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「アースルーリンドの騎士」別記『幼い頃』  作者: 天野音色
第七章『過去の幻影の大戦』
83/115

9 戦闘開始

「…………………っ!」


悲鳴のような、鋭い吐息が頭の中を駆け抜け、ギュンター、オーガスタス…ローランデもそして、馬を駆るローフィスですら、それに引きつけられて“気”を向ける。


直ぐ、ディングレーの野太い声が響く。

「駄目だ!

シェーンデューンが進軍を始めた!

怒濤の如く城に向かってる!」


ディングレーは先頭で突進する馬に、必死で馬を駆って追いつこうとした。

シェーンデューンの身は自分より軽い。

銀の真っ直ぐな髪を靡かせ、疾風のように先頭を掛け抜けて行く。


直ぐ、頭の中にローフィスの叫びが入る。

「シェイルを頼む!」


「言われなくても…!」

ディングレーは呟き、くっ!と歯噛みしながら、拍車を数度入れて馬を急かし、必死でシェーンデューンの横を目指し追い縋る。


黒髪を散らし飛ぶ勢いの馬に跨り、並び走るシェーンデューンの真横に着くと横に振り向く。


銀の真っ直ぐな髪を真後ろに流し、シェーンデューンの、固い決意を見せる整った横顔。

その中に透けて見えるシェイルは泣き出しそうに見えた。


「いい…!

解ってる!

暫くは奴に任せろ!

戦う気満々だ!」


シェイルはその声に、こっくり。と頷く。


晴天の青空の中、なだらかな緑成す丘を銀の髪の一族が群れを成し、一斉に駆け下りて行く。


ディングレーは激しく揺れる馬上から、シェーンデューン…シェイルの横に付いたまま、目前にどんどんと大きくなる敵の巨城レアル城を見つめた。


城庭の上空に奇怪な黒い翼の異形が舞い飛ぶ姿が、米粒のように浮かぶ。


が数匹が上空を旋回したかと思うと、城壁目がけ押し寄せる軍勢へとその向きを一斉に変え、向かい来る。


ディングレーはつい内心、唸った。

背後の将軍が叫ぶ。


「来るぞ!

弓を構えろ!」


ディングレーが顔を振って振り向くと、後続馬上の何人かは、背に担いだ弓を引き上げ、手綱を放し両手に、構え持つ。


留め金を外すと、反動で矢が飛び出す弓で、その矢はごつく、大きく太かった。


『対、飛び(イレギュレダ)用か…』

ディングレーは内心呟く。


間もなく奇怪な声を上げ飛び(イレギュレダ)が飛来して来る。

射手達は一斉に、上空から飛び来る魔に向け、そのごつい弓を放つ。


ひらりとコウモリの羽のような不気味な翼を振って狙う矢を外し、一匹が一人の射手に、上空から襲いかかった。


ディングレーは斜め後ろの馬上の人物を襲う、飛び(イレギュレダ)の大きさと奇怪な異形の不気味さに、畏怖を覚えずにはいられなかった。


が、気づいた別の射手が弓を構え狙いを付け、鋭い鈎爪の足で掴もうと開いた所に発射した。


ギャキィィィィィィーーーー!


奇怪な雄叫びを発しながら、飛び(イレギュレダ)は蹌踉めき、深々と突き刺さる矢傷から真っ赤な血を滴らせ、蛇行して飛び去る。


ギィー!

キィィィィィーーーーー!


次々に別の射手が弓を構え射る様に、とうとう数匹の飛び(イレギュレダ)は高い上空から軍勢を眺め、数度旋回した後、レアル城へと逃げ去った。


シェーンデューンが振り向く。

「速度を落とすな!

一気に攻めるぞ!」


腹の底に響くその気合いの入った迫力の若き長の咆哮に、兵は一斉に呼応する。


ぅおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!


ディングレーはその長の、統率力に呆れた。


体格とてそれ程いい訳でも無い。

年若く、まだ青年になりきってもいない。


けれど彼は、生粋の戦士だった。

誰よりも果敢で勇猛。


背後の騎兵達が気迫をいや増し、年若い長に続け!と奮い立つのを、ディングレーはひしひしと感じ、遅れまいと拍車を数度掛ける。


その凄まじい勇者どもの怒濤の進軍に、背を強く、押されたように。

取り巻く熱気に、飲み込まれたように。


自らの戦闘意欲を鼓舞し手綱を強く、握り締めて。



城門を目にすると、つい剣の柄を探り、握り持つ手に力が籠もる。

門が、開く。


一斉に、敵の軍勢が繰り出し、狂凶大猿(エンドス)の姿がその中に混じって見えた。

一際大きなその姿。

大きな黒熊と見紛う風体。


が、顔は人間のそれ。

目は釣り上がり真っ赤で、口は耳元迄裂けてその大きな口から、閉じても尚突き出す巨大な二本の牙。


ちゃっ!

ディングレーの背後の男達が次々に剣を抜く。


手綱を緩める、様子も無い。

戦に慣れたディングレーでさえ、ついごくりと唾を、飲み込んだ。


異形の数多く混じる、敵の軍勢を目にし、異常に奮い立つ騎兵達の気迫に包まれ。



「敵と交わる!」


ディングレーの雄叫びに、ギュンターは背後に振り向き、怒鳴る。

「急げ!!!」


が一騎、真っ直ぐの栗毛の端正な騎士が、背後から駆け来て叫ぶ。

「今交戦しては、ラスキュラス殿らが間に合いません!」


ギュンターはその名を必死でアーマラスの記憶の中から探る。

がそれが、城に訪れた『光の民』の名だと、突然閃く。


頭の中で大声で叫ぶ。

「誰か教えてくれ!

『光の民』が間に合わないとは、どう言う事か!」


ギュンターの叫びに直ぐ様アイリスの声が響く。

「間に合わない…?!

…『光の民』の軍勢は、一緒に進軍していないのか?!」


ギュンターは速度を落とさぬまま、周囲を見回す。

直ぐオーガスタスが答える。


「見あたらない!」



その声を聞いて、アイリスは横のディンダーデンに振り向く。

「…シェイル…銀髪の一族の長の出陣は、歴史より早いのか?!」


ディンダーデンは呻く。

「…銀髪の一族が出陣しようとした時、使者が駆け込む筈だ。

それで遅れる」


それが聞こえたのか、直ぐシェイルの悲鳴のような声が響く。

「使者なんて、来なかった!」


アイリスが直ぐ様頭の中で皆に怒鳴る。

「史実と違う!」


「!」

「!」

ギュンターとオーガスタスが顔を見合わせ、ディングレーとシェイルもお互いを見た。


が敵は目前。

「そのまま行けシェイル!

シェーンデューンが操ってる限り、大丈夫だ!」


併走するディングレーの叫びにシェイルが頷く間も無く、シェーンデューンは馬から飛び降り、剣を振り上げ敵の戦陣に斬り込む。


「ぅおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


シェーンデューンの雄叫びが合図のように、一斉に銀髪の一族が馬を飛び降り敵と剣を振り激突する。


ディングレーも思わずシェーンデューンと同時に馬を飛び降り様剣を、振り上げる。


いつもより位置が高い。

入ってるオースルーンは自分より背が高く腕も長いのだと、瞬時に気づく。


がしっ!


頭上から大きく振り下ろした途端、血飛沫(ちしぶき)を顔に浴びる。

敵は倒れ、血まみれで事切れていた。


オースルーンは黒髪を散らして直ぐ背後に振り向くと、剣を振り下ろす。

腰の入った重く激しい一撃。


ざしっ!

音と共に敵は左腕から胸に掛けて深い傷を負って蹌踉めく。


傷を庇って背を向けた敵に無造作に剣を突き刺し、引き抜く。

直ぐ背後から、降って来る剣に剣を振り上げ、合わせ止める。

横から剣を突き出し、寄って来る敵を蹴りつける。


オースルーンの足は長く、軍勢の中でも上背だ。

肩幅も広く、戦い慣れ勇士だった。


つい、シェーンデューンを見やる。

銀の真っ直ぐな髪を流し、跳ね飛び剣を振り、直ぐ身を返し斬りかかる敵を切り捨てる。


身を屈め次の敵へと突っ込み、これを一瞬の内に切り捨てる。

彼が腕を振り切ると同時に、敵の血飛沫が飛び散る。


剣先を真っ赤に染め滴る血を空に散らしながら、次の敵をやはり一瞬の内に切り捨てた。


銀の、閃光のような俊敏さ。

丸で剣と、一体のようだった。


シェーンデューンが駆け抜けた後、血に染まる屍が倒れ行く。


がしっ!

ディングレーはまた、オースルーンが敵を殺す様を感じた。

確かな、手応えが剣を通して柄を握る手に伝わる。


振り向き様ディングレーはシェーンデューンが、毛むくじゃらの長く大きな両腕を振り鈎爪で仲間を次々と殺し行く狂凶大猿(エンドス)に向かい、一直線に駆け行くのを見た。


「シェイル!」

思わず叫び、敵を斬り殺しながらその後を追う。



「史実と違う?!」

ギュンターは頭の中で怒鳴り、斜め横に追い縋り、返答を待つ騎士の、必死な瞳を見た。


「頼む!教えてくれ!

俺が『光の民』を待っていたら銀髪の一族はどうなる?!」


アイリスがディンダーデンに振り向く。

ディンダーデンは言葉を一瞬詰まらせ、が言った。


「…ほぼ壊滅状態だろうな。

城門の外で戦う敵は殺れるだろう。

が門の中に続々と敵が集まる。

異形の数も増える。


数で負けるのは、時間の問題だ」

「急げ!」


ギュンターは瞬時に後続の兵達に怒鳴る。

「ラスキュラス殿を、待たないんですか!」


押し止める強さで、騎士が怒鳴る。

ギュンターはその騎士の顔を、見た。


必死で、(あるじ)の勇み足を制しようと顔を、歪めている。

がギュンターは怒鳴った。


「銀髪の一族を見捨てる訳にいかない!」

「しかし使者が…!

ラスキュラス殿等の兵が集まり来る迄待つようにと、伝言が飛んだ筈です!」


オーガスタスが振り向き、怒鳴る。

「来てない!」

ギュンターは尚も怒鳴る。

「急げ!銀髪の一族が全滅する!」


騎士は目を大きく見開いた。


横に馬が駆け来、跨るアラステス(アシュアーク)が怒鳴る。

「やっと話が通じるようだな!

俺は先に行く!」


鮮やかな金の髪を散らし、アラステスが突風の如く隊列を抜け出し、先頭へと躍り出る。

アラステスの、配下の若者数人も解き放たれたように速度を上げ、後に続く。


「アシュアーク!」

叫び、ギュンターは拍車を掛け、その背を追う。


配下の若者達の馬の尻を追い、間を抜けて先頭のアラステス。

アシュアークの横に並び付く。


が振り向くアシュアークは眉を下げ、一瞬ギュンターを、見つめ直ぐ顔を前へと戻した。


「糞!

あいつてんで、操れないようだ!」

ギュンターは追い抜こうとするアラステスに、必死で馬を急かして併走し怒鳴る。


「アシュアーク!

頭の中に気を向けろ!

会話出来る!」


怒鳴るが、アシュアークは泣きそうな表情で横に並び走るギュンターを見、呻く。


「………ぅっ…!」

ギュンターが首を振り、訪ねる。

「どうした?

頭の中だ!

口を使わず会話出来る!」


アシュアークは口を閉じ歯を噛みしめていた。

「どうやって!

口を開ければ舌を噛む!」


ギュンターは微笑った。

「ちゃんと頭の中で、話せたじゃないか!」

「?」


アシュアークはまた伺うように顔を、見る。

なのでギュンターは口を使って怒鳴った。


「今のお前の言葉は俺に、聞こえてるぞ!」

「どうして聞こえる…?

…じゃ今のも、聞こえてる?」


口を閉じたまま頭の中に響くアシュアークの声に、ギュンターは微笑って大きく、首を縦に振った。


「俺の声が、聞こえるか?」

今度、ギュンターは口を閉じたまま、アシュアークの頭の中に、話しかけた。


アシュアークは目をまん丸にした。

「今、口を開けないのにしゃべった?」


アシュアークの口は相変わらず、閉じていた。

ギュンターは微笑って大きく、頷いた。


「だから、口を使わず会話が出来ると言ったろう?」

アシュアークは再びギュンターの声が頭の中で響くのに、目を見開き驚いた。


「俺の声も、聞こえるか?」

アシュアークが背後に振り向く。

英雄サナンキュラスの中にオーガスタスを見つけ、アシュアークはこくん!と頷いた。


「他の奴らの声も、聞こえるぞ!

ディンダーデン!

何か言ってやれ!」


ギュンターの声に、アイリスが横に振り向くと、ディンダーデンは吐息吐いた。

「…腰は?

まだ抜けてるか?」


瞬時にアシュアークの返答。

「抜けてる間があるか!

こいつ、剣を振りたくてうずうずしてるのに!


じゃじゃ馬慣らしてるみたいだ!」


「じゃ俺の苦労も、解るだろう?」


途端、アシュアークはきょろきょろと周囲を、見回した。

「…今の声って…スフォルツァ?!

どこに居るの?!」


「俺も居るぞ!」

「ラフォーレン!

こいつ、何とかしてくれ!

俺なのに、俺の言う事全然聞かない!」


スフォルツァの、吐息混じりの声がした。

「皆同じだ。

時が経てばだんだん動かせるように成る」


「本当に?!

ギュンターが目の前に居るのに!

全然抱きつけない!


俺はギュンターを見たら誰よりも先に抱きつく。って、決めてるんだ!

競争率が高いから、とにかく目にした途端先に抱きつかないと、別の奴に取られる!


なのに…どうして今日は出来ない?!

夢の中だからか?

でもこんな夢は、全然変だ!」


オーガスタスが唸った。

「変なのは、正解だ。

夢も一応は、正解か?」


ギュンターに訪ねるが、ギュンターも唸る。

「…どう言やいい?!」


スフォルツァもラフォーレンも、呆れているようで返事しない。

ディンダーデンの理性的な声が響く。


「ギュンターの幻影判定に巻き込まれた。

だから過去の人物の中に入ってる。


別々の場所でな。

が、こいつ(アイリス)が言うには、空間的には居る場所が一緒だから、頭の中で会話出来るそうだ」


「???

だってディンダーデンの姿も無い…」


ディンダーデンはアイリスを、見た。

アイリスは頭を抱え、だが言った。


「ともかく、姿が見えなくても人間とは話せる」

「アイリス!…だってこいつ、人間じゃないのか?」


ディンダーデンが呟く。

「過去の幻影で、人間じゃない」

「…人間って、誰?」

「お前が『光の里』で会った近衛と、神聖神殿隊付き連隊の男達だ」


ギュンターがじれて怒鳴る。

「先に攻め込んだ銀髪の一族の中に、シェイルとディングレーが入ってる!

俺達が間に合わないと、奴らは死ぬ!」


「!どうして死ぬ?」

アシュアークの疑問に、オーガスタスがギュンターと反対側のアシュアークの横に並び付くと、怒鳴った。

「戦闘だからだ!」


「だって、夢なのに?!」

ギュンターとオーガスタスが、アシュアークを挟み目を、見交わし合う。


「言ったろう?だんだん操れるように成ると。

今は別人だが操れるに付け、お前そのものに成る。


体は『光の里』の寝台で寝ていて、ここに居るのは魂だけだが、それでもお前はお前。


斬られれば死ぬ」


オーガスタスに言われ、アシュアークは一瞬黙った。

「………全然解らないけど、要するに斬られなきゃいいのか?」


ギュンターも投げ出したくなって、吐息混じりに呟いた。

「要はそう言う事だ」


「なら大丈夫だ!」

明るく立ち直るアシュアークに、とうとうラフォーレンが頭の中で怒鳴る。

「アースルーリンド初期の戦いで、『影の民』の本体の異形がぞろぞろ居る中での戦闘だぞ!」


スフォルツァも怒鳴る。

「『光の民』の援軍が無いと、全滅するんだぞ!」


がアシュアークの笑みは、崩れない。

「それでも、斬られなきゃいいんだろ?!」


ギュンターはオーガスタスを見たが、オーガスタスは頭を下げて、深いため息を付いた。


それが聞こえたのか、スフォルツァがぼそり。と言った。

「俺達の苦労が、解るでしょう?」


ギュンターとオーガスタスは、無言で頷いた。



が、ローランデは必死にシェイルの気配に気を配ってた。

「…ギュンター…。

間に合いそうか?」


ローフィスの声も飛ぶ。

「シェイルを…頼む!」


ギュンターは無言で頷くと、拍車を掛けて速度を上げる。

オーガスタスが一馬身遅れ、拍車を入れて唸った。

「間に合わせる!」


アシュアークは二頭が飛び出すのに、慌てて拍車を入れて追い縋った。




「!」

ローランデもスフォルツァもラフォーレンも、ごった返す城の中で、目立たぬようこっそり、身を隠してる。


次々にアイリスの捕らわれた塔とは別の、二本目の塔から異形達が中庭に駆けつける。


そのぞっとする軍勢をラフォーレンは見、真っ青に成った。

飛び(イレギュレダ)が、傷を負い戻り来て、一頭が中庭に落下する。


どすん!


宙に居る時は小さく見えた。

なのに、落下した異形は黒々とした鱗に囲まれ、こうもりの翼はオーガスタスが有に二人分は有りそうな長さ。


胴回りも太く大きく、立てば見上げるような高さだった。


が顔は人間の形を残し、ひどく歪んで見えた。

翼の他に腕もあって、太く、ごつく、鱗で覆われその指先には鋭いかぎ爪。


足は竜のそれだったが、やはり鱗で覆われていて鋭いかぎ爪を生やしていた。


が右胸に太い、鉄の矢が刺さり、どうやら重傷の様子だった。

のたうつように翼と足を、蠢かせている。


塔から中庭に群がり出る異形達は城門へと一斉に向かっていたが、落下前にその場を開けて周囲に避難し、飛び(イレギュレダ)が重傷で動けないと解ると、一斉に群がり始める。


飛び(イレギュレダ)はその太い手で、齧り付く異形の胴を掴み、放り投げ…が見る間に群がり来る異形に喰らい付かれ、身を捻って叫ぶ。


ゥギァァァァオォォォォォォ!


身を返し、体に齧り付く魔達を振るい落とす。

が、異形達は進軍より仲間の“肉”に、夢中で喰らい付く。


スフォルツァもあまりのその異常な光景に、口を閉じ唾を、飲み込んだ。


飛び(イレギュレダ)が身を振る度、喰らい付く異形は跳ね飛ばされ

、その後の飛び(イレギュレダ)の固い鱗びっしりの肌は食い破られて血が、滴っていた。


飛び(イレギュレダ)の下敷きに成って動かぬ異形にも、別の異形が喰らい付く。


あまりの壮絶な光景に、ラフォーレンは戻しそうに成って口を手で押さえ、顔を背けた。


がローランデは頭の中で、微かな声で呟く。

「いいぞ…。

全員で共食いし、その数を減らせ…!」


スフォルツァははっとした。

ローランデの視界にその異常は目に入らず、彼が気遣うのは親友、シェイルの身のみ。


剣聖と呼ばれ、自分が斬りつけた敵が血飛沫を上げて倒れ伏しても、眉も動かさぬ程肝の据わった男ならではの発言に、スフォルツァも肝を据えた。


す…とローランデが振り向く。

その青の瞳は感情に溺れず強い意志が放たれ輝き、スフォルツァは促されるままローランデの背後に続く。


がふと足を止め、気づき振り向くと、まだ吐いているラフォーレンの俯く姿に、つい思い切り、その腕を掴み引く。


風のようにローランデの小柄な身は粗末な通用門を潜り、城下の様子を探るように身を隠しながら門前に続々と集結する、ガスパスの軍団を見やった。


が坂に成っているその下の、城下町の門前にも多くの護衛兵が、門を開けながら叫び、その門から次々に兵達が、門の外。

銀髪の一族が攻め込む戦場へと、解き放たれて行く。


が高い門に隔てられ、シェイルの戦う姿は見あたらない。


ラフォーレンが囁く。

「あの…あっちで戦う、黒髪の大きな男がディングレー殿では…?」

スフォルツァもローランデも首を振る。


確かに…遠目で小さく見えたが、軍勢の中でも一際体格良く黒髪を散らし、豪腕から一瞬で弧を描く剣と、血飛沫が飛び目前の敵が倒れ伏す光景を目にし、ローランデも頷く。


まだ…銀髪の一族の軍勢はガスパスの軍勢の数を、上回っていた。

狂凶大猿(エンドス)が混じるガスパスの軍勢は、戦力ではその数を上回る。


見ると狂凶大猿(エンドス)だけが、共食いに参加せず城門を抜け、城下門迄馳せ参じてる。


ローランデが顔を、歪める。

「…確か…狂凶大猿(エンドス)は自分の手で殺した相手しか、喰わないんだっけ…?」


その呟きに、ディンダーデンが呻く。

「…飛び(イレギュレダ)も同様だ。

だから他の魔より強く、同時に一旦動けなく成ると途端、仲間に喰われ数を減らす。


…が戦闘で敵に回すには最悪の相手だ。

喰らいたい一心で向かって来る。

奴らに取って戦闘は狩猟だ」


ローランデは唇を噛んだ。

頼りに成るアイリスが、捕らわれの姫で塔から動けない。


こちらで迂闊に動けば、スフォルツァとラフォーレンが危ない。

それに自分は城内で既に、お尋ね者の身。


ごった返す城の中、いつ事情を知った兵に、捕らえられるとも限らない。


「…ギュンター頼む…!」

ローランデの呻くような声に、ギュンターも唇を噛む。


オーガスタスが、唸った。

「ディングレーを、信じろ!

俺達は絶対間に合う!」


ギュンターは、ほっとした。

頭の中のローランデの気配は、肝の据わり頼れるオーガスタスの言葉で、明らかに安堵していた。


が、誰もが気配を探るが、ディングレーもシェイルも戦闘に集中してるのか、その声は響いて来ない。


ローフィスとゼイブンですら、ぷっつり声を発しない。


オーガスタスが真横で見ると、ギュンターは解ってる。

と言うように拍車を掛け、一層馬を、急がせた。




 ディングレーは開いた城門から、次々に押し寄せる兵に混じる、狂凶大猿(エンドス)の一際大きく毛むくじゃらの姿を見る。


が銀髪の一族達は、狂凶大猿(エンドス)に決して近づかず、飛び矢を使うか短剣を投げ、戦っている。


その、『影の民』との慣れた銀髪の一族の戦闘に、ディングレーは安堵した。

がシェイルは一時も、じっとして居ない。

一人殺したら直ぐ次。


まるで獲物を探す銀の髪の獣のように素早く、その居場所を移す。

今はまだいい…。

シェーンデューンの内は。


だが………。

ディングレーは目前を塞ぐ敵を一刀の内に斬り殺し、必死でシェーンデューンの、後を追った。



















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