神殿隊らよりその主、『光の王』の血継ぐ神聖騎士らだ!


が、魔共が神聖騎士を掴まえていられたのは…!

神聖騎士らが結界崩壊を恐れ、使う力を加減していたからだ…!」


メーダフォーテがムストレスに叫ぶ間にもう既に、二体の魔が、現れた神聖神殿隊の強者らに塵に変えられていた。


ムストレスは頭の中で浮かび上がる魔を次々に呼び出しては、敵騎士、神聖神殿隊の荒っぽい男らの元へ送り続けた。




 広大な地面盛り上がる地崩れた戦場で、一団に騎馬兵が群れ襲う様を目にし、テテュスは背後振り向き怒鳴る。

「敵は目前!

ディスダスアフダス(「左の王家」)の力、見せてやろうぞ!」


背後、黒髪一族の猛者達は、大声で唸り、咆吼上げながら襲い来る騎馬兵らに突っ込み行く!


ディアヴォロスが…ギデオン、ファントレイユ、ローランデ…。

そしてギュンター、スフォルツァ、ラフォーレン迄もが、その力強い援軍にほっ…と息付く。


テテュスはレイファスの気絶した体抱えながら、剣抜いて振り上げ、ダキュアフィロスの軍勢を鼓舞し続け、「左の王家」の男達はその激しい気性そのままに、浮き足立つ敵騎兵らへと、突っ込んで行った。



ほっ…と剣引くギュンターは背後に、ダンザインとウェラハスが空間より姿現し、オーガスタス、ディンダーデン、ディングレー、気絶したゼイブンへと、癒やしの光放射するのを見た。


オーガスタスが眉を、くっ…としかめ…そして、ゆっくりと顔、上げる。

ディアヴォロスが少し悲しげな瞳向け、高い背屈め、自分を見つめていた。


皆、オーガスタスの瞳に涙浮かびそのまま、頬へ伝い行くのを見た。


幻じゃない…。

自分を背に庇う主…。

光そのものの………。


ディアヴォロスは微笑浮かべ、涙頬に伝わせる、オーガスタスを見つめ、口開く。

「…遅く…なった」


オーガスタスは感激で一瞬顔を、下げ…そして上げると、返した。

「いいや…間に合った」




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